第10話 静かに蔓延する「となる」ウィルス

 例えば「こちらがお探しの商品となります」といった場合の「となる」については、拙文「エッセイ『新聞を添削する!』」第11話「新聞よ、お前も『~となる』か!」に書きました。

 しかし、日頃あまりにも頻繁に目にするので、本エッセイでも取り上げたくなってしまいました。


 「新聞を……」に書いたとおり、『新明解国語辞典 第8版』には、このような「なる」の用法が例示されていて、「〔レストランなど接客の現場での俗用〕こちらがご注文の品」(傍点は私、以下同じ)とあります。

 なお、『広辞苑 第7版』には、そのような用法は記載されていません。


 国語辞典に掲載されている用法であり、誤用とは言えないと思います。

 しかし、あまりにあちこちで目にするので、私はウンザリしています。言葉に対して、神経質すぎるのでしょうか?


 例えば最近、ある公証人役場のウェブサイトを見ていました。

 「ご利用のお知らせ」というページに、次のような文章がありました。


「(前略)当役場の専用の駐車場No.は、11番、12番。共用は14、18、19番です。開所時間は午前9時から午後5時まで(12時から午後1時まではお昼休み)。2023年の年末は12月28日まで、2024年の年始は1月4日から。」


 どうでしょう。「となります」のオンパレードです。逆に、「14、18、19番」の部分だけ「です」が使われているのが、なぜだろうと訝しく思われます。気まぐれか、ちょっと変化を持たせたかったのか?


 上記文章の「となります」は全部、「です」と言えば済むのではないでしょうか?


 今や、このような「となる」の使用を見かけるのは日常茶飯事ですが、私はどうも気になって仕方ありません。

 それは、私が、文章というものは簡潔平明を旨とすべきだと考えているからかもしれません。


 なぜ、多くの人が「となる」を使いたがるのでしょうか?

 ひょっとして、「となる」「となります」は、「だ」「です」より丁寧な言葉遣いだと思っているのかもしれません。


 私はこれまで、「となる」の多用に関する指摘を見たことがありません。

 誰も気が付かない、あるいは意識しないうちに、目には見えないウィルスのように、静かに蔓延しているかのようです。

 もっとも、新型コロナのように実害を伴うウィルスではありませんが。


 

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エッセイ「ヘソ曲がりガエルの戯言(たわごと)」 あそうぎ零(阿僧祇 零) @asougi_0

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