第7話 音楽が聴こえるなんて素敵です
「ねぇ、そんなことよりさ」
僕は、堪らずクレアールに話しかける。
どうしてもどうしても、気になって仕方がないことがあるんだ。
「そんなことより!?エルフの耳以上に大事なことがあるんですか!?」
信じられない、というような顔を向けられたけど、出会ってから間もないのに、そんな顔を見せてくれるほどクレアールがどんどん打ち解けてくれているのが嬉しくて、思わず、にへらと笑んでしまう。
何を思ったか、クレアールは僕の顔を見るなり、顔を背けてしまった。
え、僕の笑った顔、そんなひどいのかな?自分ではなかなかこの顔気に入ってるよ?
まあ、クレアールもその内にこの親しみやすさの素晴らしさに気づくでしょう。
気を取り直し、僕は改めてクレアールに向き合う。
彼を見かけた時から、ずっとずっと気になっていたこと。
彼の生い立ちやら僕の耳の形やらで聞けなかったけど、そろそろ聞いておきたい。
「ねぇ、クレアール。
きみ、自分のためにBGMを流しているのかい?
魔道具を使っているのかな?それ、何のため?」
「……え?BGMとは何ですか?」
「背景音楽?的な?
会った時からすごい綺麗な音楽流れているんだけど、何で??」
そうなのだ、路地裏でも、この部屋でも、ずっとせせらぎのような綺麗な音楽が聞こえている。
前世でいうところのクラシック音楽のような?でも前世の僕は、芸術系の才能を全て捨て去ったのかと思うほど、芸術はからきしだめだった。それはどうやら今世にも引き継がれたようで、この音楽が弦楽器かピアノかとか聴き分けることもできない。一つの楽器か複数かも当然分からない…たぶん声楽ではないと思うけど、それすら自信がない。
だから、この音楽について説明する語彙すら持ち合わせていない。
前世と今世含めても、聞いたことがあるメロディなのかも分からないけど、とりあえず綺麗だからいいと思う!
そんな音楽が、確かにクレアールから聞こえてくるのだ。
「音楽?私には何も聞こえませんけど……」
「え!?嘘でしょ!?」
まさかの幻聴?
前世の記憶といい、耳の形といい、変なことばかり起こっているからもう疲れてきたよ。そういえば窓の外はとっくに夕焼けの気配だ。
「……はっ!
もしかしたら、いや、絶対そうです!」
「ん、何が何が?クレアール、何か思いついたの??」
「書物に書いてあったんです!
エルフは、森と音楽を愛する種族。音楽を奏でながら魔法を使うのだと!
だから、その耳に変化したことで、ファーライトは魔法を音楽として聴き取るようになったのかもしれません。私は魔法を使っていないので、私から音楽が聞こえるというのは少し謎ですが、ファーライトが私の身体を巡る魔力を音楽として聴き取っているというなら納得できますし」
やっぱり魔法のことになるとよく口が回るね、クレアール。
でも、それが本当なら、僕って突然エルフになったの?そんなことある?
ていうか、魔法が音楽の領域になっちゃったら、音楽超絶苦手な僕が魔法でチートとか絶対無理じゃん。
前世の漫画やラノベなら、こういうのって得意分野を活かせる展開になるんじゃないの?何で一番の不得意分野を持ってくるかなぁ?
まあ、いいさ。現実は甘くないよね。それに、僕は今世に何も期待していないんだ。別にチートとか求めていないし!
でも、僕の隣には期待で目をキラキラさせているクレアールくん。
あー、なんか、嫌でも音楽(魔法)と関わらなきゃいけない予感をビシビシ感じます…。
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