第9話『結晶の城ロードクリステラ』


 ティリーナは視線を感じていた。


「どうした?」

「いや、うん……周りから凄い見られるなっと思って」


 ラムダと街を歩いていると、奇異の目で見られてる気がしてティリーナは何故か居心地が悪かった。

 見惚れているとか、そんな目線ではない。

 なにか珍しいモノを見たとでも言わんばかりの視線だった。

 さして大したことでもないと言わんばかりにラムダは小首を傾げた。


「そうか?気にすんなよ」

「そもそもなんでラムダもお城に行くっていうのに腰に剣を差してるの?」


 ティリーナの視線の先には、ラムダが前に天上院襲撃の際に使っていた特徴的な赤い剣が差してあった。

 剣といっても、どちらかというと板のようなもので、刃はなく、また剣先も四角く角ばっており、突くことも出来ない。

 ただでかい。ラムダの身長の3:2ぐらいの全長があり、とにかく異様な雰囲気を纏っていた。


「ん?いつ襲われてもいいようにってな」

「そんなに治安悪いのこの街……?」

「悪い」

「マジ?」


 そういわれて、頬がひきつる。

 するとルルが「怯えさせないで」とラムダを叱り始めた。


「確かに治安そのものは良くないんだけど、ラムダがこの街にいる限りは絶対安全だよ」

「どうして?」

「ラムダに昔こっぴどくやられたからね」

「っと言っても昔の話だ。この街は慢性的に貧富の差がひどい。腹が減れば他者から奪えばいいなんて、そんなの獣でも知ってることだ」


 嘆くように言う彼の言葉には、何処か憂いの兆しがあったように感じた。


「まぁ、それでも周辺の国よりは大分マシだ。流行り病による飢饉が起きる心配はないし、仕事なら死ぬほどある」

「そっか。ラムダはこの国の出身なの?」

「いや……まぁ、第二の故郷ってとこだな」

「詳しいんだね」

「まぁな」


 嬉しそうに話す彼は、何処か心穏やかな口調だった。


「……鎧を着た人が多くなってきたね」

「流石に城が近いとこなら騎士連中も多いだろ。見慣れておかないと、緊張で倒れるぞ?」

「この状況で緊張しない方が無理だよ…」

「まぁ頑張れ」


 そういって先を歩くラムダの背中を追っていると、広い場所に出た。

 クリスタルで乱反射する光を帯びる城の目の前の、大きな噴水がある広場だった。

 噴水の周りでは数人の子供たちが遊んで居たり、恋人同士が憩いの時間を過ごしている。

 ラムダ達はそんな人達を横目に見ながら、城の方へと向かっていく。


「すごい。綺麗な場所だね」

「ヘカーティア噴水広場って言ってな。家族連れや恋人がよく来るんだ」

「お城の前なのに、なんだか皆楽しそうにしてるね」

「ちょっと前だったらありえなかったんだがな。今の皇帝になってから随分と雰囲気が良くなったんだ」

「へぇー、皇帝って人はきっと優しいんだね」

「どうかな……」

「うーん」


 皇帝のことを褒めると、何故かラムダとルルは視線を反らせた。


「なにしたの」


 ティリーナは二人がきっと何かやらかしたのだろうと、察知した。


「まぁ俺達空賊だしな……」

「そうそう。上流階級の人達の心象が悪くても仕方ないよね」


 そういう彼らの視線は、凄い明後日の方向に泳ぎまくっていた。





 城の目の前までくると、流石に太陽の光で跳ね返りまくる光に、ティリーナは目を細めた。


「流石にまぶしいね。このお城」

「結晶の城ロードクリステラだ。相変わらず自己顕示欲の塊みたいな城だな」

「待て。通行証を見せてもらおう」


 城の門番に止められて、ラムダは端末を門番に見せた。

 端末の画面には水晶と月が彩られた判による書簡が書かれており、それを見ると門番は「よし、いいぞ」と言ってラムダ達の道を開けた。


「相変わらずここの門番は偉そうだよね」


 そう言って憤慨するルルを、ラムダは「まぁ、仕方ねえよ」と宥める。

 門番が自ら門戸を開き、三人が中に入っていく。

 内装は意外と落ち着いた雰囲気に包まれており、外が七色に光っているのであれば、内装はまるで金色で出来た宮殿のような彩りだった。

 ただただ豪華という言葉でかたずけられないほどのスケールに、ティリーナは圧倒される。


「なにあれ、私……?」


 天井を見ると、七色に太陽の色を変化させて煌めくステンドグラスのアートがあり、そこには青色の髪を持つ少女が描かれていた。


「……ご満足頂けましたか?」

「貴方は……?」


 ステンドグラスに意識を取られていると、階段上から声がかけられて、ティリーナはそこに視線を向ける。

 そこには、銀色の髪を持ち、銀色の瞳を有する、軍服を着た女性がそこにいた。

 横には、先ほどラムダにおっさん呼ばわりされたディンが控えていた。


「私は、コルネ=ディアノート。このディアノート帝国の現皇帝となります」

「……皇帝って……王様!?」

「はい。その認識で間違いございません。ようこそいらっしゃいました」


 傍にいるディンを伴って、ティリーナの方へと歩み寄り、コルネはティリーナの前に膝をついた。


「え、えっ!?」


 その余りの光景に、ティリーナ自身がとてつもなく狼狽する。


「今日のご来訪、誠にうれしく思います。我らが星辰機関の創設者様……」

「星辰機関……!?」


 まさかの名前にティリーナが驚いて、言葉を失う。

 そうしていると、ラムダが横から声を入れてきた。


「おーい、俺達には挨拶ナシかー?」

「感動の最中に茶々を入れないで頂けますか?」

「さいですか」


 鎧袖一触。

 余りの言い草にラムダも口を紡いだ。


「とは言えど、此度の活躍には相応の礼儀を尽くさねばなりませんね……失礼致しました」


 そういうと立ち上がり、コルネはラムダに大して頭を下げた。

 意外だったようでラムダも、思わず居住まいを正した。


「お?意外と素直だな今日は」

「ええ、あなた方にはもうひと働きして貰わねばならねばなりませんから」


 ラムダの目が鋭くなる。


「……面倒ごとか?」

「面倒、で済めばよろしいのですが……」

「姫様、ここでの言及はお控えを」

「分かっています。では執務室の方へ案内致します」


 そういうと、ティリーナ、ルル、ラムダは皇帝の後を付いていき、階段を上る。

 横を歩くルルに、ティリーナは小さく耳打ちした。


「皇帝様……なんで軍服なの?」

「さぁ?」

「……」


 細かいことはツッコまないことにした。

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