第31話 【黄金の大地】復活

 レイナとココの3人による久々の食事は、心が休まる楽しい時間だった。


「コウ!退院祝いありがとう!」

「新しい防具も買ってもらったし、食事も大満足だよ。」

「コウ様、今日の食事は本当に美味しかったですわ。頂いた指輪は一生大事に致しますわ。」

 レイナの意味不明な言葉には、少し慣れてきたようだ。

「レイナ様の指輪は魔法耐性と状態異常に効果がありますので、前回の様にはならないでしょう。」

「コウ、私の防具はどうかな?」

「前の防具より防御力が一段と高くなっている。それに素材が軽いので俊敏力の低下が抑えられ総合的に能力が向上しているようだ。」

「Dランクの防具にしては能力値が高いので、ココの目利きはたいしたものだ。」

「それほどでも~」

 ココは褒められたのが嬉しいのか、にやけた表情になった。


 しばらくは買い物や食事の話しで盛り上がっていたが、話題が途切れた所で話を切り替えた。

「今後の活動について話をしておきたいけど聞いてもらえるかな。」

 レイナもココも俺の言葉にうなずいてくれた。

「前回話をしたギルドからの護衛依頼を受けるのは前提ですが、今の俺達では力不足です。」

「依頼の期日までまだ日にちがあるので、それまでの時間レベル上げを行いたいけどどうかな?」

 退院したばかりで不安な2人には辛いかなと思い、表情をそっと覗いてみた。

「コウ様!今すぐにでも魔物の討伐にいきましょう!」

「ココも問題ないよ!クロとシロと一緒にレベルをあげるよ!」

 予想以上に前向きな返事に少し驚いたが、何故か嬉しくなった。

「2人共有難う・・・本当はもう少し休んでからと考えていたんだが、一日でも早く【黄金の大地】のパーティーを復活させたかったんだ。」

「今の私達にはレベル上げが最大の急務ですし、【黄金の大地】の知名度を挙げましょう!」

「レベルが上がれば、戦闘が楽になるし怪我もしなくなって一石二鳥だよ。」

 2人共非常に乗り気だ。

「コウ!レベル上げについて何をする?」

「まずはリハビリと準備運動を兼ねて、ブラックモールの討伐依頼を受けます。」

「ブラックモールと言えば、畑を荒らす魔物ですね。」

「はい、前回テレサさんとグレンさんのパーティーで討伐を行いましたが、他の畑でも大量発生していて村人が困っているそうです。」

「他の冒険者は依頼を受けないのかな?」

 ココが不思議そうに尋ねると、レイナが代わりに答えてくれた。

「ブラックモールの討伐は、面倒くさく時間が掛かる割には報酬が極端に少ないんです。」

「報酬金額は冒険者にとっては少額でも、村人達には死活問題なので出せるだけの金額を提示していますが中々折り合いが付かないのが現状です。」

「村人が困っているのなら、お金より助けるべきだよ!」

「ココさんの言う通りです。住人を守るのも冒険者の務めです。」

 ココもレイナもお金より、人助けを優先してくれるので俺も賛同した。

「もう一つ報告があるんだが、ブラックモールの討伐にはテレサさんも同行してもらうつもりです。」

「シノさんは参加されないんですか?」

 レイナが不思議そうに尋ねた。

「彼女のレベルは結構高いので、レベル上げは我々だけで行い難易度が高い依頼時に参加してもらうように話をしています。」

「そうですか~私達のレベルがシノさんに近づけばいつも一緒に行動が出来るという事ですね。」

「シノさんは命の恩人ですし、同じパーティー仲間ですので色々お話しもしてみたいですわ。」

 レイナは残念がっていたが、それとは別に俺とシノの関係が気になるようだ。


 食事を終えて、今日はそのまま宿屋で宿泊し、明日ギルドに向かうことにした。


 翌朝、朝食をみんなで食べてギルドに向かった。

 ギルドに入るとテレサがいたので、全員で奥のテーブルに移動した。

「レイナさんにココさん退院おめでとうございます。」

 席に座るとテレサが2人に声をかける。

「テレサさん有難うございます。同じパーティーの仲間ですのでよろしくお願いいたします。」

「テレサさん、ココの事もよろしくお願いします。それと私の従魔のクロとシロもよろしく!」

 3人はすぐ打ち解けて色々な話を始め出した。

 女の話しは長くなると思い、3人の了解を得て受付のエリスの元に向かった。


 受付嬢のエリスは、新しく冒険者登録をしている2人組の男女に説明をしている。

 俺は手続きが終わるまで後ろで待機しながら、2人を観察した。

 一目で人族ではないとわかる、耳が長くて鼻も長いしシッポもある。

 獣人の中でも犬系に近い感じがする。

 2人の手続きが終わり、カウンターに立っているエリスに声を掛けた。

「エリスさん、先ほどの2人の男女は?」

「新人の冒険者よ!犬人族の男女で有望株になるかもしれないので、コウさんも面倒をみてやってね!」

「犬人族の方ですか!まだお若くみえたし、これからが楽しみですね。」

 エリスと話をしながら新しい情報を仕入れ、【黄金の大地】のパーティーの復活を兼ねて今から討伐に行く旨を伝えた。

「そうそう、グレンさんの事だけど1人で地道に依頼をこなしているわよ。」

「そうですか!グレンさんも頑張っていますね!これに双子の姉妹が強くなると心強いパーティーになりますね。」

 また【銀狼の牙】と合同パーティーが出来るといいな~それに先ほどの犬人族達とも冒険がして見たいと考えていた。

 【黄金の大地】の今後の行動をエリスに説明し、クエストを何通か受けてみんなが待っているテーブルに戻った。

「コウ!お帰り。」

「コウ様、手続き有難うございます。」

 ココとレイナが労いの言葉をかけ、テレサがお辞儀をしながら俺を迎えてくれる。

 3人の女性に囲まれて男ばかりの冒険者達から冷ややかな視線を感じたが、リーダーとしてみんなを守らなければ男じゃないと言い聞かせていた。

 (男はつらいよ)の寅さんではないが、女性と一緒にいると自然に好い所を見せようと男の本能が騒ぐ。

「冒険に行く前に全員のレベルの確認をしておきましょう。」

 全員のレベルとスキルの確認、武器・防具を再チェックしてから、手持ちの持ち物と必要な物の購入をしてから冒険の準備を済ませる。


 ギルドを出発してセシール村の門番に挨拶をする。

「おや、みなさんお揃いで珍しいですね。」

 いつもの門番が声を掛けてくれる。

「今から冒険に出かけてきます。」

「お気を付けて!」

 門番にお辞儀をして入口の橋を渡ると、前方からグレンがやって来た。

「コウ殿!今から冒険ですか?綺麗な女性達と一緒で羨ましいですな~」

「グレンさん!今お帰りですか?ご苦労様です。また今度一緒に冒険しましょう!」

「約束ですよ!」

 グレンと会話を交わしてから、討伐依頼が出ている村へ足を向けた。


 似たような風景を見たようだが、前回の村より規模が大きい。

 畑の入口まで村長さんに案内してもらい、討伐の準備に取り掛かる。

 前回同様、無数に空いた穴にココとテレサが餌をまいて回る。

「ブラックモールの攻撃は鋭い爪で、土の中にすぐ隠れますので逃がさない様にして退治して下さい。」

「今回は、ひたすら退治して下さい、最後のビックモールは全員で退治します。」

 しばらく待っていると全長1m弱位のブラックモールが穴から飛び出して来た。

 前回と違うところは、レイナもココも難なく退治する点で心配がない。テレサも前回経験しているので問題が無いようだ。

 前回の討伐より数は多いが、あっという間に片付いてビックモールが姿を現わした。

「コウ!退治していい!」

 ココが俺に確認してくるので頷くと、クロとシロがあっと言う間に倒してしまった。

 俺は倒れたビックモールに剣で止めを刺して、討伐完了の号令を出した。

 改めてレイナとココの実力が確認できたし、テレサのレベルが確実に上がっていると確信した。

 退治した全ての魔物をアイテムバックに入れて、全員怪我がない事を確認し合った。

「コウさん、今日は有難うございます。」

 テレサが俺にお礼を言う。

「コウさんが、私が戦いやすく出来るように近くでフォローしてたことに感謝いたします。」

「そんな事はしていませんし、テレサさんの俊敏な動きにはついていけませんでしたよ。」

 実際はそのつもりだったが、テレサの攻撃が一段と上がっているのにビックリして、俺が出る幕が無かったのが現実だ。

「テレサさんは確実にレベルが上がっています。自信をもって下さい。」

 テレサは恥ずかしそうに照れていたが、俺の言葉にうなずき可愛らしい表情を見せてくれた。


 休憩を終えると討伐の完了を村長さんに報告して、次の依頼の場所に移動する事になった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る