04 第1村人発見
スマートウインドウにさらなる反応、しかもより大きな光点が現れる。
『1キロ前方にモンスターの集落があります』
「さっきのゴブリンどもの寝ぐらだな!? よし、そこに向かうぞ! 皆殺しだぁーっ!」
と意気込んで向かった先は、森に囲まれたひっそりとした村だった。
ゴブリンではなくて人間の村人が住んでいて、しかも襲撃を受けている真っ最中。
自警団らしき村の男たちはすでに倒されていて、悲鳴が鳴り止まない村の前で俺は呆然としていた。
「お……おい、テス! これはいったい何なんだよ!?」
『モンスターの集落です。どうぞ、心おきなく皆殺しにしてください』
「モンスターじゃねぇよ! どう見たって人間の村だし、住んでるのもどう見たって人間だろうが!」
『こちらは異世界からの生物は、すべてモンスターという呼称で統一しています』
「マジかよっ!?」
ってことは、異世界の人間もこっちに来てるってことになる。
もうワケがわかんねぇが、いまはあれこれ考えているヒマはなさそうだ。
「くそっ、しょうがねぇな! 行くぞ!」
『いまのマスターの力量なら容易に皆殺しにできると思いますが、油断は禁物ですよ』
「しねーよ! 村人を助けるぞ! グンニグル、キャプチャーモード!」
俺はリンドブルムから飛び降りると、キャプチャーライフルを構えて村に特攻をかける。
村のゲートをくぐると、いかにも山賊といったナリのむくつけき男たち四人が、棍棒や斧を振り回して村人たちを追い回していた。
「ヒャッハー! やりたい放題だぜぇ!」
「おい、ジジイとババア以外は殺すなよ! 奴隷として売っ払えば、いい金になるんだからな!」
「このガキは俺がもらうぜ! ションベン臭ぇが、いい女になりそうだ!」
「いやぁっ、助けてくれろ! おじいちゃん!」
「お、お願いしますだ! この子だけはどうか……! おらはどうなってもいいですから!」
「へへっ、お頭の言うことを聞いてなかったのかよ! お前みたいなジジイは死ぬしかねぇんだよ!」
「い……いやっ! おじいちゃんを殺さないで! いやぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」
山賊のひとりが棍棒を振り上げる。無慈悲な一撃がいままさに振り下ろされようとしていたが、
「ギャンっ!?」
と蹴飛ばされた犬のように吹っ飛んでいった。
「な……なんだ!?」「おい、なにがあった!?」「あ、あそこだ!」
山賊たちが一斉に俺を見やる。
「だ……誰だテメェっ!? 妙ちきりんな格好しやがって!」
俺は【エクソリトンスーツ】という、エレメントでできた全身スーツを着ている。
真っ黒で未来的なフォルムをしているので、異世界の人間からすればかなり異質に見えているかもしれない。
「ふらっと立ち寄った、お前らの死神さ」
三点バーストで撃ち放たれた弾が、山賊どもの胸に突き刺さる。
青い電撃が身体をじゅうを走ったあと、弾ける火花とともに次々と吹っ飛んでいく。
我が物顔で暴れ回っていた山賊たちは四人とも、白目を剥いてピクピク痙攣していた。
キャプチャーモードの弾丸は殺傷能力はごくわずかだが、着弾時に弾丸から高圧電流が発生して、当たったヤツをショックで動けなくする効果がある。
村人たちは、本物の死神を見るような顔で俺を見ていた。
「い……いまのは、いったい……?」「あっ、あの……おめえさんは、いったい……?」
「話はあとだ! いまは安全な場所まで逃げろ!」
しかし村娘とその祖父らしき男は逃げるどころか俺に向かってきて、足元にすがりついてくる。
「あ、あの、救世主様! お願いがありますだ!」
「どうか
ふたりが指さした先は、村の中央にある教会のような白い建物。
「あの聖堂の中に、聖皇女様がおりますだ!」
「聖皇女様になにかあったら、おらたちは……!」
ウンと言わないと離してくれそうにない雰囲気だったので、俺はやけっぱちになった。
「ああもう、なんだかよくわかんけねぇけど、わかったよ! わかったから、さっさと逃げろ!」
「「あ……ありがとうございますっ!」」
泣きながら礼を言う村人たちを置いて、俺は村の奥へと走る。
途中で出くわした山賊たちを、スタン弾で気絶させながら。
村の中央広場に面した聖堂に到着。周囲のクリアリングを行ない、閉じられた両開きの扉に用心深く近づいていく。
ドアノブに手を掛けつつ聞き耳をたててみると、山賊たちの野太い声と、若い女とおぼしき声が交錯していた。
俺は音を立てないようにゆっくりと扉を開こうとしたが、鍵が掛かっているようで開かない。
「しょうがねぇ、こうなりゃ出たとこ勝負だ」
鍵穴に銃口を向けたところで、テスの声がした。
『施錠だけでなく、扉の向こうはバリケードによって塞がれています。村人たちは、この中に立てこもっているようです』
「マジかよ、じゃあ山賊どもはどうやって中に入ったんだ?」
『おそらく内通者がいたのだと思います。行商人などのフリをして村に入り込み、村の外にいる仲間を呼んで村を襲うのは山賊の常套手段ですから』
「じゃ、正面からの突入は無理ってことか。テス、他にいい手はあるか?」
『では、グレネードランチャーで建物ごと爆破してはいかがですか?』
「そんなことしたら中にいるヤツらがみんな死んじまうだろ」
『なにか問題でも?』
「ったく……お前は異世界のヤツらには容赦ねぇんだなぁ」
『はい。こちらの生命遵守の優先順位としては、害虫以下となっています』
「ゴキブリ以下かよ」
テスの戦闘指南はいつも的確だが、異世界の人質が絡むと役立たずになるようだ。
こうなったら自分だけでなんとかするしかないと思い、手掛かりを求めて建物を見上げる。
空からは虹色の光が降り注いでいて、それはやがて天啓となって俺に舞い降りた。
「よしっ、こうなったら……
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
聖堂の内部は礼拝堂に近い。普段は訪れた信者が座るための長椅子が並べられているが、いまは入り口に積み上げられている。
広々とした空間の中で、白いローブをまとった少女たちが、浅黒い肌の男たちに囲まれていた。
「げへへへへ、どいつもこいつも上玉じゃねぇか!」
「しかも聖女とくりゃ、高く売れそうだなぁ!」
「待て待て、まだわかんねぇぞ、味見してみねぇとな!」
「それもそうだな! 外にいるお頭が来たら取られちまうから、いまのうちに……!」
じりじりと包囲網をせばめてくる男たちに、少女たちは震えながら身を寄せあう。
しかしその中でひとりだけ、白薔薇のティアラをした少女だけは気丈に男たち睨み返していた。
「あ……あなたたちが旅の商人さんだったというのはウソだったのですね!? 聖堂でウソをついてはいけません!」
幼い子供を叱り付けるような一言に、男たちは一斉に笑う。
「ぎゃははは! なに言ってんだコイツ、いまごろ気づいたのかよ!」
「ここに立てこもらせたのは、お前の力を使えなくするためだったんだよ!」
「ひひっ、ウワサどおりのお姫様っぷりだな! いちど、お姫様ってのをヤッてみたかったんだ!」
男のひとりが辛抱たまらんとばかりに歩み出て、ティアラの少女の細腕を掴む。
それを合図として、男たちは野獣と化した。
「い、いやっ!?」「なにをするのです!」「離して! 離してぇ!」
「そう言うなって! 長い付き合いになるんだからよ!
「そうそう! 大人しくしてりゃ売るのはやめて、俺たちが一生かわいがってやっから!」
男たちに押し倒され、泣き叫ぶ少女たち。
しかしティアラの少女だけは、気丈さを崩さなかった。
「こ……ここは聖堂です! 神様が見ておられますよ!」
「ぎゃははは! まだそんなこと言ってんのかよ! コイツ、面白ぇなぁ!」
「こっちの世界にゃ、神サマなんかいねーんだよ!」
「いいえ! こちらの世界にこそ、神様はおられます!」
「へへぇ、たいした自信じゃねぇか! なら、その神サマとやらに助けを求めてみろよ!」
「ほぉら、見ててやっから祈ってみな!」
ティアラの少女は男に馬乗りにされて両手を押さえつけられた状態のまま、瞼を閉じて念じはじめる。
「神様……! ど……どうか……罪深き者たちに、裁きを……!」
「どうしたどうしたぁ! ちっとも裁きがこねぇぞぉ!?」
「おいおい、コイツ泣き出しちまったよ! 泣いても、神サマは来てくれまちぇんよぉ~! ぎゃははは!」
「おらっ、もっと泣け! 喚け! お前はこれから、祈る気も起こらねぇくらいメチャクチャにされるんだからな!」
「さあっ、これがお前に許された最後の祈りだ! 精一杯鳴きやがれっ!」
「あ……アンノウンさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
全身全霊の少女の叫びが、聖堂内にこだまする。
しかし、神の
が、その声はたしかに届いていたのだ。
名もなき男の元に。
「……呼んだか?」
その声は、空からした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます