第21話 ダンセット遺跡探索②

 初心冒険者のレベル上げに最適なダンセット遺跡であったが、最近ゴブリンの数が増えたのとギルドに報告が挙がっている。 


 通常はEランク以下の魔物だけなはずが、それ以上の魔物やゴブリンが確認されてからは初心冒険者が大怪我や命を落とすようになってきた。

 特に女性がいるパーティーの被害が多くなっている。

 当然冒険者は自分の判断で討伐や探索をする義務があるので、命を落としても自己責任である。

 ギルドとしては単独は禁止とし、主な場所は届出を義務付けしている。

 特にセシール支店は初心者の保護及び育成に力を入れているので、情報提供やアドバイスを怠る事はしない。

 ギルド職員の定期的な調査と、万が一に備えての救援隊・捜索隊の準備も整えている。

 実力があるパーティーには、危険が及んでいるパーティーの加勢や行方不明の冒険者の捜索も報酬の対象にしているが、それでも問題事は多くなる一方で頭を悩ませている。


 ギルド職員の受付嬢エリスは、この道のベテランである。

 常に才能のある冒険者や問題を起こしそうな冒険者をチエックしており、コウ達のパーティー「黄金の大地」もその一つに挙げられている。


 この扉の先にどんな魔物がいるのか、気を引き締めて慎重に扉に手をかけた。

「ギィ~」

 扉の錆びついたイヤな音が小さく響く。

 部屋の中は薄暗くイヤな匂いがただよっている。

 レイナが盾を構えて防御体制のままゆっくり進む。

 その後ろに俺が隠れるように続く。

 ココと従魔は扉で待機している。

 前方で物音がした瞬間に弓矢が飛んで来て盾に当たる。

 同時に左右からコブリンがこん棒を振り回して襲ってきた。

 レイナと俺は左右に別れてコブリンに剣で応戦する。

 ゴブリンを弾き飛ばすと別のゴブリンが襲い掛かってくる。

 ゴブリンの攻撃は何とかかわせるが、4匹のゴブリンに囲まれて防戦一方になってお互い動けない。

 レイナの方はゴブリンが6匹で囲んでいる。

 目の前の敵に集中すると弓矢が飛んで来るので、そちらも避けないといけない。

「ココ、後方にいる射手を退治してくれ!」

 ココ達が気付かれない様に部屋の奥に回り、ゴブリンアーチァーを見つけて仕留める。

「射手を仕留めたよ!」

 クロとシロの素早い動きと鋭い牙の攻撃、ココのナイフ攻撃であっという間に倒した。

「コウ大変だ!」

 ココが急に慌てて叫んだ。

「ゴブリンソードマンとシャーマンがいるよ!」

 コブリンソードマンは緑色のゴブリンに比べると、剣の使い方が上手く攻撃力も大きい。

 またゴブリンシャーマンは攻撃魔法を唱える非常に厄介な相手だ。

「シャーマンが魔法の呪文を唱え始めたよ!」

 マズイ!魔法攻撃に対する防御がない。

「ココ!ゴブリンシャーマンを優先して倒してくれ!」

 クロとシロがシャーマンに飛びかかったのと同時にファイヤーボールが発動し2匹は避けるように後方に下がった。

 シャーマンを守るようにソードマンが前方で立ち塞がり、その間にシャーマンが次の呪文を唱え始めた。

 レイナも俺もゴブリンを弱らせて1匹づつ倒していく。

 ココ達がシャーマンを攻撃しようとすると、ソードマンが邪魔をして近づけさせない。

 呪文を唱え終えた魔法がココ達を襲う。

 威力は小さいが数が多く避けるのが難しい、ファイヤーボールを唱えたシャーマンが不気味に笑った。

 ココ達は足や体にファイヤーボールを受けてしまい、その場に倒れてしまった。

「ココ!大丈夫か!!」

 返事がない!

 俺は残りのゴブリンを払いのけ、すぐにココの側に駆け寄った。

「よかった!気を失ったいるだけだ。」

 火球が当たった部分は黒く焦げているが、防具のおかげで致命傷ではない。

 ココの足にも火球が当たった様子だが、威力が小さくて火傷で済んでいる。

 クロもシロも体に当たり後方に飛ばされたが、その場で体制を立て直している。

 俺と対峙していたゴブリンが襲い掛かってくる。

 それと同時にゴブリンソードマンもこちらに襲い掛かってくる。

 ゴブリンシャーマンが魔法を唱えると、電撃の様な稲妻がレイナの頭上から落ちてきた。

「キャー・・・」

 レイナと対峙していたゴブリンも巻き添えでその場に倒れた。

 俺は前からくるソードマンにファイヤーボールを放ち、ひるんだ隙にココを抱きかかえて後ろから来るゴブリンの攻撃を避けながらシロとクロがいる場所まで下がった。

「シロ・クロ、ココを守ってくれ!」

 ココを入り口付近に置き、倒れたレイナの元に向かう。

「レイナ様!大丈夫ですか!」

 声を掛けたが返事がない。

 防具のおかげで命には別状はないようだが、意識は無い・・・雷の衝撃で気を失っているようだ。

 シノの呪文のおかげでソードマンとシャーマンの位置がはっきり見える。

「シノ、手伝ってくれ。」

「ご主人様、何なりとお申し付けください。」

「ソードマンの動きを止めて置いてくれ。俺がシャーマンを退治する。」

「かしこまりました。」

 シノがバックから飛び出て、ソードマンに向けて蜘蛛の糸を吹きかけた。

 ソードマンはどこからともなく体に巻き付く糸に身動きが取れなくなり、もがき始めた。

 シャーマンが呪文を唱え始め、動きが止まった瞬間を狙ってファイヤーボールを放つ。

 火球がシャーマンに当たり、後ろに倒れたのを逃さず剣で攻撃する。

 シャーマンは倒れたまま杖で攻撃してくるが、その杖を取り上げシャーマンの腹に突き刺した。

「ギィャー」

 叫びながらも近くにある物を手当たり次第に投げつけてくる。

 投げつける物のなかには冒険者からはぎ取った防具や女性の服も交じってある。

「今までの報いを受けろ!」

 俺は体を踏みつけて剣で首を突き刺し、シャーマンの息の根を止めた。

 残りはソードマンだけだ。

 幸いに蜘蛛の糸で動きが取れない様子で。後ろががら空きだ。

 満身の力を込めて背中に剣をさした。

 ソードマンは大きな悲鳴を上げて体の向きを変え、俺に向かって来ようとする。

 向きを変えたため、俺の剣は背中に刺さったまま手から無くなったしまった。

「まずい!何か武器がないか!」

 幸い蜘蛛の糸はまだ切れていない、汚い顔の威嚇のみだ!

 一瞬ひるんでしまったが、地面に転がってある武器を探して手当たり次第に突き刺した。

 何回かの突きで、いままでジタバタしていた手足が動かなくなり、俺を睨みながらその場に倒れ込んだ。

「これでゴブリンはすべて倒したな。」

 息を整えて辺りを見回す。

 倒したシャーマンの後方にもう一つの部屋の入口がある。

 こちらは扉が無いので、恐る恐る入ってみた。

 中に入るとアンモニアの悪臭がきつく、においが鼻についた。

 壁側には、裸の女性が5人倒れており、手足に鎖がつながれている。

 俺はすぐさま駆け寄り、生存の確認を一人ずつ行った。

「大丈夫ですか!助けに来ました冒険者です。」

 息はしているが全員が気を失ったままだ。

 体のあちこちにキズや殴られた跡があり、ゴブリン達の体液で汚れている。

 特に足に繋がれている鎖からの出血が凄くて痛々しい。

 一人ずつ傷の酷い所にポーション液をかけ応急処置をする。

 最後の一人は、鎖がない!

 よく見ると、鎖に繋がった左手と右足が切り落とされて別の場所に置かれてある。

「むごい!」

 こん棒で殴られたのか体の傷も深く、特に顔の腫れがヒドイ。

 女性の大事な部分にキズをつけるなん、むごいことをしたゴブリン達に腹が立ってきた。

「助けられなかった・・・」

 イヤ・・・よく見ると切り落とされた部分の出血が止まっている。

 魔法で止血をしたのか・・・まだ助けられるかもしれない。

 残りのポーションをすべて彼女に使い、回復してくれと願った。


「シノ!人間の姿でセシール村のギルドに報告して、すぐに救援に来る連絡をしてくれ。」

「かしこまりました、ご主人様。」

 シノは人間の姿に変化して、その場から一瞬で消えてしまった。

 俺は切り落とされた手と足を鎖から外し、アイテムバックに直した。

 俺のアイテムバックなら時間が止まっているので腐食はしないし、後で元に戻せるかもしれない。

 次に彼女らの衣服を探し、体に被せておく。


「私の・・武器を・・返せ・・・」

 小さな声が彼女から聞こえた。

「しっかりしろ!もう大丈夫だ!」

 彼女は息を吹き返した。


 よかった!俺は安堵して彼女を抱えたまま、救援隊が来るのを待った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る