第2話 走馬灯、見てみたいです


 気がついたら、自分の人生の映像を早送りで見ていた。

 これは、夢の中?

 でも明晰夢とは違うんだろうな、ものすごくはっきりした映像で、これが過去の自分が体験したものだと分かっている。

 

 そうそう、小学生の頃、母の日に妹と一緒にオムレツを作ったんだよね。妹のエプロンは赤のチェックだった。

 ああ、小学生の時によく遊んだ友達の笑った顔は印象的だった。

 どんどん移り変わる映像は全て懐かしくて、しみじみしていると、夢の中のは、あっという間に中学高校と進み、大学生になり成人した。


 日本と呼ばれる国で、平凡ながらも、仲の良い家族や多くの友人たちに囲まれて楽しく生きていた記憶。

 それを、何故か早送りで見ている。

 これは、夢というより、いわゆる走馬燈というやつか?

 あれ、でも確か俺はとっくに…


 映像の中の俺は、第三志望の会社に就職し、激務に追われているところだった。

 この頃は本当にきつかった。でも、若さとやりがいだけでなんとか乗り切ったんだよな。

 入社して10年以上が経った頃、突然の経営改革だとかでかなり働きやすくなった。


 でも、酷使した身体は病に蝕まれていたようで、40歳を迎えるとすぐ、病気で俺は死んだのだ。

 そう、俺の最期は、病室で、両親と兄夫婦、妹夫婦、甥に姪といった、家族みんなに囲まれた穏やかなものだった。


 目の前にその光景が映し出されている。

 みんな穏やかな笑顔だ。

 悲しみではなく、安心させる穏やかさで送り出してくれたことに感謝しかない。

 俺の人生は、短かったけれど、家族に恵まれたとても幸せで満足なものだったのだ。

 走馬燈なら、これで終わりか?



 しかし、映像が暗転するも、すぐにまた次の映像が映し出された。


 硬い寝床に古いシーツ。隙間風から身を守るように薄い毛布を身体に巻き付ける。

 薄暗い室内には、同じような格好で寒さを凌ぐ子どもたちがいる。


 ああ、これはの人生だ。

 は、日本人として死んだ後、この全く異なる世界で孤児として生きてきた。


 生後間もなく、孤児院の前に捨てられていたらしい。

 今はおそらく10歳くらいか。あと2年もすれば孤児院から追い出されるだろう。


 この世界は、前世よりも僕にとって厳しかった。身分制社会で、治安や福祉は、僕のような末端の存在には行き届いていない。

 まあでも、この歳まで育つことができたのだから、幸運な方だろう。前世の人生が穏やかで平和すぎたのだ。


 あれ、これが走馬灯なら、もう今世はこれで終わり?僕、死んだのかな?

 まあ、それならそれでよいかも。

 だって、一度は恵まれた人生を送ったのだ。今世では大切な人も物も、何もないから、心残りもない。前世の付属品程度にしか思えない。

 楽に死ねたことに感謝しよう。


 そんなことを考えていると、映像の中の僕は路地裏で倒れ込んでいた。

 ああ、そうだ。頭がめっちゃ痛くなって倒れたんだった。

 結局、僕の死因ってなんだったんだろう?


 あれ、また映像が暗転した。

 うわ、なんだか身体が重くなって、え、頭痛い…。



 

 


 

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