第19話 魔法

 セシール村から一番近くにあるダンセット遺跡は、初心者冒険者がレベルを上げるには丁度よい場所である。 


 遺跡は地上1階と地下1階の2層で構成されており地下は暗闇のため、松明か魔道具のランタンを使うのが一般的だ。

 パーティー内に暗闇を明るくする光魔法のライトを唱える仲間がいれば道具の節約になる。

 闇魔法のダークアイは暗闇の中でも視力が確保できる魔法だが、上級魔法のため術者がいるかどうかは不明だ。

 遺跡の近くには魔道具のランタンに使う光魔石が採掘できる鉱山があるが、Eランクパーティー以上でDランクの実力がないと危険な場所とされている。

 松明もランタンもギルドで購入できるが、松明は安価だがあまりお勧めはできない。

 ランタンは器具を一度購入すれば、中身の光魔石だけを購入し入れ替えれば効率よく繰り返し使える。    

 ランタンは宝箱で見つかる確率が高いため、わざわざ購入する必要もなくまた荷物も増えるので入手できなかった時に準備すればよい。

 序盤で地下に潜るのはここの遺跡だけで、今回は地上1階のみの探索で地下には潜らない予定だ。

 別に準備をするのを忘れていたわけではない。

 まだ、今のレベルでは危険が大きいと判断しての決断だ。

 同じ失敗はしてはいけないし、レイナとココ達を危険な目に合わせたくないと頭の隅で考えている自分がいる。

 ゲームではやり直しがきくため無茶はするけど、現実は慎重になってしまう。

 しかし地下1階には数多くの宝箱があり、運がよければ初心者には凄すぎる品物もあるため初心者には必要な場所だ。

 レベルが上がればお世話になる場所で、何回も足を運ぶことになるだろう。 

 調査するダンセット遺跡は、ほぼすべての探索が済んでいたが、ここ最近魔物の姿が目撃されている。

 レベルの低い初心者が襲われ、帰らぬ人も何人か出て単独での立入は禁止されているとエリスから教えてもらった。


 遺跡の調査の前にパーティーのレベルを確認して、調査範囲を決めておきたい。

「パーティーのレベルを確認しておきましょう」

「コウ様、昨日ギルドカードを更新した時はレベル6でした。それに初級の回復魔法を覚えました。」

 レイナが回復魔法を取得したのがよほど嬉しいのか、声が弾んでいた。

「ココはレベル5だったよ。それに今まで使役出来なかった従魔が2匹も出来たよ。」

 クロとシロはダイヤウルフの変異種でまだ子供だけど、素早い動きと鋭い牙での攻撃、それに人間より優れている嗅覚による察知能力が役に立つ。

「シロは回復能力があるみたいだけど、クロも何かあるかもしれないよ。早くレベルが上がるといいね!」

 ココはシロとクロと顔をこすりながら自慢げに話す。」

「コウ様のレベルはいくらになりましたか?」

「昨日の更新でレベル3になっていました。」

 レイナやココに比べると少し情けないが、2人共こんな俺を信頼してくれているのでそれ程落ち込んではいない。

 それに俺にはゲームでの知識があるので、怪しまれないよう情報収集をしていた事にしておこう。

 従魔のシノがいる事は、今は内緒にしていた方がよいだろう。

 シノの話では、レベルが上がれば色んなスキルを覚えれると教えてもらっている。

 ただ俺の職業は薬師だ。

 職業に合わない事はしない方が身のためだし、厄介ごとに巻き込まれないとも限らない。

 今はレベル上げの経験値が必要なため、武器による攻撃と低級魔法を覚えておこう。

「レイナ様、生活魔法は使えますか?」

「魔力を持っている人は日常生活で使う程度の魔法はだれでも使えますよ。」

「誰でもですか?」

「はい。火をつけたり、水を出したり、風をおこしたりは出来ます。」

「どうすればできますか?」

「頭の中でイメージして、体の中にある魔力を魔法に変えて放出する感じですね。」

「頭の中でイメージですか・・・」

「火をイメージして人差し指の先に魔力を溜める感じです。」

 レイナが実際にやって見せた。

「レイナ様!すごいです。」

「ただ生活魔法は使えても、攻撃や回復魔法は固有のスキルがないといくら魔力があっても使用できません。

「ありがとうございます。俺もやってみます。」

 レイナが言うように人差し指に火のイメージを思い浮かべた。

 体の中にある魔力が人差し指に流れていく感じがする。

 人差し指の先にライターの火が3㎝ほど出た。

「火がでた!」

「コウ様、初めてなのにすごいですわ!」

「水も風も手のひらに同じ要領でできるとおもいますよ。」

 レイナが言うように水が手のひらから出てきた。

 風も手の平を差し出した方向にそよ風程度が出た。

「生活魔法は便利ですね。これはすごく役にたちます。」

「コウ様の職業は薬師ですので、薬を調合するときに必要になると思いますよ。」

 魔法が使えることがつい嬉しくなって何度も練習してみた。

 この感覚は異世界しか味わえないからな!


 つい夢中になって火の魔法を繰り返していたら、急に火の塊が指から飛んで行き目の前の大木に当たった。

 シロがビックリしたのか、飛び上がりココの後ろに隠れた。

「コウ!今のは何だったの?」

「コウ様!火属性の魔法が出来るのですか?」

「分かりません!勝手に飛び出てきたんです!」

「すごいです。火属性魔法が使えるなんて!さすがに私が見込んだお方ですわ!」

 レイナが意味不明の言葉を言った気がしたが、俺自身がビックリしている。

「剣の威力がない俺には、攻撃魔法は武器になりますね!」

 威力はあまりないが、魔法が使えるのは今後の展開に期待がもてる。

「剣が使えるだけでも凄い薬師ですけど・・・それに攻撃魔法まで使える薬師なんて!」

 レイナが笑いながら喋る。

 レイナにつられて俺も笑うしかない。

 2人が笑うのが楽しいのか同じ群れの仲間だと認識しているのかは分からないが、クロとシロも喜んだ感じで遠吠えをしている。 

「クロもシロも元気だな!何かあっても遠吠えがあれば迷子にならずに済みそうだ。」

 ココと従魔の息も合って来ているので、戦闘力アップで頼もしい限りだ。

 レイナも攻撃力・防御力共にアップしている様子が先ほどに戦いで実感している。

 俺は・・・今後を期待しよう!


 パーティー全員の確認と準備もできた所で、ダンセット遺跡の探索に出発だ!

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