第16話 夢と現実

 ベットで深い眠りの中、携帯電話の着信音で目を覚ました。

「もしもし、志賀崎です。」

「取引先から緊急で今すぐ品物を持って来てほしいと連絡が入った。」

「わかりました!すぐ会社に行きます。」

 会社の夜勤担当者からの電話で起こされて、眠たい目をこすりながら身支度をする。

「午前4時か!明日は休日なのにゆっくり寝かせてほしいもんだな!」

 日常茶飯事とはいえ、サービス残業は当たり前で夜中でも呼出しされる毎日が続くと現実逃避したくもなるもんだ。

 唯一の楽しみは、男1人で鑑賞するビデオとオンラインゲームだ。

 異性には興味が非常にあるが、苦手意識があり彼女もこの年まで一度も出来たことがない。

 一度だけ取引先の紹介で合コンに誘われた際、女性から声を掛けてもらったので勇気をもって電話番号を交換して下さいとお願いしたが、周りの女性達から変な目で見られそのことが原因でその後取引先の担当を外されたことがあった。


 呼び出しの仕事も終わり、帰宅途中お腹が空いたのでコンビニによってみた。

「あの~志賀崎さんですよね!」

 突然声を掛けられてビックリしたが、顔をみると以前合コンで声を掛けてくれた女性だった。

「以前飲み会でご一緒した佐藤倫子です。覚えていますか?」

 覚えていますとも!自分に声を掛けてくれた数少ない女性を忘れるわけがありませんよ!

「え~と、たしか佐藤さんでしたよね!覚えていますよ。その節はご迷惑をお掛け致しました。」

「そんな~迷惑なんて!」

「志賀崎さんのご厚意、うれしかったんですよ!」

「ホントですが!」

「こちらこそ、先輩達のありもしない噂話しのせいでご迷惑をかけましてすみません。」

「そんなことはありません、宴会の場でつい立場を忘れてしまった自分が悪いんです。」

「志賀崎さんは別に悪くありません!」

「そうやって言ってもらえると、心が楽になります。本当にありがとうございます。」

「こんな時間にコンビニで出会えるなんて、運命を感じますネ!」

 彼女からそんな言葉をかけられて、呼び出しの疲れが一気に飛んでいった。

 彼女も1人で女子会の帰りということで、駅まで一緒に歩く事になった。

 彼女が駅までの近道があるというのでその道をあるいていると、人通りが急に少なくなりホテル街のネオンがあちらこちらに見えるようになった。

 これは彼女にマズイと思って、周りを見ない様に早歩きで急ぎ出すと彼女から手を握られ引き止められてしまった。

「エッ、どうかしましたか?」

 手を握られたまま振り向くと、彼女が下向き加減でモジモジしている。

「大丈夫ですか?」

 心配になって彼女の顔をみると、顔が真っ赤になっていた。

「疲れたので、ここで休んでいきませんか・・・」

 彼女が小さな声でつぶやいた。

 一瞬、彼女の言葉の意味が理解できずその場で茫然となった。

 ここで休むとは!それもホテルの前で!えっ~・・・

「以前、私に掛けてくれた言葉は嘘ですか!」

「えっと!なんていいましたか・・・」

「お友達になって下さいと電話番号を渡してくれたのは、遊びだったのですか!」

「イヤ、それは嘘ではありません。」

「それでは私の事が好きですね!」

「極端すぎませんか!」

「では嫌いなのですか!」

「好きか嫌いかでいえば、好きですが。」

「私は志賀崎さんの事が好きです。お互い好きであれば何の問題もありません。さあ~行きましょう!」

 話が見えないまま手を引っ張られて、そのままホテルの中に連れ込まれた。

 気が付けば、ベットの上に押し倒され服を脱がされてしまい、彼女も服を脱いだ状態で俺の上に飛び乗ってくる。

 彼女の胸の膨らみが、俺の顔を押しつぶす。

 くるしい!胸の柔らかさは気持ちいいが、息が出来ない!!

 このままでは、窒息してしまう!

 誰かたすけて!必死に胸の膨らみをつかみ顔から引き離そうとするが離れない!!

 なおも必死で胸の膨らみをつかんでみるが、柔らかい感触だけが手のひらから伝わるだけで離れない!!だんだん意識が薄れていく・・・・・

「あっ~」

 このまま・・・死んだかと思ったら急に目が覚めた。

「夢か!」

 しばらく放心状態でいたが、あまりにもリアルな夢で自分自身ビックリしていたが手の感触がまだある。

 よく見ると、となりに女が全裸で横たわっており、俺の手は女の胸を掴んだままだった。

「ごめんなさい!」 

 ベットから飛び上がり、慌てて手を胸から離し視線をそらして無意識に謝っていた。

 でもよく考えてみれば、ここは俺が1人で寝ていたベットで女と一緒に寝た覚えもない。

 見てはいけないと思いつつも、女の顔を見てみる。

「佐藤さん!」

 いやいや、あれは夢でみた佐藤さんであって・・・よく見れば似ている!

 まてまて、昨日従魔のシノがいたはずだが?

 頭が混乱しているみたいだ!ベットの上で考え込んでしまった。

「ご主人様!おはようございます。お目覚めはいかがでしょうか!」

「シノなのか!」

「はい、シノでございますご主人様。」

「昨日の姿と違わないか!それになんで裸で俺のとなりで寝ているんだ!」

「ご主人様はとてもお疲れの様子のまま眠られましたが、突然うなされましたので心配になりベットの中に入らせてもらいました。」

「ベットの中に入るのになぜ裸になる!それになぜ顔が夢の中の佐藤さんに似ているんだ!」

「ご主人様のベットに入ると、ご主人様の意識から胸を揉まれている女性の方と行為が伝わって来ましたので、同じ姿の方が喜ばれるのではないかと思った次第です。」

「違う!!!胸を揉んでいたわけでわない!!夢の中で死ぬ思いをしていたんだ!まさかシノの胸を掴んでいたとは申し訳ない。」

「気にすることはありません。」

「私の体で心が休められるのであれば、いつでも構いません。」

「怒っていないのか?」

「なぜ!怒る必要がありますか。シノはお役に立てて嬉しく思います。」

 そう言われると悪い気がしないし、俺も健全な男だ!特に異世界に召喚された時に16歳の体に若返っているので性欲が有り余っている。

「ご主人様さえ好ければ、毎日夜伽をさせていただきとうごうざいます。」

「護衛の意味での夜伽ならお願いする。」

「かしこまりました。」

 シノは嬉しそうな表情で、ベットから降りて服を着始めた。

 これから毎日夜が来るのが楽しみになるなと思いながら、その後ろ姿を眺めていた。

 現実では俺は佐藤さんにフラれるし、女性とはほとんど話もしない寂しい生活の日々だったが異世界では全くの逆だ!

 こちらが夢なのか!

 どちらでも構わない!

 今ままで出来なかった事を、この世界でやってみよう!

 この世界が夢でも現実でも後悔だけはしたくないな!

「シノ!これからよろしく頼むよ!」

「はい!ご主人様!」


 朝の身支度を済ませ、シノと今後の事を話あった。

 普段は黒蜘蛛の姿で、俺の命令があるまでアイテムバックのポケットに入っていること。

 アドバイスは受けるが、自分の力でレベル上げをするので手助けはしないこと。

 目立つことはしたくないし、しないように注意すること。 

 人間に化けるときは・・・佐藤さんの姿は許可する。

 夜の夜伽は、俺一人の時だけとする。

 いろいろとあるけど、とにかく俺のそばにいつもいること。


 部屋の廊下が騒がしくなったきた。

 泊り客が移動し始めたようだ。

「シノ、バックに入ってくれ!出発だ!」

「はい、ご主人様!お気をつけて。」

 シノが入りこんだアイテムバックをもって、部屋を出た。

 1階の食堂に足を進めると、奥のテーブルでココが手を振って呼んでくれている。

 その隣でレイナが笑顔であいさつする。


 何気ない朝の様子だが、新鮮に感じられる。

 こんな気持ち良い朝を迎えるられる今日一日を精一杯生きてみよう!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る