第25話 再会

 副ギルド長からの話が済んで、シノが待っているテーブルで椅子に腰掛けため息をついた。


 しばらくして、シノが念話で頭の中に話しかけてきた。

「護送の依頼はどういたしますか?」

「2人が回復してから相談して決めるつもりだ。」

「ただ、今回の護送はひと騒動ありそうな予感がする。」

「それに通常の護衛依頼でもリスクが大きいし、今のレベルでは多少不安だな。」

「今回はシノがご一緒させていただきますので、戦力的には何の問題はありません。」

「魔物の戦闘ならそれもよいが、人間相手だと能力は隠しておかないとマズイ事になる。」

 護衛の依頼は基本Eランク以上に上がらないと受けられない。

 護衛は依頼主を目的地まで送り届ける仕事だが、移動途中は魔物以外の襲撃がある。

 一番多いのが盗賊団であり、輸送車の金物はもちろん女や子供をさらうのが目的だ。

 ただし例外はある。

 誰かの依頼で、輸送車を襲うように指示された連中だ!

 とにかく護衛の依頼を受けるには、準備不足だ。

 考えれば考える程、頭が痛くなる。

 今は出来ることをしよう!

 俺は席を立ち、エリスのいる受付に向かった。


 エリスがいる受付に行くと、待っていたように声を掛けられた。

「コウさん!落ち着いた所で今回の出来事を話してくれるわよね!」

 エリスに詰め寄られて、俺はダンセット遺跡の出来事を説明した。

 シノの事は偶然居合わせて、助けてもらった事にした。

 今後は同じパーティーで行動することになったので、エリスにも納得してもらった。

「経緯はわかったわ。」

「シノさんがあの遺跡に居たことは謎ですけど、今後はコウさんと一緒であれば問題はありません。」

「あと、今回の報酬はホワイトボアの討伐と、ゴブリン20匹とソードマンにシャーマンで合計110金貨でしょう、それにダンセット遺跡の探索と救出料も合わせて150金貨です。」

「150金貨!」

「エリスさん!もらい過ぎではありませんか?」

「コウさん達はそれだけの事を成し遂げたんですから、当然の報酬です。」

「レイナさんやココさんも酷い目に合ったんです、退院したら美味しいものでも食べさせてあげて下さい。」

 エリスが含みを持たせた言いかたで、優しく微笑んだ。

「もちろんです。」

 俺は即座に返答した。

「エリスさん!調べ物をしたいのですが、2階の図書室は利用できますか?」

「コウさんは何か調べ物がおありですか?」

「一応薬師ですので、薬草の配合など後々の事を考えて調べておこうかと思いまして。」

「コウさんは勤勉ですね、この辺りの冒険者では居ないタイプですよ。」

 知らない事を知りたいと思うだけで勤勉とは!あまりの恥ずかしさに笑って誤魔化した。

「ギルドに登録した冒険者であれば、図書室はいつでも自由に使用して構いませんよ。」

「ただ、魔法書などは基礎編しかありませんのでここにない物は大きな町のギルドで探して下さい。」

「わかりました、ありがとうございます。」

「レイナさんにココさん、それにシノさんのお相手もちゃんとするんですよ!」

 シノの事を言われてドキッとしたが、エリスにお礼を言って2階への階段を上り図書室に向かった。

 シノは俺の後ろをついてくるが、気配がしないのでいるのか居ないのかが全くわからない。

 シノは他人がいる場合はめったに喋らず、俺には稔話で伝えるため喋らない美人冒険者で噂されている様子だ。

 兜をめったに脱がないレイナと同じ感覚で、謎を秘めている方が冒険者の気を引くみたいだ。


 2階の図書室に入ると、思ったより本が並んである。

 調べ物はいくらでもあるが、まずはポーションから調べよう。

 何冊か選んで近くのテーブルに足を運ぶと、思いがけない人が座って書物を読んでいた。

「テレサさん!」

「エッ!」

 テレサは俺の顔をみて驚いたが、名前を思い出せないみたいな表情をしていたので俺から名乗った。

「先日助けてもらったコウです。覚えていますか!」

「アッ!コウさんでしたね、お久しぶりです。」

「顔つきが変わってましたので、わかりませんでした。」

「そうですか・・・自覚は無いんですが今は冒険者をやっています。」

「冒険者の顔つきになって、カッコよくなっていますよ。」

「ホントですか!嘘でも嬉しいですよ。」

「嘘じゃありませんよ、本当に見違えるように素敵です。」

 テレサの言葉に、嘘とわかりそうな言葉でも嬉しくなる。

「テレサさんは図書室で何の調べ物をしているんですか?」

 少し間があってテレサは小さな声で答えた。

「妹の病気が治る薬草を調べています。」

 テレサの表情からは、詳しく言えない雰囲気がある。

 ここはこちらからしつこく聞かない方が良いだろう。

「そうですか・・・妹さんがご病気で治す方法を探しているんですね。」

 テレサは黙ったまま静かにコクリと頭を下げた。

「そうだ!テレサさんには改めてお礼を言わせて下さい。」

「先日は助けて頂きましてありがとうございました。今は冒険者として日々の暮らしを立てています。」

「本当に冒険者になったのですか!」

「はい、職業は薬師ですが他のメンバーに助けられながら依頼をこなしています。」

「職業が薬師ですか!」

 テレサは少し驚いた様子で俺をじっと見つめる。

「採取だけだとお金が少ないのとレベルが中々上がりませんので、剣を持って討伐の依頼も受けています。」

 テレサは少し考え事をしてたみたいだが、急に立ち上がり声を掛けてきた。

「コウさん!私も一緒に冒険に連れていってはくれませんか!」

 テレサの言葉にビックリしたが、日々の生活費や妹の病気の治療の事で色々思うところがあっての事だろう。

「お恥ずかしい話ですが、薬草の報酬で日々の生活をまかなっていますが正直苦しいです。それに病気を治すためのお金も貯めないといけません。」

「私は薬草採取の依頼しか受けた事がありません。妹を1人部屋に残したまま留守には出来ない事情があり他の冒険者と同じ行動がとれない為です。」

 テレサが今までトラブルになって他の冒険者に迷惑をかけてきたことを話してくれた。

「なぜ俺と一緒に冒険を!」

 一番疑問に思うところを訪ねてみた。

「初めて出会ってから数日で冒険者になりなお且つパーティーまで組める手腕と、戦闘に無縁な職業で冒険者をこなしている底知れない実力を持っている方ではないかと思いまして。」

「テレサさん!買いかぶりですよ・・・本当に運がよかっただけですから。」

「そんな風には見えませんよ、それに薬師の方とお知り合いになるのは病気を治すのに役に立つのではと考えてしまいました。」

 テレサは申し訳なさそうな表情で、頭を下げた。

「事情は分かりました。仲間が回復するまでの間一緒に行動してみますか。」

「本当ですか!」

 テレサはビックリした様子の表情を俺に見せた。

「俺は問題ありませんが、一つ条件があります。」

「条件・・・ですか?」

 急にテレサの表情が不安になって俺を見つめる。

「薬草の配合や調合の事を教えてくれませんか?」

 とんでもない事を要求されると思っていたテレサは、拍子抜けした表情になった。

「薬師の貴方が教えを乞うのですか!」

「はい、薬師とは名ばかりで全くわかりません。」

 俺は今から独学で覚えるよりも教えてもらった方が近道と考えていることや、いずれは錬金術を習得して高く売れそうなポーションや魔道具を作りたいという願望を語った。

「素晴らしいですわ~私の知識でお役に立つのであればお手伝いさせて下さい。」

 テレサの表情が不安から解放された様子に変わったので、上手く伝わったと確信した。

「ありがとうございます。」

 テレサにお礼を伝えてから、隣の椅子に座ってもよい返事を頂いた。

「それではテレサさんが帰宅する時間まで、この図書室で薬草について勉強したいと思います。」

「エッ!今からですか?」

「はい!時は金なりで、知識はお金になりますので今からお願いします。冒険は明日から行動しましょう。」 

 テレサはビックリしていたが、笑いながらうなずいてくれて薬草の書物を丁寧に教えてくれた。


 テレサの教え方が上手いのか、非常に役に立つ勉強ができあっという間に帰宅する時間になった。

「今日はありがとうございました。」

「こちらこそありがとうございました。コウさんは呑み込みが早いですし凄い物知りですね!」

「イエイエ、テレサさんの知識には感心しました。」

 お互い褒め合ってから、少し間が開いて笑い出した。

「では明日の朝、ギルドで待ち合わせましょう。」

「明日はよろしくお願いいたします。」

 テレサと俺は明日の約束をして、図書室を後にした。


 テレサと別れた後、診療所のレイナとココに今日のでき事を話してきた。

 2人が回復するまでの間、テレサとシノの3人で依頼をこなす了承を得てから宿に戻った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る