第1話 頭が痛いのはかわいそうです

「おい、ライト。これ今日の分」

「親父さん、ありがとう!!」


 パン屋の親父のぶっきらぼうな言葉に、僕は笑顔でお礼を言う。

 たとえ、お使いを終えて戻って来てから30分も店先で放ったらかしにされていても。

 たとえ、お駄賃の硬貨を放り投げられても。

 僕は文句も言わずに笑って硬貨を拾い集める。


 だって、笑っていた方が、お小遣いを稼ぎやすいと思うんだよね。

 僕と同じ孤児仲間のみんなは、大抵無愛想。無愛想な奴らには無愛想で接するのが普通だろって言っていた。

 まあ、笑顔でいてももらえるお小遣いの額は変わらないんだけどさ。でも、笑顔で対応すると、次の仕事をもらいやすい気がするんだ。多分ね。

 僕は"孤児"だから、優しい言葉なんかより、思いやりなんかより、お金を集める方がずっとずっと大事なのだ。



 今は昼時を少し過ぎたところ。パン屋のお使いは、ランチの配達の手伝いだったのだ。

 さて、次はどうしよう。


 孤児院では朝晩の2回しか食事が出ない。

 早朝と夕方は、洗濯やら小さい子のお世話の手伝いやらをしなきゃだから、お小遣い稼ぎは昼間しかできない。

 今から行って手伝いができそうなところは…洗濯屋か花屋かな?


 そんなことを考えながら洗濯屋の方向に向かって歩いていたら、急に頭が痛くなってきた。


ズキズキズキッ


 目の横の方、顳顬こめかみの辺りが、まるでひび割れそうに痛む。


 同時に、"ここに居てはいけない"という謎の思いが僕の頭いっぱいに広がる。

 自分でも意味不明だけど、それはもう確信だった。


 頭が痛いし、訳も分からないけれど、その謎の確信に導かれるように、僕は路地裏に逃げ込んだ。


 闇雲に走って、行き止まりで力尽き、倒れ込む。


 意識が朦朧とする中、倒れる僕に近づいてくる細い足が見えた。多分、子どもの足。

 ゆっくり目線を上げていくと、フードの奥に綺麗な水色の瞳。


 どこからか、割れそうな頭に沁み入るように、不思議なメロディが聞こえてきた。

 なんだろう。すごく綺麗。


 その子をぼんやり見ていたら、その子が近づいてくるのに合わせて、その聞いたことのないメロディが、だんだん大きくなるのが分かった。


 水色の瞳によく似合う、せせらぎのような透明な音楽だな。

 そう思ったところで、僕の意識はぷつりと途切れた。





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