第4話 最初からやり直し
思った以上に集まってきた魔物のランクは高かったようだ。
商人たちに雇われた冒険者たちもそれ相応の実力があったけど、多勢に無勢で被害が出始めている。
今の僕のままじゃ何もできないから、という事でエルメオを置いて御者台から降りて人目に付かないエルメオの荷車の中に潜り込み、ギフト『変身魔法』を使う。
変身するのは、数年前にマリアベル様の下に訪れた勇者と呼ばれていた少女だ。
背丈が若干低くなり、髪の毛の色が変わる。胸元も若干苦しくなったけど、少し大きめの服を着ていたので問題なかった。
着替えている余裕はないので、ローブについているフードを被り、魔力を込める。ローブは以前から愛用していた認識阻害の魔法が付与された魔道具だ。
マジックバッグから得物を取り出して荷車の後ろから出ると、体に魔力を纏わせて駆け出す。
久しぶりに近接戦闘を得意とする者に変身した事もあり、なにより性別が違うから若干動作が危なっかしいけど、なんとかなるだろう。
魔法剣を鞘から抜き放ち、近くの冒険者にとびかかっていた大きな狼系の魔物を両断する。
流石に認識阻害の魔法が付与されていようと、攻撃をすれば注目は集まってしまう。
新たな獲物に怯む様子もなく、狼系の魔物たちが連携を取りながら攻めてくるが、変身したこの少女の能力の前では、大きな体躯も、鋭い牙も意味をなさない。
彼女の『雷光』という二つ名は伊達ではなかった。
怪我を負う事もなく、周囲の魔物を掃討するのにも時間はそれほどかからなかった。
「いやぁ、あの謎のローブの人物って誰だったんだろうなぁ。動き的に女だったんじゃないかって冒険者たちが言ってたけど……兄ちゃんも荷車の中に逃げ込まなければ見る事ができたのに、勿体ない」
「別に、興味ないし」
「拗ねんなって。ほら、この肉上手いぞ! もっと食え! そんなヒョロヒョロだとロージアンに行ってもできる事がないぞ!」
「いや、何とでもなるから」
商隊は魔物の襲撃を逃れ、次の目的地である街に到着する事ができた。
エルメオは生きている事に感謝をしつつ、酒を飲んでいる。めちゃくちゃ絡んできて鬱陶しい。
強引に皿の上に置かれた分厚いワイルドボアのステーキを切り分けて食べる。……宮廷料理と比べたらそりゃ味は落ちるか。
上手い物ばかり食べていたから舌が肥えてしまったようだ。
あんまり贅沢をする訳にもいかないし、別に食べられない味じゃないからとりあえず食事を続けた。
酒を飲み過ぎたエルメオを宿の女将さんに任せて、僕は一人で冒険者ギルドに入った。
どこの街にもある冒険者ギルドは、大体似たような間取りをしている。
冒険者たちが仕事終わりの一杯を飲みながら騒いでいるのを横目に、閑散としている受付に向かった。
冒険者の姿も、職員の姿もほとんどない受付に近づいて行くと、唯一いた女性職員さんと目が合った。
「こんばんは」
「こんばんは」
挨拶をされたので返すと、彼女は「本日はどの様なご用件でしょうか?」と尋ねてきた。
「冒険者証の再発行をお願いしたいです」
「かしこまりました。少々お待ちください」
女性職員さんはテキパキと仕事を進めてくれたので、そこまで時間はかからなかった。
ただ「何回も紛失する方には再発行できませんのでご注意ください」と釘を刺されてしまったけど。
無くさないように首飾りのようにして首から下げた冒険者証は金属製のプレートに名前が書かれている。
ランクによってプレートの素材となる金属が変わるんだけど、僕はどうやらランクが下から二番目まで落ちていたようだ。
一番下は仮登録者や幼い子たちのためのランクだから実質の最低ランクだ。
上のランクを目指すのもありだし、必要最低限まで上げて、必要なお金を稼ぐためだけに使うのもありだろう。
故郷のロージアンにはダンジョンが近かったから、ある程度歳をとった冒険者は安定的に稼げる狩場を見つけて生活をしていた。
あの人たちのようになりたいか、と問われると微妙だけど、何物にも縛られずに自由に生活するのであれば、あの人たちのように安定的に稼ぐ手段を見つけるのはありだと思う。
「そのためにはまずランクを上げる必要があるんだけど……今のランクじゃ受けられる依頼はないよなぁ」
ボードに張り出されている依頼はどれもこれも難易度が高めだったり、ちょっと時間がかかったりする物ばかりだ。
明日には出発するわけだし、唯一受けられそうな常設依頼を覚えておいて、道中で見つけたら拾っておこう。
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