13 神の裁き
甲高い金属音が混ざった発射音。ツクシはカミナリを怖がる子供みたいに耳を押さえていた。
先頭にいた山賊のヒザに粉塵があがる。次の瞬間には、見えない手で脚を掴まれたかのように馬から引きずり降ろされていた。
「ぎゃあーーーーーっ!?」
なにが起ったのか理解できていない悲鳴。
グンニグルの弾丸にはエレメントが埋め込まれているので、発射後にも制御が可能。いまは命中後にストッピングパワーを高める設定にしてある。
轟音がコンクリートを震わせるごとに、ひとり、またひとりと倒れていく。大樹の鳥たちが追い立てられるように飛び立っていった。
1分掛からず全滅。死屍累累となった一団の手前で、ドリフトして停車する。
馬はとっくに逃げ去り、山賊たちはヒザを抱えて転げ回っていた。
「いでぇ、いでぇよぉーーーーっ!? ヒザが、ヒザがぁぁぁーーーーっ!?」
「だ、誰か助けてくれぇっ! 死んじまう、死んじまうよぉーーーーーっ!?」
「な、なにがどうなってんだ!? 魔法か!? 魔法なのかぁーーーーっ!?」
ツクシが耳を押さえたまま、ドヤ顔で言った。
「これぞ神の御業です! アンノウン様の手心がいただけるいまのうちに、悔い改めましょう!」
俺はいちおう言い添えておく。
「悔い改めるのもいいが、このあとすぐに馬車の集団が通るから、轢き殺されたくなけりゃ横によけとくんだな」
すると山賊たちは泣き叫びながらもゴロゴロと転がって路肩に避難していた。
「よし、あとは後ろのヤツらを片付けるぞ」
俺はアクセルをふかしてテールスイングをかまし方向転換、息もつかせぬフルスロットル。
「はひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
加速でのけぞるツクシ、パイスラッシュがいっそう強調されて思わず目が奪われてしまいそうになった。
誘惑を振り切るように加速して、マーチャンたちのところに戻る。
マーチャンたちは後続の山賊たちと交戦を開始しており、遠距離からクロスボウの撃ち合いをしていた。
『モンスターとの距離、50メートル。クロスボウの有効射程ちょうどなので、命中率は低いでしょう。まだ誰も被弾していません』
「そっか、間に合ってよかったぜ」
バックギアに入れると、リンドブルムは急停車。ぐんっ、と身体が前に倒れたあと、タイヤは逆回転をはじめ後ろに走りはじめる。
ツクシは前に後ろに揺さぶられていた。
「リンドブルムさんは、後ろにも走れるのですか!? まさに、神のお馬さんですっ!」
進行方向に向かって走ると後ろ向きに撃つことになる。その体勢でヒザを狙い撃ちするのは大変かなと思ったので、俺はリンドブルムをバックに走らせながら射撃をした。
銃声が轟くと商人たちはクロスボウを撃たなくなり、みんな帆馬車から身を乗り出して俺を見ていた。
「な……なんだ……!? なにが起ってるんだ……!?」
「あの杖みたいなのが火を吹くたびに、山賊が倒れていってる……!」
「あの護衛、魔法使いだったのか……!?」
「そんなわけあるかよ! クロスボウより遠くまで届く魔法なんて、大魔法クラスだろ!? それを詠唱なしでやってのけるなんて……!?」
「ま……まさか、あの男は……!? いや、あのお方は、本当にアンノウン様なのか……!?」
止めどないマズルフラッシュ。
ツクシは耳を押さえたまま銃口から目を離さない。まるで花火を初めて見る子供のような表情だった。
「きれい……! 神の裁きというものが、こんなにも美しいものだったなんて……! ああっ、神様っ……!」
花火大会を開始してから1分後、山賊たちは馬上から消えた。
馬は逃げ去る。その場に取り残されて、殺虫剤をかけられたイモムシみてぇに地面でのたうつ姿もそのうち見えなくなった。
「後片付けはいらねぇよな」
ひと仕事終えた気分でグンニグルをリンドブルムのホルダーに戻そうとすると、頭の中で声がした。
『前方50メートル、樹木の上に複数のモンスターを確認』
「なに?」
50メートルなら肉眼でも確認できる。しまいかけたグンニグルをふたたび構えながら探したが、人らしき姿は見当たらなかった。
『樹木の裏に貼り付くようにして隠れています。【
「マジかよ」
マジだった。馬車が樹木のそばを通り過ぎようとしたとき、山賊たちが幹の陰から姿を現わす。
「待ちやがれ! この山をタダで通ろうったってそうはいかねぇぞぉ!」
「仲間をやりやがってぇ! ふざけた商人どもは皆殺しだぁ!」
「かえって高くついたな! ヒャッハー! やっちまえ!」
山賊たちは枝を伝って道路の真上までやってきて、蛮声とともに次々と馬車に飛び移ってきた。
「す……スピードをあげて振り落とすんだ!」
マーチャンの号令一下、御者席の商人たちは手綱を打ち鳴らす。
しかし山賊たちは脅威のバランス感覚で帆馬車の屋根を伝い、御者席を狙いにかかる。
馬車を停めさせるのではなく、馬車ごと乗っ取るつもりらしい。
山賊たちが虫の群れのごとく馬車にたかったせいで、場はいっきにパニックになった。
「くそっ、これじゃ狙ってるどころじゃねぇ。もうどうなっても知らねぇぞ」
俺はグンニグルを腰だめに構え、頭上に位置する山賊の腹めがけて次々と発砲。
弾丸がどてっ腹に突き刺さると、山賊たちは見えないボディブローを食らったみたいに身体をくの字にのけぞらせ、空高くブッ飛んでいく。
「ぐふっ!? ひぎゃぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!?」
馬車から落とすだけでよかったんだが、飛距離がつきすぎてそのまま高速道路をオーバー、尾を引く悲鳴とともに次々と高架下へと落ちていった。
「く……くそっ、ナメやがってぇ! アイツだ! あの鉄の馬の野郎を先にやっちまえ!」
山賊たちは標的を俺に変更。屋根の上からボディプレスの要領で、俺めがけて一斉に飛びかかってくる。
その光景は筋肉爆弾によるじゅうたん爆撃のようで、ツクシは「きゃああっ!?」と頭を押さえて縮こまっていた。
しかし俺はちっともあわてず、ブレーキをかけてその場で急停止。
山賊たちは目標を失い、目の前のアスファルトにびたんと叩きつけられていた。
うつ伏せの大の字で「いてて……」と蠢くヤツらの前で、エンジンをふかす。
ハッ!? と俺を見るヤツらの顔は、土蹴りをしている鉄のイノシシがそこにいるかのように恐怖でひきつっていた。
「かえって高くついたな」
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