第10話
そこから、心が満たされていくのを日々感じました。彼と話しているとき、彼が他の人とふざけあっているとき、彼の一挙手一投足が私をくぎ付けにしました。その笑顔がいい、彼には幸せでいてほしい、それでいてもし望んでいいのなら私にその笑顔をくれないか。そのように思うのです。日に日に願いは強くなり、私だけがその笑顔を見ていたいというように思ってきたのです。出過ぎた願いでしょう、そのようなことは私が一番わかっているのですが、それでも願うのなら他の一切を捨ててしまうのもいとわない、むしろ進んで投げうってしまうでしょう。それほどまでに心酔していますし、その思いは今も強くなるばかりです。こと、書いている今は夏休みで誰とも会っていないのです。もちろん彼ともその状況がより私を狂わせるのです。笑顔じゃなくてもいい、こちらを見てくれるだけでたまらない。それが苦悶や軽蔑だとしても。自分でもわかっていますとも。きっと異常なのでしょう。いつの間にか彼の幸せを純に願えなくなっているのですから、このままではいけないことはわかっています。どうにかしなければならないことも。
話がそれてしまいましたが、そのように思いを募らせていくにしたがってこれまで見えてこなかったものが見えてしまうようになってきたのです。彼と親しげに話しているアイツ、彼を呼ぶソイツ、彼は僕とは違ってひとりじゃない。わかり切っていたことを目の前に突き付けられ、頭が真っ白になりました。今考えるとおかしなことです。最初から住んでいる世界が違うなんてわかり切っていたことなのに、そのことから逃げていただけなのにそれだけなのに、その事実と目が合ってしまったことがいまでもつらい。私は今もおかしいままなのでしょう。でもおかしくなかったらと考えさせないほどに私を狂わせた君が悪いのです。
どうして君だけが他人から好かれてしまうのだろう。なぜ誰からも優しくされて、どうして人を愛せるのだろう。私にはその一切がわからないのです。誰からも好かれないのだから。きっと、私が君になれたとしても、私はどうしようもなく好かれることも、愛することもできないのでしょう。つまり、私は私だから愛の才能がなくて、君は君だからその才能に愛されているということなのでしょう。でも、そのことを憎んでいるわけではないのです。だって、君がその才能に愛されていなかったら私は君のことをここまで思うことができなかっただろうから。だからせめて、私にその才能がないのならせめて、その笑顔を私に向けてはくれないだろうか。僕は君にとって唯一の友人ではないことが許せない。お互いに対等とは言えないと思う自分が間違いなく心の中にいる。それでは彼は幸せにはならない、しかし確かに私が言っている。けど実際にそうしないのは嫌われてしまうかもしれないから、そうなってしまったらもう何もどうすることもできない。私は醜いけど君のそばにいたいでも私は君の隣にいることを許さない。もし君が隣にいてもいいと言ってくれることは、喜ばしくもあり悲しくもある。そんな自分たちが確かにいるのです。
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