第3話 縄張りが変わってしまったらしい
「王都のど真ん中で魔物が出たらしい」
「王都に!? それまでに見つかる事なかったのかよ」
「それが、ギルバード様が召喚魔法を使って呼び出したらしいぞ」
「ギルバード様が!? ……って、誰だったっけ?」
「マリアベル様の弟君のギルバード様だよ」
「あ~……そんな人も、いたような気がするなぁ」
庶民に人気がなさ過ぎて、ギルバード様の知名度が低すぎる件について。
その後ギルバード様がどうなったのか気になったので王都から少し離れた街の居酒屋に潜り込んで聞き耳を立てていたけど、どうやらファスタ公爵――じゃなくて、アーノルド陛下が良い感じに静めてくれたようだ。
国家を転覆しようと目論んだギルバード様が、分不相応にも龍種を召喚しようとして出てきたドラゴンに家を壊滅させられてしまった、という事になっているようだ。
これでもうギルバード様はお終いだろう。
確認したい事は確認したので、故郷の方面に向かうっぽい商人たちと一緒に街を出た。
数台の馬車を囲うように複数の冒険者パーティが周囲の警戒をしている。
今はまだ街が近いから大丈夫だけど、街から離れれば離れるほど魔物や盗賊など襲撃に会う確率が高くなる。
だから商人たちはグループを作って目的地まで固まって移動していき、共同で冒険者を複数組雇うのが普通らしい。
「ロージアンに行くって事は兄ちゃんも冒険者として一旗揚げたいって感じか?」
「いえ、故郷に帰ろうかと思いまして」
僕は御者をしている男性の隣に座って話し相手になっていた。
このグループのリーダー格の商人にお金を渡し、荷物と一緒に運んでもらう事になったのだが、御者の男に話し相手になってくれと言われて今に至る。
御者の男はエルメオと名乗った。ここらでは見かけない日に焼けた黒い肌に黒い髪と瞳を持つ男だった。どうやら南の方からひたすら北に向けて商いをしながら進んでいるらしい。
ちなみに、『兄ちゃん』と呼ばれた僕の今の見た目は変身魔法を使っていない状態の僕だ。歳は同じくらいに見られていると思うんだけど、『兄ちゃん』って呼ぶのはなんでだろう?
僕の疑問を気にした様子もなく、エルメオは口元に笑みを浮かべながら僕の方に視線を向けてきた。手綱を握っている時は前を見た方が良いんじゃないかな。
「ロージアンってあれだろ? この国の最北端にある街なんだろ?」
「開拓村とか除けばそうなんじゃないか?」
「じゃあ雪って降るのか?」
「まあ、冬になると降るな」
「そっか! 一度見て見たかったんだよな~」
「……もしかして、そのためにずっと北上してきたのか?」
「ああ。絵物語で見た街の景色が本当に実在するのか、この目で見て見たかったんだ!」
「雪なんて面倒な事ばかりなんだけど……まあ、見た事がないなら見てみたいって思うものか……?」
ちょっと理解できないけど、エルメオがそういうんだからきっとそうなんだろう。嘘を言っているような様子はないし、嘘を吐く必要性もないだろう。
そもそも、目的を隠したいなら黙っておけばいいし。
「街が雪に覆われた景色を見た後はどうするんだ? 今度は南下していくのか?」
「いや、特には決めてないな。南の方の国々でいろいろ売買したからそれを売って、資金が貯まったら店を開くのもありかもなぁ。どんな店が良いと思う?」
「ここ十年くらい帰ってないから分からん。辺境だし、魔物が出やすいから冒険者向けの店でも開いたらいいんじゃないか?」
「なるほどな。近くにダンジョンもあるんだろ? それを目的に進む仲間が他にもいるみたいだし、俺もそうしようかな。もしそうなったら、兄ちゃんも是非うちに来てくれよな!」
「俺は冒険者じゃないんだが……」
だけどそうだな。どうせ仕事をしなくちゃいけないわけだし、冒険者として活動をするのはありかもしれん。
だいぶ前に登録だけしておいたけど、冒険者証はどこにやったかな。
荷物の中に入っていたかな、と『マジックバッグ』と呼ばれる魔道具の中を漁ってみたけど、それらしきものは入っていない。再発行する必要がありそうだ。
そんな事を考えている間もエルメオはお喋りを続けていたけど、急に周囲が慌ただしくなった。どうやら周りの人も気づいたらしい。
「なんだ、どうした!?」
「魔物の襲撃みたいだな」
「この規模の商隊なのにか!?」
「ここら辺じゃあまりいなさそうな魔物の気配がする」
前の街を出立する前に集めていた情報通り、どうやら少し前から魔物たちの生息範囲が変わってしまっているようだ。
どうしてそうなってしまったのか心当たりしかないけど、僕は今、冒険者として活動しているわけではない。とりあえず、護衛としてついて来た冒険者に任せる事にしよう。
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