第6話 美貌よりエルフの耳の方が重要です

 耳のこれまでにない感触に驚いた僕は、クレアールに、ひび割れた姿見の前に連れてきてもらった。


 おお、今世の僕も、なんだかぼやっとした顔しているな。目は大きめか?でも鼻はつぶれ…いや、小さめで丸いかわいらしい形とも言うな。親しみやすい顔だ、うんいいね。

 やけに目力強いなと思ったら、白目の部分が薄い琥珀色だ。瞳は明るい茶色かな。

 そうだ、この世界の人々は、白目も色づいているんだった。


 ふと、クレアールが複雑そうな顔でこちらを見ているのが、鏡越しに目に入る。

 あ、そうだ、耳だったね。いや、こんなにまじまじと鏡を見るなんて今世で初めてでさ。


 で、問題の耳は、後ろに細長く尖っていた。すごい鋭利。すごい長い。ザ・エルフの耳、って感じ。前世のマンガや映画で見ただけの知識だけど。

 え、僕ってエルフなの?


「やっぱエルフの耳ってこういう形なの?」


「エルフに会った人が書いたという書物の中に、特に目立つ身体的特徴として耳の形が図解されていました。それによると、まさにファーライトの耳の形にそっくりです」


「他にも特徴があるの?」


「他は…確か、細身で長身だとか」


 まだ成長期だから長身かは分からないけど、確かに僕は細っこい。でもそれは栄養不足なだけな気もするけどな。


「あと、髪がさらさらで」


 うーん、面倒だからかなり短くしちゃってるけど、僕の髪はさらさらとは言えないだろうなぁ。だって髪なんて滅多に洗えないからね。


「美形の種族とも書いてありましたが……皆が美形ということはないのかもしれません、あの本の作者だって、異世界人のエルフ一人に会っただけですし、そのエルフも誇張して話しただけでしょう」


 なんか急に早口で話し始めたけど、クレアールくん?フォローしてくれているつもりかな?それにしてもフォローの方向性、それで合ってる?

 まあ、確かに、僕のこの親しみやすい顔を見て、美形とは評価できないか。僕は気に入っているから別にいいけどね!


「というかね、僕の耳、こんな形じゃなかったんだ。元々はきみと同じような形だったよ。

 耳なんて滅多に見たり触ったらしないから、いつ形が変わったかは分からないけど……。

 でも周りから見たら目立つよね?だから少なくともパン屋のお使いの時はこの形じゃなかったんじゃないかな。

 あ!頭が痛くなったのは耳の形が変わったからかな!?」


 きっとそうだよね?

 あの頭痛は、前世を思い出したことによるものってだけじゃなく、耳の形が作り変わったことによるものでもあるのかも!


 僕の生い立ち(生後間もなく孤児院に捨てられたとか)や、今日の一日の行動、頭痛のことなんかを、クレアールは熱心に聞いてくれた。

 でも、前世の話は面倒だったからしないでおいた。前世にエルフはいなかったから、耳の変化とは関係ないだろうし。


「ということは、ファーライトは異世界人ではない可能性が高いですね。

 獣の要素がいきなり現れたとか?でも成長につれて獣の要素が一部消滅することはあっても、新たに生じるなんて読んだことがない…」


 クレアールがものすごい真剣な顔であれこれ考え始めた。本当に好奇心が旺盛なんだろうな。

 なんか、自分のことについて、他人がこんなにも真剣に考えてくれることが、今世の僕にとってはすごく新鮮で、とても温かい気持ちになった。

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