第10話 悲鳴の正体
森の奥から大きな叫び声と悲鳴の声が何回も聞こえる。
俺たち3人は討伐依頼達成の帰りに、休息していた場所で遭遇してしまった。
レイナはすぐに防御態勢に入り、俺に指示を仰ぐ。
ココは俺の後ろに隠れた。
まだ遭遇はしていない。このまま逃げるのがベストかもしれない。
ただ、悲鳴の声がどうしても気になる。
「レイナ様申し訳ありませんが、悲鳴が聞こえる場所までいきます。」
「はい分かりました。コウ様の指示にしたがいます。ココさんもコウ様から離れないようについてきて下さい。」
レイナが防御姿勢のままゆっくりと悲鳴がする森のなかを進む。
森の茂みの間から叫び声の正体を探す。
2メートルを超える大きな巨体の後ろ姿が目にはいった。
「オークです!」
レイナが小さな声で教えてくれる。
「Cランクの魔物で、この辺りには生息していないはずですが。」
そのオークに襲い掛かっているのが、悲鳴の主でオオカミだ。
オオカミは群れで行動するもんだと思っていたが、番いの様だ。
2匹で交互に飛びかかっているが、オークの力任せのこん棒に弾き飛ばされて悲鳴を上げている。
1匹は地面に叩きつけられたのか、そのまま動かなくなった。
もう1匹も立っているのがやっとの感じで、必死に抵抗している。
足の速いオオカミなら逃げれるはずなのに、なぜ戦っているのか不思議に感じた。
「茂みの奥に子供のオオカミがいるよ!」
ココが言う方向を見ると、立ち塞がっている親オオカミの後ろに隠れている小さな子供のオオカミを見つけた。
「このままでは、子供も殺されてしまいます。」
「助けなきゃ!」
ココが今にも飛び出そうにしたが、ココの前に手を出して静止させた。
「まだ無理だ!レイナ様!他に魔物はいますか?」
レイナに周りの状況を確認してもらい、他に魔物はいない様子だ。オークの注意をこちら側に向けて逃げる作戦を考えていたが、突如頭の中に誰かが話しかけてきた。
「誰だ!」
突然の出来事におもわず叫んでしまった。
「主様、私は黒蜘蛛です。」
「黒蜘蛛!」
おもわず辺りを見渡す。
誰もいないがすぐ近くの木の枝から、糸にぶら下がっている小さな蛛が視界に入った。
「俺の頭の中に話しかけてきたのはお前か?」
「はい私です主様。」
2人には声が聞こえてない様だ。
「蜘蛛の魔物か?なぜ俺に話しかけてくる。それに主とは何のことだ!」
頭の中の思った事が相手に伝わるようだ!口に出さず頭の中で蜘蛛に問いかけてみた。
「主様と従魔契約が出来れば、わたくしめがあのオークを仕留めて見せます。」
「俺と従魔契約!」
「はい、主様の手のひらに私を載せて頂ければ契約が出来ます。」
突然の出来事に戸惑ったが、状況からみて一刻を争う。
最後まで立ち塞がっていたオオカミにオークが襲い掛かった。
オオカミは大きな悲鳴を上げてその場に倒れてしまった。
子供のオオカミは倒れたオオカミから離れない。
オークに向かって吠え続ける。
オークが子供のオオカミにこん棒を振り上げた瞬間に、ココが俺の手を払いのけオークの足にナイフを切りつけた。
オークは突然足を切られ立ち止まったが、ココを見つけて叫び声と同時にこん棒を振り上げた。
レイナがココの前に立ちふさがり、オークの一撃を盾で受けたが2人共後ろに吹き飛んだ。
「2人共大丈夫か!」
返答がない。
「お前と従魔契約をすれば、オークを倒せるのだな!」
「はい、問題なく倒せます。」
「わかった!」
糸にぶら下がっている蜘蛛の下に手を差し出した。
黒蜘蛛が手のひらに乗ると、手の周りに魔法陣が浮き出て青白く光り始めた。
青白い光が手の平を中心に、10メートルほどの円で上空に向かって一直線に光った。
一瞬の出来事で何が起こったかが理解できなかったが、周囲の空気が一気に変化して光は消えていた。
「これで私は主様の従魔となりました。」
「時間が無い!オークを倒す方法を教えてくれ!」
レイナとココが心配だ!剣を構えてオークの後ろに近ずく。
「主様、オークを2人から引き離して森の奥へとおびき出して下さい。」
黒蜘蛛に言われるまま、無我夢中でオークの背中に剣を刺した。
しかし俺の力では剣は刺さらなかったが、オークの注意を向けることは出来た。
オークが俺に気お取られてこん棒を振り回しながら迫って来た。
よし成功だ!このまま森の奥に逃げるぞ!
2人共無事にいてくれ!
力任せにこん棒を振り回しながら森の奥へと追ってくる。
一回でも当たれば即死だろう。
「黒蜘蛛!やつを倒せるのか?」
「主様、少し魔力を分けていただきます。」
「何でもやるから、早く倒してくれ~」
走り疲れて今にもオークの一撃を食らいそうだ。
黒蜘蛛が肩に乗って、オークに向けてキリ状のガスを吐いた。
オークの動きが止まり、周りの木を倒しながらもがき始めた。
「主様、止まって下さい。」
言われるままその場で止まり、オークの姿をみつめる。
「何をしたんだ!」
「神経ガスを浴びせました。」
「本調子であれば一瞬で殺せる猛毒ガスも出せますが、今のところこれが限界です。」
神経ガスを浴びたオークは、もがき苦しみその場に倒れた。
「主様、まだ生きています!とどめを刺して下さい。」
黒蜘蛛に言われて剣でオークの首を何度も刺して、やっと仕留めた。
「ありがとう!お前のおかげで助かった!」
「めっそうもありません、お役に立ててうれしいです。」
ふらふらしていたが、2人が心配になってすぐもと居た場所に向かった。
「あとで詳しく話しを聞くので、しばらくはアイテムバックの横にあるポケットに隠れていてくれ。」
「わかりました、魔力を使い果たしたのでしばらく休んでおきます。」
黒蜘蛛は俺の体をつたわり、アイテムバックのポケットに入って行った。
2人が飛ばされた場所まで戻ってみると、2人共まだ倒れたままだった。
子供のオオカミが2人の顔を心配そうになめている。
俺が近づいても逃げずにいる。
「レイナ様・ココ!大丈夫ですか!!」
体をゆすりながら声を掛けてみた。
ココが目を覚ました。
「イタタ~」
「ココ大丈夫か?怪我はしてないか?」
「大丈夫だよ!レイナ様がかばってくれたおかげで怪我もしていないよ。」
レイナも目を覚ました。
「コウ様、ココさんも無事ですか?」
「コウ様、オーガーはどこにいますか?」
「レイナ様、オーガが突然森の奥に走り出し勝手に倒れました。
「倒れたのですか?そうですか~助かったのですね!」
「はい、レイナ様のおかげでココも怪我一つありません。」
「レイナ様、ココを助けてくれてありがとう!」
ココはレイナに抱きついてお礼をいっている。
ココがすぐ隣に子供のオオカミがいるのに気が付いた。
「この子怪我をしているよ!」
子供のオオカミはこちらを見て安心したのか、動かなくなった親オオカミの横でうずくまってしまった。
レイナとココは、オーガの一撃を盾で受けたまま吹き飛ばされ気を失ってしまったが、怪我はしていなかった。
2匹の親オオカミはすでに息を引き取っていた。
「2匹共ダイヤウルフですが、子供は姿がちがいます。もしかしたら変異種のウルフかもしれません。」
「ウルフは色んな種類がいます。私はそこまで詳しくありませんので戻ったらギルドに報告しましょう。」
レイナが動かなくなったダイヤウルフと子供のオオカミを観察しながら教えてくれた。
黒い子供のオオカミはうずくまったままだ。
ココがそばに寄り添い体をなでていると、茂みの奥から白い子供のオオカミが出て来た。
「もう一匹いるよ!」
ココが手を差し伸べると、体を寄せてきてうずくまっている黒い子供のオオカミの足を舐め始めた。
「兄弟かな?親が死んでしまったのがわかるのかな~かわいそうに!」
ココは2匹をやさしく見つめていた。
「エッ~コウ!見て!」
「どうしたんだ!急に大声を出しでびっくりするんじゃないか!」
「怪我をしている足の傷が、なめたところから治ってる!」
俺とレイナは、ココの横にいる2匹のオオカミを見つめた。
「すごいですわ!このオオカミは治癒能力を持っていますわ。」
「すごい能力だ!これが変異種のウルフですか?」
「たぶんそうだと思います。」
2匹とも体がやせ痩せ細って動くのがやっとの状態だ。
「このままだと死んでしまう!」
ココが泣きそうな声をだす。
「コウ様どういたしましょうか?まだ子供ですが魔物には違いありません。」
レイナが俺にたずねるが、ココが心配そうにしている姿をみると何とかしてあげたい気持ちになっていた。
そういえば俺は黒蜘蛛と従魔契約ができた!ココは【ティマー】だから魔物を使役出来るはずだ!
ココの姿を見ながら、これはチャンスかもしれないと考えていた。
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