第28話 前途多難なパーティー

 ビックモールが2本足で立ち、目の前にいるグレンを今にも襲い掛かろうとしている。


 グレンの後ろには、双子の少女達が地面に転げて動けない状態でいる。

「テレサさん!彼女達を後方に逃がして下さい!」

「俺がビックモールの注意を引きますので、それまで留まって下さい!」

 ビックモールの爪がグレンに襲い掛かった瞬間に、ファイヤーボールで爪をめがけて放った。

 威力は小さいが、ビックモールの爪に当たったお陰でグレンへの直撃は避けれらた。

 横に弾けた爪をグレンは斧で叩き潰す。

 もう一度ファイヤーボールを顔面目掛けて放つ。

 的が大きいので外すことはない、魔法を放つと同時にビックモールに近寄り剣で横っ腹を突き刺す。

「グレンさん!休まず攻撃を続けて下さい。」

 グレンはもてる力を振り縛って、斧を振りかぶる。

 一発・二発・三発目の攻撃で、ビックモールが倒れた。

 グレンの攻撃に合わせて俺も剣で腹を何回も突き刺す。

 最後のあがきでシッポがグレンを目掛けて動いた瞬間に、テレサが小刀で切り落とした。

 ナイスフォロー

「グレンさん~止めを刺して下さい!」

 グレンは俺の言葉を合図に、ビックモールの首元に斧を突き刺した。

 ビックモールはその場から動かなくなったが、グレンもその場でへたり込んでしまった。

「グレンさん!ビックモールを倒しましたよ!」

 グレンは手を上げて答えたが、声は出なかった。


 後方に移動していた双子の姉妹リナとユナがグレンに駆け寄る。

「お兄ちゃん!大丈夫!」

 2人はグレンに抱きついたまま離れない。

「リナ・ユナ・・・二人とも怪我はないか?」

 グレンは2人の服に付いた土ぼこりを払いながら全体を確認していると、急に大声を上げた。

「リナ・ユナ!2人とも血が出ている!痛くないか!」

 グレンは顔面蒼白になってうろたえ始めた。

「お兄ちゃん、何も痛くないよ。」

「リナ!お尻が真っ赤だよ!」

「ユナも足に血が流れ出ているよ!」

 リナとユナがお互いに体の確認をした。

「2人共、本当に痛くないのかな!」

 服から垂れている血を見て、これはと感じた。

「テレサさん!こちらに来て下さい・・・折り入ってお願いがあります。」

 テレサに話をして、近くの川に2人を連れて行ってキレイにしてもらうようお願いをした。

 テレサは恥ずかしそうにうなずくと、2人の手を引いて近くの川に移動した。

 グレンは心配そうにそわそわしだした。

「コウ殿!リナとユナは大丈夫か?」

「グレンさん大丈夫ですよ!2人共怪我はしていませんから!」

「それにテレサさんがついていてくれますので、我々は魔物の後片づけをしましょう。」

 彼女達が戻ってくるまで、グレンと二人で討伐したモールをアイテムバックに回収して回った。

 グレンはアイテムバックを見て驚きを隠せなかったが、詮索はしなかった。

 アイテムバックよりリナとユナが心配でそれどころではなさそうな様子だ。

「コウ殿、リナとユナに付いていた血は一体なんだろう?」

「グレンさん、心配はいりませんよ。」

 グレンがあまりにも心配しているので、説明をしてあげた。

 グレンは俺の説明を聞いて、顔を真っ赤にしている。

 後で聞いた話では、月経の日は「穢れの日」と言われ、部屋や小屋に閉じこもり人との接触を避けるのが一般的で、女性同士でも話題にはしないそうだ。

 こちらの異世界では生理用品がないので、女性の行動が制限されるのは仕方がないかもしれない。


 魔物の後片づけも終わり村長にも報告を済ませ、彼女達が戻ってくるのをグレンと待っていた。


 しばらくすると、彼女達が戻ってきた。

「コウさん、遅くなり申し訳ございません。」

 テレサが照れくさそうに彼女達に説明した事を報告してくれた。

「テレサさん、無理なお願を聞いて下さりありがとうございます。」

「とんでもございません、ただコウさんが詳しいのに驚いているだけです。」

 俺としては当たり前で誰でも知っていると思っていただけに、この件には今後は触れないようにしよう。

 リナとユナも恥ずかしそうにグレンの傍によってきた。

「お兄ちゃん、ごめんなさい。」

「謝る必要はない!怪我でなくてよかった。」

 グレンは真っ赤な顔で二人の頭をなでた。

 リナもユナも真っ赤な顔でグレンに抱きついた。

 グレン達が落ち着いたのを見計らって、今日の冒険は一旦終了しギルドに戻る事を提案した。


 戻る途中にもリナとユナは、テレサを伴って用を足しに草むらに足を運んだ。

 待っている時間を使ってグレンと俺は薬草採取と、偶然出くわすホーンラビットを二人がかりで倒してお互いの連携が出来るようになってきた。

 リナとユナが途中きつそうな表情をしていたので、休憩がてらテレサも伴って討伐を繰り返しながら帰途についた。


 ギルドに戻ってから、討伐報告と魔物の解体を依頼してた解体報告書をエリスに提出した。

「コウさん、今回は私の依頼を引き受けてくれてありがとうございます。」

「エリスさん、気にしないで下さい。」

 孤児院ことはエリスから聞いていたので、少しでも役に立ちたいと思っていたので渡りに船だった。

 ただし別の思惑として、信頼できるパーティーを多く作りたいと考えていた。

「今回の報酬です。」

 エリスから渡された金額は、グラックモール22匹が11金貨・ビックモール1匹が5金貨・ホーンラビット9匹が9金貨で合計30金貨。解体報告書の金額が手数料を差し引いて20金貨の合計50金貨になります。

「今回は合同パーティーなので、報酬はお互いのリーダーが話し合いで分けていただきます。」

「わかりました、グレンさんと話して決めます。」

「ありがとうね~コウさんにお願いしてよかった。」

「エリスさん!おだてても何もでませんよ!」

「それにしてもコウさんは何者ですか?とても女子の体について詳しいようですが!」

 エリスが俺を変な目で見ているのに、ごまかす言葉が出ず笑いながらその場を逃げるように離れた。

「コウさん!ギルドカードを通しておいて下さいよ!」

 エリスの言葉は聞こえたが、とりあえずその場から離れた。


 グレン達が待っているテーブルに、逃げるように向かった。

「コウ殿お疲れさん!」

「コウさま、報告の手続きお疲れ様です。」

 グレンとテレサが俺に労いの言葉をかけるが、リナとユナの二人は下を向いたままだ。

「グレンさん、今回の報酬金は50金貨です。」

 報酬金の内訳をみんなに説明して、テーブルの上に金貨を並べた。

「今回は合同パーティーで依頼を受けましたので、お互い半分でいかがでしょうか?」

「コウ殿、今回はこちらからお願いしたことで、レベル上げが目的なので報酬は要りません。」

 グレンは分けたお金をこちらに返してきた。

「グレンさんの気持ちはよくわかります。しかし合同パーティーはお互いのリーダー同士の話し合いで決めるものです。今回の目的はこちらもレベル上げが目的でお互い同じ立場です。」

「コウ殿、本来なら初心者の俺にガキが二人のパーティーなんかと合同で組んでくれるはずがないだろう!」

「そんな事はありません!今回テレサさんと初めての討伐だったし、グレンさんのパーティーとも今後も一緒に冒険が出来る人と判断したから引き受けたんです。」

「それに今回の討伐の功労者は、人一倍頑張ったグレンさんにあり、報酬を受け取る権利があります。」

「コウ殿・・・」

 何が何でもグレンに報酬を受けとってもらいたい気持ちで訴えた。

 グレンは何か考え事をしているのか暫く無言でいたが、落ち込んでいるリナとユナを見ながら口を開いた。

「コウ殿のお気遣い有難く受けよう。」

 グレンはやっと半分の金額を受け取ってくれた。

「今日は2人を連れて孤児院に帰るとする。」

 グレンはリナとユナに声を掛けると、俺らにお礼を言って席を立った。

「グレンさん!ギルドカードの更新を忘れずに!」

「ありがとう!今後もよろしく頼む!」

「それと今度からはガキ2人の世話ではなく、女子2人の世話をしてあげて下さい。」

 グレンは少し照れながら、リナとユナに両手を引っ張られながらギルドを後にした。


 2人になったテーブルで、テレサにも半分の報酬を渡し今後も一緒に冒険をする約束をした。

 レベルが上がったのが嬉しかったのか、それとも報酬額が多かったかからかはわからないが、上機嫌でギルドを後にした。


 一人になった俺は、テーブルで果汁水を飲みながら今からの事を考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る