第29話 下見

 テレサと別れてから、果汁水を飲みながら今日の討伐の事をゆっくり思い返していた。


 合同パーティーでの討伐依頼は中途半端に終了したが、今後の事を考えれば大きな収穫でもあった。

 予想外の出来事で一旦冒険は終了したものの、グレン達の【銀狼の牙】とテレサの組み合わせは結構良かった。

 今後リナとユナの魔法レベルが上がれば、【銀狼の牙】の総合力は侮れなくなるだろう。

 ギルドの指名依頼を成功させるためにも信頼できるパーティーは多いのに越したことはないし、もう少し準備が必要と感じている。

 果汁水を飲み上げ、クエストボードを眺める。

 今の時間はギルド内の冒険者はあまり居ない。

 最近ゴブリン討伐の依頼が多く見受けられるようになっていたが、怪我をする冒険者も増えているとエリスが教えてくれた。

 エリスからの情報では、ダンセット遺跡でまたゴブリンの集団が現れているとの事で今日も冒険者のパーティーが命からがらに逃げてきたそうだ。


 ギルドの購買でポーションを何本か購入し、2階の図書室で魔法の入門書に目を通した。

 前回の失敗を繰り返さない様に、魔法を覚えておきたいという気持ちが強かった。

「今晩試してみるか!」

「シノ!誰にも見られない様に人間の姿になり、受付のエリスの所で待ち合わせだ。」

「わかりました、ご主人様。」

 シノと稔話で打ち合わせを済ませて、受付のエリスの所に向かった。


「エリスさん、ゴブリンの被害が多くなったいるそうですね。」

「コウさん!そうなのよ~まだイザベェルの森の調査も終わらないので、ダンセット遺跡の調査まで手がまわらないのよ。」

 エリスは報告書を片付けながら他の職員に指示を出している。

「よかったら俺が調査して来ましょうか?」

「ダメダメ!いくらコウさんでも1人では行かせられませんよ。」

 ちょうどタイミングよくシノが、打ち合わせ通りに受付にやって来た。

「エリスさん~シノさんと2人ではどうですか?」

 エリスは偶然やって来たシノを見つけて確認をする。

「シノさん!コウさんと一緒に依頼を受けてくれるんですか?」

 シノは静かにうなずいた。

「エリスさん、シノさんと2人なら調査は行けると思いますがどうですか?」

 エリスはシノを見つめてしばらく考え込んでいた。

「シノさん本当にコウさんと調査を引き受けてくれるんですね?」

 エリスはほとんど喋らないシノを観察していた。

 上級職の魔法剣士でそれなりの実力があるはずなのに、その実力をなぜか隠してこのパーティーにいる理由がわからず不思議に思っていた。

 他の誰とも喋らない、いつもコウさんの後ろに控えている。

 まさか!コウさんに弱みを握られて、いいように使われているとか!

 ここは私がしっかり監視して女をたぶらかす男から守らなければと、かってに思い込んでいた。

「シノさんと2人なら、コウさんに調査をお願いするわ。」

「ただし、無理はしないでね、危ないと感じたらすぐに逃げてよ。」

 エリスはシブシブ調査依頼を認めてくれた。

「エリスさん~ありがとうございます。」

「調査が終わればすぐに戻って来ます。」

 エリスに今から行ってくると伝えて、シノと2人でギルドを後にした。

 ギルドを出ると、新築の店の工事がほぼ完成しているみたいだ。

 もうすぐオープンみたいだが、何のお店か楽しみだ。

 村の出入り口で門番にあいさつをして、ダンセット遺跡の調査に向かった。


 移動途中で何組かの冒険者パーティーとすれ違ったが、皆ボロボロなのに歩きながら笑顔が見られた。        

 仲間が全員無事であれば、また冒険ができる。

 そんな彼らを見ながら、こみ上げるものを感じていた。


 しばらく歩き続けていると、ダンセット遺跡の入り口にたどり着いた。

「シノ、ステータスの中に召喚術が表示されているが、どうすれば使えるか教えてほしい。」

「ご主人様の魔力であれば、召喚魔の名前を言葉に出すだけだいつでも召喚できます。」

「そんなに簡単なのか?」

「はい!ご主人様であればなんら問題はありません。ただし召喚魔レベルは、召喚者レベルの能力に準じて発動します。」

 ここには誰もいないし、召喚しても問題はないな。

「出でよシャドウウルフ!」

 名前を呼ぶと魔法陣が浮かび上がり、魔法陣の真ん中に黒い物体が現れた。

 魔法陣が消えるとシャドウウルフは、コウを見つめてシッポを振っている。

 黒い毛並みを持つ狼犬の魔獣で、鋭い牙と爪に高い俊敏性を誇るとシノが教えてくれた。

 ランランと光る目が特徴だが、よく見ると可愛らしく思えてきた。

「名前を付けるか!」

 オオカミと言へば、ロキと言う名前が頭に浮かんだ・・・意味はまったく無い。

「シャドウウルフよ!お前の名前は今からロキだ!」

 ロキの頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細めている。

「ご主人様、シヤドウウルフは影の中に隠れる事ができ、影から影に空間移動ができます。」

「空間移動!すごい能力だ。」

「召喚魔の能力値は、召喚者のレベルに応じて高くなりスキルを覚えていきます。」

 シノが召喚魔の事を詳しく教えてくれた。

 召喚術のスキルは一定のレベルに達すると、召喚魔の枠が増えてくるそうだ。

 初めは指示通りの命令しかきかないが、行動する時間に応じて召喚者の意思に沿って行動するようになるので一緒にいる時間を増やしたいところだ。

 現代風に言えば、AI機能で学習して強くなる感じだ。

 新たにロキを連れて、シノと一緒にダンセット遺跡の再調査だ。


 物陰にいる黒蛇や壁の隙間から飛び出てくる毒カエルは、ロキがあっと言う間に片付けてくれるので移動が非常に楽だ。(少しは俺にも討伐させてほしいな~)

 ロキの察知能力は優れているようで、敵がこちらに気付く前にロキが俺に教えてくれる。

 たまに誉めて欲しいのか俺の体をこする仕草をするので、体を撫でてやると気持ち良さそうに喜ぶ。

 スキンシップは大事だ!それにロキの毛並みはモフモフとしていて撫でると気持ちが良い。

 ロキの行動を確認する意味も含めて、前回と同じ場所を探索した。

 ゴブリンの出現は、数は違うがほぼ同じ種類とレベルを確認した。

 俺は新たに風魔法のエヤーカッターを取得し、火と風の二種類の攻撃魔法を使いこなせるようになった。

「やっぱり魔法は便利だな!」

 シノは俺の後ろに控えており、ほとんど戦闘には参加せず俺とロキを保護者のように見守っている。

 あまり魔法を使い過ぎたのか、急に魔法が発動しなくなった。

「ご主人様、MPを使い果たすと魔法が発動しなくなります。」

「MPが無くなったのか!思っていた以上に少ないな。復活させるにはどうしたらいい。」

「通常は、マジックポーションを飲んで一時的にMPを回復させるか、休息を取り自然回復させるのが一般の冒険者です。尚、迷宮には回復の泉が発見される場合があります。」

「一般の冒険者でない場合は?」

「マジックドレインの魔法で相手からMPを吸い取る方法があります。」

「ご主人様の魔力があれば、レベルと共にこれらの上級魔法を覚えるはずです。」

 シノから俺はほとんどの魔法は覚えられると聞いて戸惑ってしまったが、上級魔法などバレない様に使うにはどうすればいいのか悩んでいた。


 何箇所かの小部屋を探索し、宝箱も回収してほぼ1階の探索は済んだ。

「地下に行ける階段が見当たらないな~」

 たしかゲームの記憶ではこの辺りですぐに見つかったはずだが?

「ダンセット遺跡では地下への階段は発見されていません。」

 シノの言葉を聞いて、驚いて固まってしまった。

「地下への階段が無い!」

 いやそんなことはないはずだ。たしかに地下の探索をした記憶がある。

 ゲームとは違うのか?それともまだ発見されてないだけでは?

 あちらこちら小部屋を探して見たが、ゴブリンと遭遇するだけで地下への階段は見つからなかった。

 気になる部屋が一か所あったが、魔法によるカギがかかっていて入れなかった。

 何かがたりないのか?

 イベント等の何かの条件がたりないみたいだな?

 これより先はまだ進められないと判断した。

「今日の探索は終わろう。」

 ロキを魔法陣の中に呼び召喚を解除すると、シッポを振りながら消えてしまった。

 ロキがいなくなると少し寂しい気分になったが、ロキの戦闘力は満足のいくものだった。


 ギルドに戻るまでの道のりは、シノと2人でダンセット遺跡で見た内容をひとつひとつ確認をした。

 シノと歩きながらの会話は新鮮な感じがして、こちらの世界も良いもんだなと思い帰途についた。


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