第24話 ギルドからの依頼
診療所を出ると、道を挟んで斜め向かいの空き地に木材が運ばれている。
「新しい建物が建つのかな?」
先ほど見かけた大工さんの姿も見える。
色んな施設が出来ると冒険がやり易くなるので大歓迎だ。
ただ少し気になる一団がいる。
ギルドの入口にチラホラ見かける騎士!
人探しでもしている様子で、道を歩く人やギルドに出入りする冒険者に声を掛けている。
ナントなく怪しい人達だ!
俺もギルドの入口で呼び止められた。
「何か!」
「私営自衛団への勧誘をしているんだが、興味はないかな!」
「特に魔法が使えるなら、好待遇で迎えるが職業を教えてもらえるかな。」
「職業は薬師ですので採取が専門です。」
「腰に付いてる剣はどうしてかな?」
「この剣は飾りみたいなものです、戦闘になれば逃げますので何の役にも立ちませんよ。」
会話を交わすと怪しい騎士たちは違うなと言う雰囲気で、別の冒険者に向かった。
明らかに人探しの集団だ。
それも魔法を使う人物をさがしているみたいだ。
関わるのはマズイと感じたので、すぐその場を後にしてギルドの建物の中に入った。
ギルドの中はいつもと同じ様に賑やかだ。
俺は少し安堵した気分で受付に向かった。
「コウさん!話があります。」
いきなりエリスが厳しい表情で声を掛けてぃた。
「エリスさん~心配かけてすみません。」
「副ギルド長の話がありますので、2階の部屋に来て下さい。」
副ギルド長から呼び出しとは・・・今回の事で何か問題があったかな~
色々考えて少し不安になったが、こちらのルールには従わないといけないからな~
エリスの後ろに付いて階段を上がり、副ギルド長の部屋に案内された。
「トントン・・・黄金の大地のコウさんをお連れ致しました。」
「おう!入れ。」
エリスに案内されて部屋に入ると、大きな体の男がイスに座っていた。
「副ギルド長のトーマスだ。」
「今日はご苦労だったな。そちらに掛けてくれたまえ。」
「黄金の大地のコウです。」
言われるままにテーブルを挟んでソファーに座った。
「ダンセット遺跡の件は聞いている。ゴブリンの集団に出くわしたそうだな。」
「はい、ギルドの情報よりも数が多くて、なおかつゴブリンソードマンやゴブリンシャーマンにも出くわしました。」
「この辺りでゴブリンシャーマンが居たのは大きな問題になる。」
「仲間の二人もゴブリンシャーマンの魔法攻撃を食らいました。」
「幸い命に別状はなかったそうで安心したが、よく討伐出来たな。」
「運がよかったです。」
トーマスが疑いらしきの目を見せたが、詮索はしなかった。
「君が助けた女性達は捜索依頼が出ていた村の住人で、村長からお礼の言葉を受けている。」
「そうですか、それは良かったです。」
「もう一人、大怪我をしていた女性の方は?」
「うむ・・・彼女は村の住人ではなく、とある貴族の関係者だ。」
「貴族のかたですか!」
「君たちのおかげで命はとりとめたが、手足が切り落とされていて惨い状態だ。」
彼女の事を思い出すと、心が痛んだ。
俺は、切り落とされていた手足をアイテムバックに入れて持ち帰っている事を副ギルド長に報告した。
副ギルド長は驚いた表情をしたが、アイテムバックの事は触れずに考え込んでいた。
「手足の復活が可能であれば話が大きく変わる。」
「コウ殿に彼女の護送をお願いしたいのだが、依頼を受けてもらえるかな。」
「俺がですか!俺達はまだFランクですよ。」
「今回の一件で、君達はそれなりの実力があるパーティーと判断している。」
「この依頼を無事達成できたら、君達をEランクに昇格させる。」
「Eランクに昇格ですか!悪い話ではありませんが・・なぜ俺達なのですか?」
「彼女が重要な人物であれば、俺達よりもレベルの高いパーティーに依頼した方が無難だと思いますが。」
疑問を感じたので素直に尋ねてみた。
エリスも同じ疑問だと思ったのか、副ギルド長に口を挟んだ。
「トーマス様!現在セシール支店には、イザベェルの森の調査でDランクのパーティーが何組かいます。そちらに依頼した方が安全ではないでしょうか?」
「コウさん達のパーティーはまだ経験が浅く、危険な事に巻き込まれる恐れがあります。」
エリスが俺達の事を心配してくれているのが嬉しく思えた。
「エリス君、私はこれでも人を見る目は有るつもりだよ。」
「彼を推挙する理由はもう一つある。」
「彼女の事を大ぴらに出来ない事情がある。」
トーマスは、神妙な表情で話をしてくれた。
「彼女の事を内密にして置くには、救出した彼ら以外には伏せておきたいのだ。」
「彼らは信用のおける人物だと思うが、エリス君はどう見ているかな?」
トーマスはエリスの能力を確かめるような言いかたで問いかけた。
「彼らのパーティーはバランスがよく取れていて、最近登録した中ではレベルが高いと思います。」
「その根拠は?」
トーマスが確認するかの様に問いかける。
「聖魔法が使えるクルセイダー・ウルフ2匹を従えるテイマー・戦闘時の状況判断と底知れない実力があるリーダーの存在が大きいです。またリーダーが薬師という通常では考えにくい組み合わせが、他のパーティーにない未知なるものを感じます。」
「ほう!」
「それに今しがた、魔法剣士の方が同じパーティーに登録されました。」
「4人中2人が上級職、残りの2人は冒険者パーティーではあまりいない組み合わせで判断が出来ませんが、3人の実力はギルド評価基準をクリアーしています。」
「ギルド評価基準・・・それは何ですか?」
聞きなれない言葉が出たので訪ねてみた。
「ギルド評価基準とは、あまり詳しくは言えないけどランク上げに必要な内申書みたいなものです。」
内申書と言う言葉に、つい身構えてソファーに座りなおした。
「それでは問題はありませんね。ここで彼らに経験を積ませる意味で依頼を出しても良いのでは!」
「それは・・・」
エリスの言葉が詰まってしまった。
この依頼には何か深い事情がありそうだが、ここでは触れない様にしておこう。
「モーリスさん、この依頼俺1人の判断では決められません。」
「コウ殿、今すぐ返事をする必要はありません。」
「彼女の回復が、移動に耐えうる状態まで回復してからの話しです。」
「その時が来たらまたお話をさせていただきます。」
「それまではご内密にお願いします。」
「わかりました。仲間が回復したら相談しておきます。」
「良い返事をお待ちしております。」
「それと、仲間の治療費はギルドがお支払いしますので気になさらないのと、今回の報酬は多少色を付けておきますからエリスから受け取って下さい。」
「そんな事をしていいんですか?」
「これでも副ギルド長です。ある程度の権限は持っておりますよ。」
モールスのドヤ顔を見たが、上手く乗せられた感じがしたが気分は悪くはない。
さすが副ギルド長だ、人の扱い方は慣れているようだ。
話が済んだところで、エリスと共に部屋を出て1階へと階段を降りた。
「コウさん、大変な事に巻き込んでしまってごめんなさいね。」
「エリスさんが謝る事はないですよ。それより俺らを心配してくれて有難うございます。」
「きにしないで!これもお仕事の一環なの!」
エリスの笑顔に張りつめていた緊張が和らいだ。
「先ほどの彼女の冒険者登録は済んでいるので、後で受付に顔を出してね。」
エリスは仕事が立て込んでいる理由で、話は落ち着いてからという事になった。
1階のロビーに降りてきた俺は、一番隅に座って待っているシノを見つけた。
何人かの冒険者がシノに声を掛けていた様子だが、一言も喋らなかったみたいだ。
近くの男達から、耳が聞こえない女などと言う言葉が聞こえた。
シノとは念話で話が出来るので喋る必要はない。
「お疲れ様です。お待ちしておりましたご主人様。」
俺の頭の中にシノが話掛ける。
「副ギルド長の話は聞いてたな。」
「はい。」
「2人が回復したら、今後の事を話し合おう。」
少し疲れが出たのかシノが用意していた果汁水を飲み欲し、天井を見上げながらため息をついた。
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