第3話  出会い

自分の体の確認をして、やっと息が整ってきた。

それと同時に、足の傷が痛くなってきた。

「やばいな、この足では村まで時間がかかるな~」


「あの~、こんなところでどうかしましたか?」


 後ろから女の人が、声を掛けてきた。


驚いて声がした方に振り向いた。

そこには、可愛らしい女の子が立っていたが、手にはナイフを握って怯えているように見えた。

「いや、怪しいものではありません!」

明らかに警戒しながらの態度に、不安を和らげるような口調で答えたが、こんな格好でいる事態十分怪しいと思われても仕方ないかな。とりあえず状況説明はしておこう。

「旅の道中で魔物に襲われて逃げていたら迷子になりまして、困っていたところです。」

「魔物に襲われたのですか?」

「はい、いきなりウサギが襲い掛かってきた、夢中で逃げ回っていました。」

「足をケガされていますね。」

 彼女が肩に掛けているショルダーバックから小瓶を取り出し、差し出してきた。

「このポーションを使って下さい」

ふるえてる手で差し出された透明な小さなガラス瓶に液体が入っている。

「これは、何ですか?」

彼女は、驚いた様子でじっとこちらを見つめて説明してくれた。

「初級のポーションで、傷や体力の回復をする薬です。この液を切口にかけるか飲み干して下さい。」

彼女の説明をきいていたが、お金を持ってない事に気付いて申し出を断ろうとしたが、彼女が先に口をひらいた。

「お金はいりませんから、きにしないで使って下さい。」

「こまったときはお互いさまです。私もいつもポーションをもっているわけではありませんから。」

そういいながら彼女は笑顔を見せた。

「ありがとうございます。」

ここは彼女の好意に甘えよう。


彼女からポーションを受け取り、足の切口に数滴たらしてみると、切口があとかたもなくきれいに直った。

「すごい!」

彼女にむかって叫んでしまった。


「残りは飲んで下さい。体力が回復しますよ!」

言われるまま残りのポーションを飲んだ。

「グェ!・・・まずい。」

これは、飲んではいけないものだったんではないだろうか。

顔をゆがみながら彼女の顔をチラリと見たが、心配そうにこちらをみているので我慢して飲み干したが、喉の奥が抵抗しているのを感じる。

とても後味が悪い飲み物だ。


味は別として、体の体力は元の状態に戻ったようだ。

「このポーションは貴方が作ったものですか?」

「いえ、ポーションは、町の道具屋で買ったもので、いろんな種類のポーションがありますよ。」

「今日は、ポーションの材料となる薬草を集めにきたところです。」

「普段は、このあたりに魔物は出現しないのですが・・・」

 彼女が森の方を見つめながらつぶやいた。


 彼女が見つめている先の森は、俺が空から落ちてきた方向で、原因はもしかして自分では?

しばらく沈黙したが、彼女に名前を名乗ってない事に気がついた。

「遅くなって申し訳ありません。私は《しばさき こうすけ》・・・」

途中まで名前をいった時に、先ほどのステータス画面を思い出した。

たしか、【名前】:コウ・シバ と表示してあったはずだ。

ここは名前をステータスに合わせておこう。

「コウです。」

慌てて言い直した。

「コウさん・・・珍しいお名前ですね。」

「私はセシール村のテレサといいます。」

 彼女は、先ほどまで手に握っていたナイフを腰のさやに収めていた。

「テレサさん、貴重なポーションをありがとうございます。」

 最初の警戒心はうすれてきた感じがしたので、ここは彼女から情報取集だ。

「テレサさんはここに何用で来られたのですか?」

「私はいつもこのあたりに薬草採取できます。ただ、今日は森が騒がしくいつもは森深くにいる魔物が出てきています。」

「コウさんも、早く帰った方がよろしいのでは。」

帰る場所がないのにこまった事になった。

今魔物と遭遇すると、必ず死んでしまいそうだ。

ここは、彼女にお願いして村まで案内してもらうのが賢明だ。

「テレサさんといいましたね・・・私はあの森の向こうからきたのですが、魔物が多くては帰るに帰れません。どうかあなたの村まで案内できませんか?」

「エ~、あのイザベェルの森から来られた・・・よく生きてこれましたね。」

びっくりした表情で、ジロジロ見入っている。

「コウさんは、もしかして剣か魔法に精通しているすごい冒険者ですか?」

「それとも・・・」

彼女が見つめてなにか言おうとした時、奥の森から大きな音が鳴り響いた同時に魔物の群れが押し寄せて来た。


「エ~~~」


彼女と俺は、同時に悲鳴を上げた。


「あのイノシシみたいな生き物は何ですか?」

「ホワイトボアだと思います。」

「森の奥にいるDランクの魔物で、この辺りでは姿をみないのですが!」

「コウさん、群れからはぐれた一匹がこちらに向かって来ます。」

「テレサさん、ナイフを貸してもらえますか!」

「木の上に逃げて下さい。」

彼女を木の上に逃がすと、反対側の大木を背にして突進してくる魔物を見定めていた。

恐怖でナイフを持つ手が震えたが、女の子を残して逃げるわけには行かない、ここはカッコいい所を見せなければ男がすたるというものだ。


イノシシであれば急には曲がらないだろうし、直線状の俺しか見えてないだろう。

ものすごい勢いでホワイトボアが近づいた瞬間に横に飛んだ。

思った通り急には止まれず、俺の真後ろの大木に頭を打ち付け動きが止まった。

すかさず、頭を目がけてナイフを刺した。

「殺ったか!」

そう思ったのもつかの間で、こちらを睨んでいる。

こんな小さなナイフでは致命傷にはならないか。

ここは逃げるに限る。

すかさず彼女がいる反対側に走りだしたが、ホワイトボアも追いかけて来た。

「誰か助けてくれ~」

追い付かれたら終わりだ。

必死に逃げたが、足が絡んで転んでしまった。

ホワイトボアが真上に飛んで来た。

殺られる・・・と思ったが、ホワイトボアの眉間に矢が刺さったと同時に真横に倒れた。

次の瞬間に、体つきの良い大男が剣でホワイトボアの体に切りかかった。

悲鳴を上げながら大男に飛びかかろうとしたが、すかさず火の玉が飛んできて体に直撃し倒れた。

「これで終わりだ!」

大男が、剣で心臓を貫いた。


目の前でホワイトベアが倒されるのを目の当たりにして、俺は呆然としていた。


「大丈夫か!」

大男がやさしく声を掛けた。

「俺は、剣士のタイソン。Dランクのパーティー【漆黒】のリーダーだ。」

「危ない所助けていただいてありがとうございます。」

「私は、コウといいます。」

「コウ殿はなぜ、こんな場所で・・・何者ですかな?」

「タイソン、いらぬ散策はしないことだよ!」

「私はロキシー、弓使いだ。」

「私はエミリー、魔法使いですわ。」 

いつのまにか彼女らが、タイソンの左右にきて名乗ってきた。

大男のタイソンが申し訳なさそうに口をひらいた。

「いらぬ詮索をしてすまない。」

「我々はキルドの依頼でイザベェルの森の調査が済んで帰るところに、ホワイトボアに襲われている君達と丁度居合わせたということだ!」

弓使いのロキシーが、矢を背中の矢筒に収納しながら笑いかけてきた。

「あんなナイフでホワイトボアに立ち向かうなんて、無謀もいいところよ!私が矢を射らなければあなたは死んでたかもしれないよ!」

「でも、彼女のために戦うなんて、チョット素敵です。」

 魔法使いのエミリーが、小声で喋ってきた。

 3人の会話に、テレサが加わって来た。

「コウさん、それに【漆黒】の皆さん、助けていただいてありがとうございます。」

「私の村がすぐ近くにあります、村まで一緒に戻りませんか。」

「ちょうど俺たちもギルドに戻るところだったので、ご一緒させてもらおうか。」

「はい、それでは帰りましょう。」

テレサが嬉しそうに、みんなを案内して帰途の道を歩き出した。

テレサの心の声が聞こえてきそうな気がしたが、この先の身の振り方を心配した方がよいと判断した俺は営業スマイルでテレサの後を追った。

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