第3話

 彼の話をする前に簡単に僕の出自なんかについて話しておこうと思うよ。僕は生まれは関東の方だったんだけども中学に上がるころ関西の方にきて、高校、大学、会社も全部こっちの方で過ごしてきたんだよ。実際この風土が好きだし過ごしやすいと思っているよ。別にほかのところが嫌いってわけじゃないんだけどね、家の方が落ち着くのと同じなんだろうね。でも自分が関東の方で生まれたのが信じられないくらいに落ち着くんだよ、さっきから関東って濁しているのはね、実はどの県で生まれたかよくわからないんだよ。正確に言えばよく知ろうとしなかったんだけどね、親から聞かされた時は県名は言われなかったし、調べればわかるんだろうけどそこまで興味もないしね。話がそれたね、年を取ると話が長くなって聞き手にとっても話し手にとっても困るね。

 中学の頃の僕はね、自分で言うのもなんだけれど明るい少年だったよ。越してきたのにすぐにクラスになじんで中心人物になったことを今でも覚えてるよ。でも勉強はできなかったからお世辞にも賢いとは言えない高校に入学したんだ。そこであったのが、大西直治なんだ。実は後で知ったことなんだけど、直治は中学の同窓だったそうなんだけど、当時の僕はそんなことまったく知らずに話しかけたんだ。直治への正直な第一印象は薄暗くてパッとしないじめじめとした裏路地のような奴だった。周りには誰もいなかったしずっと一人だったけどそんな奴にわざわざ声をかけたのは何か惹かれるものがあったんだと今思い返してみればそう思う。実際、話してみると案外面白いやつですぐに彼を気に入った。

 なんとなく察しが付くだろうが、僕は生来人付き合いが得意な方だった。事実、これまでの人生人について困ったことは何もなかった。勝手に人が集まって協力してくれる、付き従ってくれる、時には諭し寄り添ってくれる人が自然にできた。高校の頃も何ら変わりなく、友達はすぐにたくさんできたし、直治もその一人だった。皆が僕のことをヒデと呼ぶので彼もいつしかそう呼ぶようになっていた。また、少なくとも当時の僕にとって彼は単なる友人の一人に過ぎなかった。

 彼が僕以外の人と話しているのを見ることはなかったし、それ自体は彼への第一印象を考えてみれば特段不思議なことでもなかった。ただ、僕にだけは彼から話しかけてくれたしそのことのついて不快に感じることはなく、むしろ一緒にいて楽しいやつだったからうれしかった。そのことが気に食わない人たちにとっては陰口の種になるのは当たり前で、よく金魚の糞だといわれていたらしい。僕はそのことを聞くたびに馬鹿正直に抗議していたけど、むしろ逆効果で彼の陰口が増えていく要因にもなったんだと思う。

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