第17話 冒険者ギルドの日常

 少し寝不足ではあるが、足取りは軽く宿屋の1階にある食堂に降りてきた。


 ココとレイナが待っているテーブルに近ずくと2人から声を掛けられた。

「コウおはよう!」

「コウ様おはようございます。」

 2人の笑顔が眩しく目を細めてしまった。

「レイナ様・ココ、おはようございます。」

「コウ、眠たそうだけど寝れなかったの!」

「コウ様、大丈夫ですか!」

 2人共俺の顔の表情を見て、心配してくれる。

「昨日はいろいろあって、夜遅くまで考え事をしていました。」

「お2人は、ゆっくり休めましたか?」

「ココは久々にお腹いっぱいに食べたので、一歩も動けずにぐっすり寝たよ!」

「私も、今まで悩んでた事が嘘のようにスッキリした気持ちで休めました。」

 2人共目覚めの良い朝を迎えたようだ!いい表情だ。


 泊り客に冒険者が多くいるのか、朝から食堂は賑やかだ。

 メイド姿のエルフの女性が何人も食事を運んでいて忙しそうだ。

 こちらのテーブルにも朝食が次々と運ばれてくる。

「朝から結構な量だな!」

「ここの朝食はボリームがあって美味しいよ!」

「朝一番にシロとクロの様子を見にいったけど、すごい量の朝食が出てて美味しそうに食べていたよ。」

 シロとクロの元気な姿を見てココは嬉しそうに話してくれる。

女将さんにお願いしててよかった。

3人で朝食を食べながら、今日の冒険とFランクパーティー【黄金の大地】としての今後の事についていろいろ話しをした。

 今後の事は主に俺とレイナで決めていたが、ココは食べるのに集中してこちらにお任せな状態だ。

 食事も終わり一息ついたところで、注文をしていた携帯食料と飲料水をバックに詰めて出発準備が完了と言うことで各々席を立ちあがった。


 ココはシロとクロがいる裏小屋に向かい、レイナはいつもの兜をかぶり身支度を済ませていた。

 俺は冴えない革の胸当ての鎧に銅の剣、それにシノがいるアイテムバックを腰に装着して準備完了だ!

 3人と2匹の従魔を連れてFランクパーティー【黄金の大地】はギルドに向かった。


 冒険者ギルドの朝は早い。

 少しでも良い条件のクエストを求めてクエストボードには人だかりが出来ている。

「すごい人数だ!」

 こんなに冒険者がいるのかと、驚きを隠せなかった。

「朝は、いつもこんな感じですよ。」

 兜をかぶってはいるが、レイナが優しい表情で教えてくれる。

「コウ!私はシロとクロと一緒に奥の空いてるテーブルで待っているね!」

 今日の冒険は2人に任せたといわんばかりに、人込みから逃げるように奥のテーブルに向かった。

 俺とレイナは、食事の時に3人で打ち合せした内容でクエストを探した。

「コウ様、この依頼はどうでしょうか?」

「ホワイトボアの討伐ですか、Dランクの魔物ですが依頼書はEランクですので挑戦しましょう。」

「あとココの従魔との連携を見たいので、昨日討伐しましたホーンラビットの討伐と薬草採取の依頼も受けましょう。」

「はい、シロとクロと仲良くなりたいですね。」

「では受付をして来ますので、ココと一緒に待っていてください。」

「コウ様有難うございます。お任せ致します。」

 レイナの優しい声が心地良いが、他の冒険者からは妬むような声があちらこちらから聞こえる。

 レイナは周りの事は気にならない様子で、スタスタを歩いて移動した。

 他の冒険者からの視線が俺に向けられているのがわかるが、絡まれると目立つので無視しよう。

 

 やっと受付の順番が回ってきたので、カウンターに依頼書を出した。

「おはようございます!コウさん昨日はお疲れさまでした。」

 受付嬢のエリスが声をかけてくれた。

「おはようございます!エリスさん。」

「今日はこのクエストを受けられるんですね。」

「忠告しておきますが、昨日からイザベェルの森は立入禁止になっているので近づかないで下さいね。」

「わかりました。・・・まだ調査は済まないんですか?」

 原因が自分にあるので何となく気まずい雰囲気で聞いてみた。

「魔物が異常発生していて、なかなか調査がすすまないと聞いているわ。」

「そうなんですか~早く解決するといいですね。」

 エリスが比較的安全な場所を教えてくれながら、隣の新人冒険者達にもイザベェル方面にはいかない様に注意していた。 

 エリスの真剣な表情を見てバツが悪そうになったので、素早く受付を済ましてみんなの所に戻った。

 戻る前にエリスから依頼を頼まれたが、期限はないとのことだったので引き受ける事にした。

「コウ!受付は済んだ!」

「受付は済ませたよ。イザベェル方面はいけないので、反対側の遺跡の近くの草原に行こう!」

「よし出発だ!シロ・クロ行くよ!」

 ココは待ちきれない様子で俺とレイナを急かす。

「ココあわてるなヨ、まだポーションの購入が済んでいない。」

「そうですね、私も回復呪文を覚えたばかりで何回使用出来るかわかりませんので回復ポーションは多めに持っておきたいですね。」

「コウ様、私達のパーティーには支援職の僧侶がいませんので、余裕があれが他のポーションも必要になるかもしれませんので購入を検討して下さい。」

「レイナ様の言う通りですね、わかりました検討します。」

 カウンターの一番端に向かう途中で、受付でエリスから注意を受けていた冒険者から声を掛けられた。

「ヨウ!俺はグレンと言うんだが、昨日イザベェルの森から無事戻ってきたのはお前さん達かい?」

 同じ年代か少し年上の、いかにも冒険者とわかるいでたちの男から声を掛けれらた。

「そうですが・・・」

「あんた達すげな~俺達と同じ新人のFランクパーティーだろ!」

「イザベェルの森の情報を教えてくれないか?」

 めんどくさそうな男に絡まれたなと思いづつも、営業的な付き合いも必要と思い適当に合わせる。

「偶然巻き込まれただけで、森に行ったわけではないですよ。」

「どんな魔物がいたんだ!」

「オークがいました。」

「オーク!!・・・すげぇ~オークと遭遇して逃げて来られたのか!」

「ハッハッハッ・・・」

 笑いながらごまかしたが、討伐したことは言わないでおこう!

「俺たちはまだ討伐の経験がないが、そのうち俺達【銀狼の牙】が倒してやるぜ!」

「がんばって下さい!」

「おう!お前たちもな!」

 なんてことないやり取りだが、お互い新人冒険者同士だ悪い気はしない。


 やっと奥のカウンターについて、昨日と同じギルド職員の男に声を掛けた。

「ポーションはありますか?」

「おや!昨日のお兄ちゃんか!武具はどうだったかな!」

「はい、おかげさまで役に立ちました。」

「それはうれしいね~」

「今日はポーションがご希望かい!」

「回復用ポーションをお願いします。」

「初級用回復ポーションが1本5銀貨、ダンジョン産のため味はマズいが命には代えられないからね。」

「新人冒険者が多いからな、ポーションはすぐに売り切れるよ。」

「回復用ポーションの他に役に立つものはありますか?」

「ポーション程の速効性はないが、傷薬や毒消し薬は持っていても損はないよ!」

「魔法が使える冒険者は少ないし、特に支援職はめったにいないからね!回復はもっぱら薬に頼るしかないから必需品だよ。」

 ゲームの中では支援職系は絶対必要だけど、初心者のパーティーでは攻撃力を重視する構成になるのが現実で、攻撃力を持たない支援職は足手まといとされるからだろう。

 ゲームでも現実でも支援職のいないパーティーは、生き残れる確率が大きく変わるため必ず必要な要員なのに、ほとんどのパーティーでは見かけない。

「迷宮で冒険をする上級者パーティーになると僧侶や司祭系の支援魔法が使える冒険者はいるけど、初心者のうちは人数も多くなると分け前が少なくなるから仕方ないかな!」

 ギルド職員の男が言うのはごもっともだ。

 俺達のパーティーもこれ以上要員は現段階では増やせない。

 パーティー構成は今後検討するとして、今は必要な物の補充が先決だ。

「それでは、回復ポーションを4本・傷薬4個・毒消し薬2個購入します。」

「まいど!ポーション4本が2金貨・傷薬4個が4銀貨・毒消し薬2個が6銀貨で合計で3金貨になります。」

「兄さん、レベルが上がったら武具も買い替えた方がいいですよ。中古品でも良い武器や防具もありますのでお待ちしております。」

「はい、その時はよろしくお願いします。」

 さて一通りの買い物も済ませたし、みんなのところに戻ろう。


「コウが戻ってきた!」

「ココ・レイナ様、お待たせしました。」

「今日の冒険にいきましょうか!」

 3人と2匹の集団は冒険者ギルドから外へ出た。

 Fランクパーティー【黄金の大地】の出発だ!


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