第4話 冒険者ギルド
セシール村までの道中で、【漆黒】のメンバーの人達から色んな話が聞けた。
ここが剣と魔法の世界であり、色んな種族や魔物・魔獣がいること、そして迷宮が当たり前のようにありそこにはお宝があるということだ。
そして、お金を稼ぐなら冒険者になるのが一番の近道だと教えてもらった。
タイソンは、大きな体のわりには、優しく女性の扱いがうまい。
ロキシーには頭が上がらない様で、長年連れ添った夫婦のようにみえるがまだ結婚はしていないらしい。
エミリーはその後パーティに加わったらしいが、初心者の魔法使いはパーティへの途中加入が難しい現実があると教えてもらった。
とくに彼女は、僧侶から魔法使いに職業を変更したばかりで、攻撃魔法はまだまだ未熟の上に僧侶の回復魔法も初級ポーシヨン程度のため、どこのパーティから断れ続けていた所を【漆黒】パーティに加入できたので2人には感謝しているらしい。
タイソンの喋りから、このパーティはとても居心地がよい感じかする。
「この村は、新人冒険者の拠点になる場所で、採取・討伐・護衛から迷宮探索まで挑戦できる。」
「俺とロキシーも、ここが出発点だ。」
「俺も冒険者になれますか?」
「誰でもなれるわよ。」
「一度しかない人生、やりたい事をやればいいわ!」
ロキシーが優しく教えてくれた。
川の橋を渡ると、セシール村の入口が見えてきた。
村といっても木の柵でしっかりした門がある。
門番の一人から声をかけられたが、テレサが説明してくれたおかげですんなり通れた。
「テレサ殿と同じ冒険者さん達ですか、ご苦労さまです。」
みんなであいさつしながら、門をくぐって村の中に入った。
「みなさん有難うございます。おかげで無事戻れました。」
「家で妹が留守番をしていますので、私はここで失礼します。」
「コウさん、お元気で!」
テレサが笑顔で、手を振りながら小走りで走っていった。
ついテレサの後ろ姿をジット眺めていたら、後ろからタイソンが肩を叩いてきた。
「コウ殿は冒険者登録をしてないんだろう!ここで生活をするのであれば、まずはギルドで冒険者登録が必要だ。」
「生活するのにも、お金を無いと飯も食べれないぞ!」
タイソンの言う通りだ。
まずは、冒険者登録をしよう!
門からしばらくみんなで歩いていくと、大きな建物の前に着いた。
「着いたぞ」
タイソンが教えてくれた。
「ここが冒険者ギルド・・・」
西部劇でよくみる2階立ての建物で、周りの建物に比べるとひときわ大きく見える。
建物の中に入ってみると、狭いロビーに思った以上の冒険者たちが居てにぎわっている。
「俺たちは、依頼の報告に行くので、コウ殿は冒険者登録をしてくればいい!」
言われた通り受付カウンターに行くと、綺麗なお姉さんが声を掛けてくれた。
「ようこそ冒険者ギルドセシール支店へ! 冒険者登録ですか?」
「はい、初めてです。 冒険者になりたいです。よろしくお願いします。」
綺麗なお姉さんを見て、緊張して声が上ずってしまった。
「クス~ 私はキルド職員のエリスといいます。」
お姉さんは笑いながら、手際よく手続きの準備をしている。
「それでは、この水晶に手のひらをかざして下さい。」
「水晶に適性がある職業が表示されますので、その中から好きな職業を選んでこの申込み書類に書いて下さい。尚、魔力の多さで水晶の輝きが違いますので、少しでも輝くようでしたら魔法系の職業を選ぶと良いですよ。」
「職業は、水晶に表示されればいつでも転職できますので、気軽にどうぞ!」
「他の冒険者さんも、必要なスキルを覚えたら職業を変えていますし、レベルが上がれば上級職も表示されるようになりますよ!」
お姉さんが優しく説明をしてくれたので、水晶に手のひらをかざしてみた。
「オッー」
突然水晶が眩しいくらい輝いたが、近くのイスが倒れる音がしたと同時にすぐに元の色に戻った。
水晶の色は少しだけうっすら光ってて、職業の文字が表示されていた。
「今の輝きは!!! ごめんなさい、見間違えかしら?」
奥のテーブルで転んだ女性を見ながら、もう一度水晶に目をやった。
「やっぱり見間違えだわ・・・どうぞ表示された職業から選んでくださいね!」
お姉さんからそういわれたが、職業の文字は【薬師】しか表示されていない。
「あの~選択するにも一つだけしかないんですが。」
「一つだけですか、初心者であれば、戦士や僧侶・魔法使い・盗賊は成れるはずですけど!」
「何が表示されましか?」
「【薬師】です。」
「【薬師】!!!他の表示は無いのですか?」
「はい!他には何も表示されていません。水晶もうっすら光っているだけです。」
「めずらしいですね! アッ! 冒険者になれないわけではありませんので、【薬師】も立派な職業ですので! 魔力も人並みにありそうですし! はい問題ありません。」
お姉さんは早口で喋りまくったが、周りの人達の反応からすると残念な職業らしい雰囲気が漂う。
「それでは、申し込み書に名前と種族・年齢と職業欄に【薬師】と記入して、このカードに血を数滴垂らして下さい。」
いわれるままにカードに血を垂らした。
「はい、コウ様のギルドカードが出来ました。」
「それではギルドカードの説明をいたしますね!」
「はい、お願いします!」
お姉さんの説明を一通り聞いて、受け取ったカードをまじまじと見てつい顔がにやけてしまった。
「よろしいでしょうか!最後に初心者のコウさんは、冒険者Fランクから初めてもらいます。」
「初めのうちは、こまめにギルドに顔を出して下さいね。決して無理はしないで下さい。」
受付のお姉さんが、心配そうな顔で話しかける。
よほど【薬師】の職業が、冒険には向かないのだろうか?
とりあえず最初のイベントはクリアーだ!
「今日から冒険者としてこの世界を生きぬいていぐぞ~」
受け取ったギルドカードを握りしめ、手を上に挙げて声に出してしまった。
「よう~新人!冒険者登録おめでとうよ!」
「ガンバレよ!」
「困った事があれば、酒1杯で教えてやるぜ!」
周りの人達からあたたかい声を掛けられた。
照れくさいけど、なんだかうれしい気分にさせられてしまった。
周りの視線が気になったが、一番奥のテーブルでタイソン達を見つけたので移動した。
「おつかれ!無事冒険者登録が出来たみたいだな!」
タイソンが優しく声を掛けてくれた。
「ありがとうございます。」
「ただ、職業が【薬師】なんですが、どのような職業ですか?」
「数は少ないがいないわけではない。ただ地味な職業で戦闘には不向きだ。」
「生産に特化した研究職みたいなものだが、レベルが上がれば上級職の錬金術師や賢者にもなれると聞いている。」
「賢者は伝説の職業だと言われています。賢者のおとぎ話の本を読んだことがありますわ。ただこの世界にいるかどうかはわかりませんけど。」
エミリーが小声で話す。
「迷宮攻略のパーティーには、ポーターという運び屋がいるそうだ。冒険者達に同行して迷宮へと潜り、狩った魔物や採取した品々を運ぶ役割だ。ポーションがその場で作れるように慣れば冒険の範囲が広がるじゃないかな!」
ロキシーが思いついたように話してきた。
「俺も聞いたことがある。迷宮探索のパーティーに人材を斡旋する派遣業みたいな変わった道具屋があると聞いたことがある。」
タイソンも思い出したように言うと、エミリーがまた小声でポツリとしゃべった。
「魔術師の女性が経営していて、珍しい薬や魔道具等を売っているボッタクリの道具屋ですわ。」
ロキシーがエミリーの言葉に同意したようにうなずいた。
メンバーの3人の話し合いが終わるとロキシーが、ショルダーバックから何かを取り出した。
そしてテーブルの上に魔石を1つ置いた。
「Fランクの依頼は採取がメインだから、【薬師】のスキルが約にたつはずよ!」
「まずは、ここを拠点にして生活費を稼ぎなさい!」
「この魔石はギルドで買い取ってくれるので、生活に困ったらお金に換えなさい。この魔石は私からプレゼントよ!」
タイソンがテーブルの上に小さな布のショルダーバックを置いた。
「俺からはこのショルダーバッグをプレゼントする。」
「俺が初めて購入したアイテムバックだ。初心者用で中の空間は大きくないが、初めの冒険には約に立つはずだ!初心者ではなかなか手に入らい品物だ。」
「アイテムバックは登録した人以外は取り出せないようになっている。俺の登録は削除してあるのでコウ殿が登録して使用してほしい。」
エミリーが自分のショルダーバックの中から、小さな小瓶を取り出しテーブルの上に置いた。
「私は、迷宮の宝箱から見つけたポーションをプレゼントします。」
「迷宮産のポーションは味が不味くて回復量も少ないので、あなたがポーションを製作できるレベルになったらこれ以上の物を作って下さいね。」
「ロキシーさん、タイソンさん、エミリーさん・・・俺の為にありがとうございます。」
親切な行為に、嬉しくて目がウルウルしてしまった。
「俺たちは迷宮探索に行くから、ここでお別れだ!」
「今度会うときまでにレベルを上げていてね!」
「いつか同じパーティーで冒険しましょうね!」
「はい!ここでしばらく頑張ります。この御恩は忘れません。」
「皆さんも、お元気で!」
3人から励ましの言葉を掛けてもらい、【漆黒】パーティーは迷宮探索に出かけた。
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