第15話 番外編① 漆黒パーティー

 ここグラッサの町は、別名迷宮都市と言われている。

 大陸の西南に位置するナイル共和国の中でも2番目に大きな都市で、都市の北側にこの国最大の迷宮が存在している。

 この迷宮はダルリア第Ⅰ迷宮と第Ⅱ迷宮があり、第Ⅰ迷宮は地下12階が最深部で探索が済んでいるが、第二迷宮は未だ最深部まで探索が済んでいない迷宮として名を轟かせている。

 この迷宮の探索に各地から冒険者が集まり、その冒険者を相手に商売をする商人が集まって出来たのがグラッサの町で今も人口が増え続けている。

 この迷宮を管理しているのが領地の所有者であるダリア辺境伯であり、この都市からの税金で莫大な財産を築いていると言われており、王宮にも強い発言力をもっている人物である。


 今日もグラッサの町は賑やかに、夜も活気があふれている。


「遅くなったな!」

「今日持ってきた商品が全部売れたし、しばらくのんびりできるといいね!」

 大柄な男はタイソン、女はロキシーで2人は同じ村の出身で2歳違いの幼馴染だ。

 お互いの両親が親友で家族ぐるみの付き合いをしていた為、子供の時からいつも一緒にいるのが当たり前の関係でいる。

 ロキシーが成人である15歳になったのをきっかけに、2人で行商の仕事を始めてそれなりにうまくやってきている。

 村で出来た農作物や工芸品を定期的にこの町で販売しながらの行商で、お互いの家族の家計の足しにしている。

 お互いの両親は2人が一緒になってこのまま生活が出来るようにと考えているが、全くそういうそぶりは見せないのでどうしたものかと悩んではいたが当人達は気にしていないようだ。

 グラッサの町は多めに商品を持ち込んでも売り切れるので、多少距離が遠くても来る価値がある町である。

 2人は馬車にゆられながら夕日の中をゆっくりと移動していた。


 夜遅く村の入口付近にさしかかった時、村は不隠な雰囲気に見舞われ霧が村を覆っていた。


「村の様子が変だ!」

 タイソンが馬車から降りて、辺りを見渡した。

「燃えてる家があるわ!」 

 ロキシーも馬車から降りて、村の方角を見つめた。

「何か異変があったんだ!馬車はここに置いて村に急ごう!」

 2人は、村の入口に入って目を疑った!

「なにこれは!」

 村の様子は想像以上に変わり果てていた。

「何が起こったんだ・・・ロキシー、誰か話を聞ける人を探そう!」

「オーイー・・・誰かいないか~」

「誰かいませんか~返事をして下さい~」

 2人で村の中を探すが、村人が誰も見当たらない。

 村人達全員が行方不明!

 2人の実家にも立ち寄ったが、両親は共に居なかった。

 当方に暮れた2人は、村の中心にある噴水場所で腰を下ろした。

「お父さんもお母さんも誰もいないよ。」

 ロキシーは今にも泣きそうな声で、タイソンの腕にしがみ付いていた。

 タイソンはそんなロキシーが落ち着くまで、ただじっと動かずにいたが頭の中ではこの状況を整理していた。

 ロキシーは落ち着いてきたのか、タイソンに声を掛けてきた。

「ねぇ~何が起こったかは分からないけど、ここにいても解決しないわ!お互いの両親や村のみんなを探す手段を考えましょう。」

「人の気配が全くないのでここには誰も居ないと思う。探すにしても手掛かりがない状態では無駄に時間だけが過ぎてしまうので、グラッサの町に戻ろう。」

 タイソンはロキシーが両親や村のみんなを探そうと言ってくれたので、ある方法を考えていた。

「ロキシー・・・探す手段として冒険者になる方法があるけど。」

「冒険者!」

「冒険者は誰でもなるれが、命がけの仕事だ。行方不明の村人達を探すとなれば情報が必要になるが、冒険者であればいろんな情報が入ってくる。」

「そうよね!まず情報を集めないと探し用がないわね!」

「そうと決まればタイソン、グラッサの町に戻って冒険者になりましょう!」

 2人の意見がまとまったのでその場から立ち上がり、お互いの実家から必要な物を集めてから村を後にしグラッサの町に戻った。


 翌日2人で冒険者ギルドで登録を済ませた。

 タイソンの職業は【戦士】、ロキシーは【盗賊】で一般的な装備を購入し、Fランクパーティー【漆黒】が誕生した。

 2人は地道にレベル上げを行いながら、行方不明になった両親や村人の事を調べていた。

 Eランクになった時にタイソンは職業を「剣士」、ロキシーは【弓使い】に変更した。

 偶然知り合いになったエミリーをパーティーに加えて、【漆黒】の名前は知れ渡るようになっていた。

 エミリーはもともとは【僧侶】で別のパーティーで冒険していたが、魔物との戦闘で仲間が殺され【僧侶】として助けることが出来なかった事を悔やんで【魔法使い】に転職した経緯があった。

 当然転職したばかりは魔法の種類も威力も無く、いろんなパーティーからは断られていた所をロキシーが偶然声を掛けて仲間になった為、エミリーはとても感謝している。

 エミリーのレベルが上がるにつれて、戦闘能力が高くなり【漆黒】パーティーはDランクになっていた。


 つい先日ギルドからの依頼で、イザベルの森の現地調査の依頼を受けて朝早くから森を探索していると、若くて綺麗な女性に出会った。

 タイソンはこの女性に違和感を感じていたが、敵意は感じ取れなかった。

「こんな森の中で女の人が1人でどうされましたか?」

「ある人物を探してこの森まで来ました。」

 女性は物静かに話した。

 ロキシーもエミリーもこの女性が何者かはわからないが、警戒するように距離を取っていた。

「あなた方に危害を加えるつもりはありません。ただお願いがあります。」

「この森のどこかに若い男性が迷い込んでいます。その方を探し出して安全な場所まで同行して頂きたい。」

「この森に1人で迷い込んで無事にいられるわけないわ!」

 ロキシーはこの依頼は受けるべきではないと肌で感じ取っていた。

「この森で1人で無事にいられるのなら物凄い実力者か、人ではない可能性がありそうですわ!」

 エミリーもロキシーと同じ感覚を覚えていた。

 2人が警戒するのもわかるが、タイソンは彼女がその人物を本気で心配している雰囲気を感じ取っていた。

「我々は冒険者だ!彼を保護した場合の報酬が割に合うのであれば、その依頼引き受けてもよいが。」

「お金は持ち合わせていませんが、代わりにこれでいかがでしょうか。」

 女から出された物は、大きな魔石2個と液体が入った容器が5本。

 タイソンは魔石がAクラス以上の魔物の物であるとすぐにわかった。

「液体が入った容器は何なのかしら?」

 エミリーが興味津々に聞いてみた。

「ワイバーンとキマイラの魔石、上級回復ポーションと上級魔力回復ポーションを2本づつ、それに万能薬ポーションを1本で引き受けていただけませんか。」

「ワイバーンとキマイラの魔石!!」

「上級用ポーションに~お目にかかることがめったにないと言われている万能薬!!」

 3人ともあまりにも高価すぎる品物に驚きの声がでてしまった。

 ロキシーが手のひらを反すように、タイソンに引き受けてもいいような態度を見せた。

 タイソンもロキシーとエミリーの表情を確認して、引き受ける態度を取った。

「我々には十分すぎる報酬だ。迷子の男を保護し、村まで案内するだけでいいんだな!」

「はいそれで構いません。後、別れ際にこのアイテムバックをあなた達からプレゼントとして渡して頂きたいのですが。」

「アイテムバック!」

「このアイテムバックは彼しか使えないものです、必ず渡して下さい。それと彼の事は詮索しないで下さい。」

「わかった!約束しよう。」

 タイソンは即答した。

 ロキシーは彼女が何者で、彼女が探しているという彼は一体何者だろうか?

 タイソンと彼女との会話を聞きながら考えていた。

 エミリーは、もっぱら報酬の容器が気になっていて、もし本物だとしたら高ランクのパーティーでも持ち合わせていないポーションが手に入る優越感に浸っていた。


 【漆黒】パーティーの3人は、彼女から依頼された迷い人を探すため森の中を歩き始めた。


 しばらく探していると、若い男の悲鳴が聞こえたのですぐに駆け出した。

 先頭はロキシー、普段は走らないエミリーが続きタイソンが一番最後になって悲鳴がする方角に向かった。

 彼を保護した3人は、無事村まで案内して約束の品物を彼にプレゼントした。

 彼女から依頼されたアイテムバックの他に、ロキシーは自分たちで討伐した魔物の魔石を、エミリーは迷宮の宝箱から見つけたポーションを彼の為にプレゼントした。

 当然それ以上の報酬をもらっているので痛くもないが、彼を見ていると自然に応援したくなってしまったらしい。

 タイソンも、彼とは今後も関わっていく予感がしていたので、女性2人の行動が微笑ましく思えた。


 彼と別れた【漆黒】パーティーは、拠点を置いてあるグラッサの町に戻っていった。

 森の中で出会った彼女と保護した彼の事で、しばらくは話題に困ることは無いだろう!


 

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