第5話 オタクはきっと褒め言葉ですね

 この世界にエルフはいないはず。種族としては、前世によく似た人間しかいなくて、ドワーフとか魔族とかもいないはず。

 まあ、魔獣はいるし、人間も魔法が使えるし、全員、獣性というものを持って生まれてくるんだけどね。それは、今は置いておこう。


「ねぇ、この世界にエルフなんていないよね?」


「この世界にはいませんが、別の世界から渡って来た人の中にはエルフがいたと言われています…よね?」


「別の世界!?」


 クレアールが不安そうに話してくれるけれど、孤児の僕は、勉強なんてしていない。お小遣い稼ぎに必要な文字と数字を実地で覚えただけだ。

 だから、数え切れないほどの本を読み込んだというクレアールの方が、ずっとこの世界について詳しいだろう。


 クレアールが教えてくれるところによると、この世界には、数十年から数百年に一度の頻度で、異世界から渡ってくる人がいるらしい。

 異世界人は、この世界にない知識や技術を教えてくれるから、彼らの存在は珍重されるらしい。


 なんと、僕の異世界転生だけでなく、異世界転移もある世界だったのか!ちょっとテンション上がった。


 で、これまで来た異世界人の中に、エルフと呼ばれる種族の人がいたらしく、エルフについて書かれた本が、クレアールの大のお気に入りらしい。クレアールがエルフオタクだと判明した。

 なんたって、まともに人と話したことが無いくせに、初対面の僕をエルフだと思い込んで背負って帰ってきたというんだから。クレアールと僕、体格変わらないよ?


 なんでも、エルフはものすごい魔法を使うそう。クレアールは、話題が魔法のことになると、それはそれは流れるように早口で話し続けているから、こいつはエルフオタクで魔法オタクなのだろう。


「…エルフがこの世界でも魔法を使っていたことから、この世界に存在する魔素をエルフも使いこなしていたとされているのですが、そもそもエルフの使う魔法が魔素を用いるものだけなのか他にもあるのかが判明されない限りエルフの残した魔法を解明するのは困難で」


「ストップ!ストップ!

 分かった、うん、魔法の話はほとんど聞き流しちゃったから分からないけど、きみの話が終わらないのは分かったよ」


「あ……ごめんなさい、つい…。

 エルフや魔法について、どこからどこまでファーライトに説明すればいいのか分からなくって」


 クレアールは、きっと教師に向いていない、天才肌の学者タイプだな。

 どうでもいいけど、「ファーライト」と呼ばれるたびにくすぐったいような気持ちになる。これまで、僕を「ライト」と縮めずに呼んでくれた人なんていなかったから。


「エルフは魔法が得意だって分かったけれど、それで何で僕がエルフってことになるの?

 僕、魔法なんてほとんど使えないよ?」


 この世界での魔法は、僕が知る限り、小さな水や炎を出す程度くらいしかなくて、野宿する以外で役に立つことはほとんどない。

 ただ、多寡の個人差はあれど、誰もが魔力を持っていて、その魔力を用いて魔道具を起動させることができる。

 魔道具は、僕の理解では前世の家電のようなもので、魔力で起動させると、刻み込まれた術式?によって、大量の水が出せたり、結界を発動させたりと、様々な効果をもたらす。まあ、孤児の僕が使うことなんてなかったからよく知らないけど。


「いや、魔法じゃなくて…。

 その、ファーライトの耳が…」


「耳?」


 そういえば、クレアールは、今までも話しながら僕の顔の横をチラチラ見ているようだった。

 言われるがままに、耳に手を伸ばして、僕は絶叫することになった。


「ふぁーーーっ!?

 僕の、み、耳が!ふぁーーー!?!?」

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