第30話 退院祝い

 シノと2人でセシール村まで、ゆっくりと時間を掛けて戻ってきた。


 いつもの門番にあいさつをして村の中心部の道をギルドまで歩く。


「新しく完成したお店がオープンしている。」

 オープン初日のため、人集りが出来ている。

 2階建ての建物の中央に階段があり、2階のテラスの左右に2つのお店の入口が出来ていた。

「お店の看板は・・・武具屋と雑貨屋か、どんな商品が置いてあるのか楽しみだな。」

 レイナとココを連れて後で寄ってみよう。


 ギルドに戻ると何故かほっとすのはなぜだろう。

「コウさん~お帰りなさい。」

 エリスから声を掛けられ、カウンターに向かった。

「調査の方はいかがでしたか?」

「前回退治した魔物が、ほぼ同じ確率で発生していました。」

「迷宮化しているということですか?」

「そうだと思います。」

 その他遭遇した魔物の種類や、出現場所・大まかな数等を報告した。

「調査の報告ありがとうございます~お疲れさまでした。」

 エリスは報酬の金額を渡して、労いの言葉を掛けてくれた。

「コウさん!レイナさんとココさんが今日退院ですね。」

「はい!今から診療所に迎えにいってきます。」

「よかったわね!これで【黄金の大地】のパーティーが復活するはね。」

「準備が整ったら、ダンセット遺跡の再挑戦します。」

「気持ちはわかるけど、無理はしないでね。」

 エリスの優しい言葉が身にしみる。

「わかっていますよ。今度は1階の探索を無事終わらせて、地下への階段を見つけますよ。」

「えっ!地下への階段!!」

「コウさん!地下への階段とはどういうこと?ダンセット遺跡には地下は無いはずよ!」

 エリスは初めて聞いたようで、俺に問いかけてきた。

 エリスの言葉から、地下の事は知らないようだ。

「まだ地下は見つけてはいないんですが、鍵が掛かっていて入れない部屋を発見しました。」

「その部屋に何があるのかはわかりませんが、魔物が何かを守っている感じがするんです。」

「それにダンセット遺跡が迷宮化しているのなら、迷宮化した根源が地下にあるのではと推測していますが、鍵がかかって入れない部屋が地下への入口かは探索してみないとわかりません。」

 エリスが地下迷宮の事を把握していないので、断定はせず匂わせてみせた。

「地下への入口ですか?・・・言われてみれば、コウさんの意見も一理ありますね。」

「ギルド長にも報告しておきますので、その後の調査結果をお知らせ下さい。」

「わかりました。」

 エリスにダンセット遺跡調査のお墨付を頂き、隣の診療所へ向かった。


 診療所の入口に入ると受付前の待合室で待っている、レイナとココを見つけた。

「レイナさんにココ!退院おめでとう!」

 2人の元に駆け寄り、握手を交わして元気な状態を確認した。

「コウ様、ご心配をお掛け致しました。」

「コウ!ありがとう、もう大丈夫だよ!」

 2人の元気な姿と声を聞いて、安堵した。

「退院祝いに新しく出来たお店で買い物をして、美味しい物を食べよう。」

 2人は俺の両腕を掴んで、笑顔を見せてくれる。

「早く買い物に行こう!」

 ココが腕を引っ張って出かけようとしたが、受付嬢にお礼を言ってクロとシロを迎えに行くようココに伝えた。

 ココがすぐに迎えにいくと、レイナは俺の腕を握り締めたまま無言でいる。

 いつもの防具を身に着けていないレイナの普段着に、ドキドキしてしまう。

「レイナ様、どうかしましたか?」

「コウ様に無様な姿を見せてしまい申し訳ありませんでした。」

 レイナはいまだに気絶して倒れた事を悔やんでいるようだ。

「レイナ様は悪くありません。責任があるとすればリーダーであるこの俺にあります。」

「コウ様は悪くありません。」

「今回の失態はパーティー全体の問題です。」

 俺は、再度ダンセット遺跡の探索をする旨をレイナに伝えた。

「わかりました。今度は同じ失敗はしませんわ。」

 レイナは明るく答えてくれた。

 ココがクロとシロを連れて来たので、全員で診療所を後にした。


 新しく出来た建物の前で足を止めて、全員で外観をじっくり見ている。

 足を踏み入れた事が無い場所には、いきなり入らない癖がついたようだ。

 建物は2階建で、中央の階段から2階へ昇る作りで2階の左右には新しく出来たお店の入り口がある。

 1階は馬や従魔等を繋ぐ繋ぎ場の柵があり、奥は厩舎になっている。

 1階の繋ぎ場の柵にクロとシロを連れて行きここで待っているように言い聞かせ、2階への階段を上がって行く。

 2階のテラスまで上ると左右にアプローチがあり、左側に武具屋・右側に雑貨屋の看板がある。

 まずは武具屋の店に入ってみた。

 店内に入ると冒険者が何人か商品を手にしながら見定めているようだ。

 左側の壁やテーブルには剣や槍等の武器が飾ってあり、右側には鎧や兜等の防具が飾ってある。

 中央のあるテーブルには、小物のアクセサリー等が並んでいて見たことが無い品物もある。

 店内には新築の木の香りと、真新しい武具の匂いに漂っている。

「ここにある品物は、F~Dランクレベルで扱いやすくお手軽な金額ですよ!掘り出し商品もあるよ!」

 店員の男が客に聞こえるように宣伝文句をならべている。

「中古品ではなく、すべて新品だよ!今日はオープン記念でさらに割引いたしますよ!」

「ココの防具がダメになったので、ここで購入しよう。」

 ココに防具を選ぶように勧めると、嬉しそうに手に取って選んでいる。

 レイナの武具はここにある商品よりレベルが高いと思われるので、アクセサリーを選んでもらおう。

「レイナさん、魔法耐性の指輪がありますが、見てみませんか?」

「今の私には必要な物です。選んでもよろしいですか?」

 中央にあるガラスのショーケースには、指輪や髪飾り・ペンダント等の小物のアクセサリーが並べてある。

 レイナは付加されている説明文と照らしながら、目を輝かせながら真剣に選んでいる。

 俺はシノから教えてもらった鑑定スキルの活用方法を試してた。

 鑑定スキルを使って人様の中身をみるのは忍び難いが、武具の能力を人知れず調べるのは問題無いはずだ。

 一通りの品物を鑑定して確認してみる。

 実際にこのスキルは非常に便利で役に立つし、鑑定してわかった事がある。

 この世界の評価の仕方が、いいかげんということだ。

 Dランクで高額である武器を鑑定するとEランクの物だったり、反対にFランクで安い武具を鑑定するとDランクの物もあり、表示されている物は結構あてにならない。

 たぶん見た目でランク付けしているか、仕入れ価格で決めているんだろう。

 鑑定スキルは教会のお偉い方か王宮魔導士のほんの一握りの人しかいないので、価値がわかる事自体まれであるから仕方のないことでお店を責めるつもりは毛頭ない。

「コウ様!この指輪はいかがでしょうか?」

 レイナが選んだ指輪を鑑定してみる。

 Eランクで魔法耐性+2。

 並んでいる他の指輪をこっそり鑑定で見てみる。

 EランクとDランクの表示がされている指輪から、一つだけCランクの表示が見えてる指輪があった。

 Cランクで魔法耐性+10・状態異常+5の掘り出し物だ。

「レイナ様、こちらの指輪はいかがですか~」

 レイナが選んだ指輪より輝きは無いが、落ち着いた感じの指輪だ。

「コウ様が選んだ指輪であれば、私は喜んでお受けいたしますわ。」

 レイナは何か勘違いしている様子だか、Eランクの値段でCランクの指輪が購入できるのは鑑定スキルのお陰だ。

 レイナは非常に喜んでいるが、この指輪の効果は非常に役にたつはずだ。

「コウ!この防具はどうかな~私に似合っている~」

 ココが自分で気に入った防具を体に合わせて見せてくるれ。

 Dランクの表示があるが、同じく鑑定してみる。

 間違いなくDランクの防具だが、他に掘り出し物がないか調べてみたがココが選んだのがこのお店では一番良い品物だった。

 ココの見る目も確かだ。

 2人とも満足そうな表情をしているので、それぞれ選んだものを購入して店を出た。

 防具屋の店を出て隣の雑貨屋を覗いてみた。

「いらしゃいませ!お客さん、すみませんが今日の商品はすべて売り切れになりました。」

 店員の女性が申し訳なさそうに謝る。

「売り切れですか~ちなみにどういう商品を扱っていますか?」

「主にポーションや魔道具を扱っていますが、たまに掘り出し物も置きますよ。」

 売り切れであれば仕方がない。

「また今度寄らせていただきます。」

 店員にあいさつして、雑貨屋を後にした。


 繋ぎ場でおとなしく待っているクロとシロを連れて、宿屋の1階にある食堂に向かった。

 女将に退院したことを伝え、退院祝いの豪華な食事を注文した。

 クロとシロも裏の厩舎で、退院祝いの豪華な食事を出してもらってる。

 俺が出来るささやかな退院祝いだ。

 久々に3人で食事する時間は、いつもの何倍も美味しく感じた。


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