第9話 空疎な言葉が好きな人々

 先日、政府が「子ども・子育て支援法」などの改正案を決定した、との報道を耳にしました。改正の柱は、児童手当や育児休業給付の拡充だそうです。


 少子化対策と聞くと、「異次元の少子化対策」という謳い文句を思い出します。確か、岸田政権が発足当初に言っていたように記憶します。


 私が感じるのは、「異次元の」という修飾語の陳腐さです。

 異次元というのが具体的に何を指すのかとんと分かりませんでしたが、蓋を開けてみれば、「児童手当や育児休業給付の充実」です。

 財源問題は措くとして、これはこれで悪くはないのでしょう。しかし、果たしてこれが、対策といえるのでしょうか?

 羊頭狗肉という言葉が、頭に浮かんできます。

 少子化の根源は、「結婚できない」「結婚したくない」若者の増加ではないでしょうか? 

 そうした川上の対策が不十分のまま、子を持つ人たちの負担軽減という川下の対策をいくら講じても、効果は限られているのではないかと思います。


 「新しい資本主義」という言葉も同じです。

 大風呂敷、大言壮語といいたくなります。しかも、その具体的な中身は、いっこうに見えてきません。


 とまあ、政府批判のように聞こえるかもしれませんが、私がここで言いたいのは、政策立案者たちの言葉に対する感覚の鈍さです。

 中身が伴わないのに、「異次元」だの「新しい資本主義」だのと、威勢の良い言葉を使いたがります。

 威勢の良さでは、旧軍が使っていた「今まさに敵主力を撃滅せんとす」といった言葉にも引けを取りません。


 これは、中央官庁や政府といった国の中枢だけでなく、企業の企画部や経営層にも見られる傾向だと思います。

 私が現役のころ、親会社の企画部から、「異次元のコストダウン」を「全社総掛かりで」進めるよう強い圧が掛かり、ずいぶん苦労した記憶があります。


 最近見かける「DX」という言葉も、よく分かりません。

 「デジタルトランスフォーメーション」(Digital Transformation)の略語だそうです。

 通商産業省のウェブサイトに、「企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)」という項目があります。出どころは、この辺りなのでしょうか?

 「デジタルトランスフォーメーション」自体が分かりにくいうえに、それがなぜ「DX」になるのか、チンプンカンプンです。

 政府や役人は、それくらい知っているのは当たり前で、知らないのは不勉強のためだ、というかもしれません。

 しかし、国民は中央官庁の役人のように英語に多能で、頭の良い人ばかりではありません。

 私にような高齢者の中には、このように英語をそのままカタカナ表記した言葉に、付いて行けない人も多いと思います。


 言葉の重要な役割は、情報の伝達です。自己満足や、相手を煙に巻く道具ではありません。言うまでもなく、相手に正確に伝わらなければ、意味がありません。

 政府や中央官庁は、内容空疎な言葉を乱発したり、英語をそのままカタカナにした言葉を安易に使ったりしないで、極力平易な言葉を使ってほしいと思います。これは、私の我儘なのでしょうか?

 

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