第32話 ダンセット遺跡探索④

 パーティー【黄金の大地】復活の、リハビリを兼ねた準備運動が何事もなく無事済んだ。


「コウ、次は何処に行くの?」

 クロとシロは久々の運動に喜んでいるのか、ココの近くから遠くまでの距離を行ったり来たりしている。

「ダンセット遺跡探索のリベンジを行う。」

 レイナとココの態度が一瞬止まった様に見えたが、不安より次こそは負けないと言う気迫を感じた。

「コウ様、今度は無様な姿は見せませんわ。」

「私も絶対倒れないからね。」

 2人の言葉にテレサも決意の言葉を話す。

「皆さんの足手まといにならない様、頑張ります。」


 ダンセット遺跡手前で、前回休息を取った見慣れた場所で足を止めた。

「ここで一旦休息を取るとしょう!」

 切り株に座り水分補給を各自していると、林の中からシノが姿を現わした。

「シノさん!」

 ココが直ぐに気付き、レイナもシノに近づく。

「コウ様、シノさんが来てくれましたよ。」

 シノには事前にここで合流する様に伝えていた。

「改めて紹介しておきます。同じ村の出身でシノといいます。今回の遺跡探索にはシノも加わってもらいます。」

「シノさん、この前は私達を助けてくれて本当に感謝しています。」

 レイナがシノの手を握ってお礼を伝える。

 シノは恥ずかしいのか、無言でお辞儀をして俺の後ろに隠れてしまった。

「シノは昔から人見知りで、ほとんど喋らないんです。気お悪くしないで下さい。」

「こちらこそすみません。ご一緒の時はよろしくお願いします。」

 レイナはシノの性格だと信じて、優しい言葉を掛けてくれた。

 ココとテレサもシノによろしくと言葉を掛けてくれて、シノは態度とは裏腹に本心はとても嬉しそうだ。


「先日、シノと2人で遺跡の下見をして来ています。」

「ギルドにも報告済みですが、ダンセット遺跡は迷宮化しています。」

「遺跡が迷宮化?」

「遺跡が迷宮化する事なんてあり得るですか?」

 ココもレイナもビックリしている。

 ダンセット遺跡の今の現状を、みんなにわかるように説明した。

「コウ、状況はわかったけどどこまで探索するの。」

「コウ様を信じてどこまでもついて行きますわ。」

 ココとレイナは大丈夫そうだが、テレサは不安な表情をしている。

「テレサさん心配しないで下さい。危ないことはしませんし、シノと一緒に行動して下さい。」

「シノさん、よろしくお願いします。」

 テレサから声を掛けられて照れながら頭を下げる。

「今日の探索は、地下への階段を見つけることです。」

「じゃー行きましょう!」

 片付けを済ませ、ダンセット遺跡探索へ出発した。


 ダンセット遺跡の入り口に着くと、クロとシロが場所を確認するように周りを嗅ぎ回った。

「隊列は、クロとシロを先頭にココ・次にレイナ様、その後に俺とテレサさんが続き最後尾はシノで進みます。」

 前回と同様に毒蛇や毒カエルの出現は、クロとシロにココが素早く対応する。

 ゴブリンの発見の報告には、レイナが対応する。

 魔物の数は迷宮化の影響で数が増えているが、遺跡1階の通路での戦闘には俺やテレサの出番はない。

 シノに限っては、テレサの護衛を任せ1階での戦闘は参加しないように伝えていた。

 見覚えのある扉の前で、レイナとココが緊張して立ち止まっている。

 下見に来たときは、シノのサイレンス呪文でゴブリンマジシャンの魔法を封じて、ロキとシノが周りにいた魔物を一掃してから俺がマジシャンを倒しただけだ。

 今回はシノの魔法は使いたくないので、便利なアイテムを準備した。

「これを使いましょう!」

 アイテムバックからピンポン玉の大きさの導火線付きの球体を取り出し、相手を眠らせる事を提案した。

「このアイテムはコウ様が作成したのですか?」

 レイナが尋ねるので、眠り草を使って試作したアイテムの説明をした。

「さすが薬師のコウだね!試してみようよ。」

 導火線に火を付けて、扉を開け3個放り投げすぐ扉を閉めた。

 扉の奥で声がしていたのが、静かになった。

 暫くしてから扉を開け、充満していた煙が消えたのを確認してから部屋に足を踏み入れた。

 部屋の中は薄暗いが扉から洩れる光でうっすらと見える。

 ココと従魔はわずかな光で人の何十倍も見えるため、中の様子を事前に知らせてくれる。 

「緑色のゴブリンは全て眠っているよ!」

「アッ!コウ、奥にいるゴブリンソードマンとシャーマンが眠りから覚めそうだよ!」

 効き目が薄かったようだ。

「ココと従魔はシャーマンをレイナ様は俺と一緒にソードマンを倒します。」

「テレサさんは眠りの浅い周りのゴブリンを仕留めて下さい。」

 俺の言葉に全員が一斉に行動を起こした。

 ゴブリンシャーマンは魔法を唱える間もなくココ達に仕留められた。

 レイナの一撃でゴブリンソードマンは動けなくなり、俺が剣で突き刺す。

 悲鳴をあげながらも俺に向かって剣を振りかぶるゴブリンソードマン!醜い顔が近づくと同時にレイナの剣がソードマンの首を刎ねた。

 ゴブリンソードマンの体はそのまま横に倒れた。

「コウ様、お怪我はありませんか?」

「レイナ様、有難うございます。助かりました。」

 テレサも、シノと一緒にゴブリンの討伐が済んだようだ。

「コウ!奥の小部屋には誰もいないけど、宝箱が一つあるよ。」

「鍵が掛かっているみたいで開かないよ!」

 ココが無理やり開けようとしているが、それは無理と言うものだ。

「私が開けてみましょうか?」

 テレサが宝箱の鍵掛に挑戦してみる。

 テレサのレベルが上がり、くノ一の【開錠】スキルを取得したみたいで、慣れない手つきだが初めての宝箱開錠に苦戦しながらも開けて見せた。

「テレサさん凄い!宝箱の鍵を開けた!」

「ココさん、開いてよかったです。」

「テレサさん、凄いスキルですよ。」

 改めてテレサのスキルに感心した。

 今後の宝箱の開錠は、テレサに任せればリスクを減らして回収が楽になる。

 テレサは照れ笑いしていたが、パーティーの役に立てた事に嬉しさがこみ上げていた。

「宝箱の中身は何でしょうか?」

 テレサが開けてみると、中身はバンダナが入っていた。

 バンダナをアイテムバックに入れて、鍵が掛かっている部屋に移動した。

 移動途中に襲ってくるゴブリンや、物陰から飛んでくる弓矢の攻撃も難なく対処出来て討伐する。

 注意深く進んでいると、鍵が掛かった部屋の前にたどり着いた。

「コウ!この部屋が目的地?」

「この部屋を探索しないとわからないな~」

「まずはこの鍵を開けないと、進めませんね!」

「私が挑戦してよいでしょうか?」

 テレサに鍵開けを任せて、ココとレイナにこの奥に強力な魔物がいるんではないかと推測論を伝えた。

「コウの言う通り、部屋の奥から強力な魔物の気配がするよ!」

 ココと従魔は気配を感じ取っているようだ。

「ガチャ!」

「鍵が開きました!」

 テレサが鍵を開けた瞬間に、部屋の中から魔物の唸り声が聞こえてきた。

「準備はいいですか?まずは部屋の中を照らして確認します。」

 透明な容器に魔光石を詰めた球体を、左右の壁に向かって静かに転がす。

 左右から部屋全体を薄っすらと照らし始めると、多数の緑色のゴブリンに加え武具を装備したアーチァーやソードマンがいるのが目に見えてきた。

 シャーマンの姿が見当たらない・・・どこかに潜んでいるかもしれない。

 中央の一番奥に一回り大きいな魔物がいる。

「防具からみてゴブリンジェネラルと思います。」

 レイナは盾を構えながら、部屋の中を覗いて教えてくれる。

「コウ様!いつでも行けます!」

 レイナの言葉に、全員が戦闘準備に入る。

 親玉のゴブリンジェネラルが構えているという事は、ここに地下への階段があるはずだ!


 念入りな準備はしてきた!全員の力を合わせれば勝利できるはずだ!

 剣を握る手が少し震えていたが、自分自身に気合を入れてタイミングを見計らっていた。


 

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