第23話 診療所

 ダンセット遺跡を後にして、シノと2人でセシール村の入口に戻ってきた。


「コウ殿!よくご無事で怪我はなかったですか?」

 いつもの門番が心配そうな表情で声を掛けてくれる。

「ご心配をおかけしました。この通りピンピンしています。」

「それは良かったです。」

「レイナ殿とココ殿も命に別状はなく、ギルドの診療所で治療を受けています。」

「ありがとうございます!すぐにいきます。」

「そちらの若い女性の方は?」

「ダンセット遺跡の探索でゴブリンに襲われた時に、偶然居合わせていて我々を助けたくれた恩人です。」

「そうですか!ようこそセシール村へ、ゆっくりしていって下さい。」

 門番は笑顔でシノに声を掛けて入口を通過させてくれた。


 シノと一緒に門番に頭を下げて、冒険者ギルドに向かった。

 途中の道では、木材を運んでいる人や大工さんらしい人達を見かけた。


 ギルドの扉を開けてすぐに受付嬢のエリスを探して駆け寄った。

「エリスさん!レイナ様やココはどこにいますか!」

「コウさんご無事でしたか!」

「はい、俺は大丈夫です。それより二人が心配です。」

「二人は隣りの診療所に運ばれ治療を受けています。」

「隣に診療所!」

「普段は駆け出しの僧侶が治療を行っているのですが、時々教会から派遣される聖女様が居る時もあり、たまたまその聖女様が来ているんですよ。」

「教会から聖女様がきているんですか。」

「救援隊が運んできた村の女性や大怪我の冒険者の方も聖女様の治療で命はとりとめたそうですよ。」

「ありがとうございます。診療所に行ってきます!」

「コウさん!落ち着いたら報告して下さいね!」

「わかりました。」

「それとこちらの女性の方はどちら様ですか?」

「エリスさん・・・冒険者登録をお願いできませんか!」

 シノの姿が不審に見えないか確認しながら、恐る恐るエリスにお願いしてみた。

「彼女の冒険者登録を!」

 エリスはじっと見たままだ。

「お願いします。説明は後ほどします。」

「登録は構わないけど、話はしっかり聞くからね!」

 シノをエリスに合わせて、冒険者登録が済んだらここで待っているように伝えてギルドを後にした。


 初めは気が付かなかったが、大きなギルドの建物の横にも西洋風の建物がある。

「ギルドの横に診療所があるなんて、気がつかなかった。」

 入口が2ヶ所あり、右側は普通の出入口、左側は観音扉に似ていて左右に大きく開くようになっている。

 病院でいう救急外来みたいで、荷車や馬車ごと入れるような倉庫みたいな造りだ。

 普通の入口から入ると待合室みたいなロビーがあり、怪我をしている冒険者の他に一般の住人や近くの村人らしき人の姿も目に映った。

 手や足に怪我をしている住人も多く来ていて、中には子供を抱えた女性の姿もある。

 今までより、魔物の影響が多く出ていると感じる風景だ。

 正面奥に受付があり左側の通路は救急外来の広場へ、右側の通路は診療室への通路になっている。


「すみません!こちらに搬送された冒険者はどちらにいますか!」

「先ほど救援隊が運んで来た人達ですね。」

 受付にいる若い女性の職員は、手元にある資料を確認している。

「診察室の奥にある左側の部屋に村人が4名、右側の部屋に冒険者の方が2名、重症の冒険者は一番突き当りの部屋です。」

「部屋に入ってもよいですか?」

「お知り合いの方でしたらどうぞ。」

 プライバシーも個人情報もこの世界では、あまり厳しくはなさそうだ。

「冒険者さんのお知り合いでしたら、お連れのウルフを2匹を預かっています。帰られる時に声を掛けて下さい。」

「有り難うございます。」

 受付嬢に頭を下げて、レイナとココがいる部屋に向かった。

 部屋の扉をノックしてから中を覗いてみる。

 部屋の中はとても広く、ベットが10台ほど並べてある。

 怪我をしている冒険者が別に3名ベットに寝ていて、レイナとココの2人は一番奥のベットに寝ていた。

 レイナのベット横には鎧一式と剣・盾が置かれている。

 ココのベットには焦げた防具と服、それにナイフが置かれている。

 2人とも意識はしっかりしている様子だ。

「2人とも無事でよかった。」

「コウ様、申し訳ありません。」

「コウ!ごめんなさい。」

 2人とも神妙な表情で俺に謝る。

「謝る必要はないですよ、俺こそ危険な目に合わせて申し訳なかったです。」

 みんな気まずい雰囲気だったが、ココの何気ない一言で一瞬で吹き飛んだ。

「コウ!防具と服が焦げて、いまスッポンポンだよ!」

「エッ!・・・」

「シーツの下は何も着ていないのか!」

 驚きでついじっとみてしまった。

「コウ~シーツの下を覗いてみる。」

「ココ~変な事を言わないでおくれ~」

 ココの誘惑に顔が熱くなって目を背けてしまった。

「コウ様~私は下着を履いていますので、覗いても問題はありませんよ~」

 ココから目を背けてレイナの方を向くと、レイナは大胆にもシーツを少しめくって見せる。

「レイナ様~下着が見えますよ~」

 レイナの白い下着が目に焼き付いてしまって、顔から火が出るぐらい熱くなってしまった。

 俺はベットを背に後ろ向きになり、見たいのをグット我慢した。

「ココもレイナ様も、軽々しく男性に見せるものではありませんよ。」

「男が欲情して襲ってきたらどうするんですか!」

「普段は絶対にありえません・・コウ様だけですから・・・」

「ココもコウだけだよ・・こんなことを言うのは・・・」

 2人とも顔を赤らめながら小さな声で話す。 

 ココとレイナのそんな表情をみて、照れながらも安心してしまった。

「2人とも元気そうでよかったです。でも俺も男ですので欲情するかもしれませんよ!」

 わざとらしく2人に言うと、2人同時に返事が戻ってきた。

「構いませんわ!」

「欲情して!」

 2人の返事に驚いたが、嬉しそうな顔を見て心の底から2人が無事で良かったと思えた。

「今から俺は、今回の事をギルドに報告してきます。」

「コウ様、よろしくお願いします。」

「コウ!ありがとう!」

 2人共笑顔で俺を見送ってくれた。


 受付にあいさつをして出ようとしたら、受付嬢から声を掛けられた。

「二人の治療費の支払いはギルドが立て替えていますので、後ほどギルドでお支払いをお願いしてもよろしいでしょうか。」

「治療費!アッ・・・そうですね、ギルドが立て替えてくれているのですか。」

 見習い僧侶であれば安いが、聖女様の治療であればお布施という名目で高く付くらしい。

 救出された村人の女性達は連れ去らわれてから日が浅かったので、聖女様の魔法で体内の毒液は浄化されたとの事で一安心だそうだ。

 受付嬢も同じ女性として、聖女様がいて良かったと喜んでいる。

 見習い僧侶では浄化の魔法は高レベルにならないと取得できないので、今回は聖女様がいたのは運がよかったかもしれない。

 レイナとココ症状は、状態異常や呪い等は無いとの事で、見習い僧侶の手当とベット使用料のみで済むとのことでひとまず安心した。

「ギルドでお支払いしておきます。」

「わかりました。二人ともご無事でよかったですね。」

 受付嬢は微笑みながらクロとシロの事や、救出された村人の状態を教えてくれた。

 特に手と足を切断された冒険者の事について色々聞きたかったが、プライバシーに触れるとマズいので受付嬢の話しを聞くだけにしてこちらからは何も質問はしなかった。

 ただ彼女の物かもしれない槍を、ギルドに預けておきますと伝言を頼んだ。

 受付嬢は心得たようで伝言を引き受けてくれた。


 受付嬢にあいさつをしてから診療所を出て、冒険者ギルドのエリスの元に向かった。


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