第3話

ーー


鈴「ねぇ、お母さん…。」


鈴の母「どうしたの?」


鈴「猫ちゃんって何ですぐ死んじゃうの?」


鈴の母「うーん…それはね…」


鈴の母「たぶん、猫ちゃんがすぐ

死んじゃうんじゃなくて、人間の

寿命が長すぎるだけだと思うな…。」


鈴「え、そうなの…?」


鈴の母「生き物ってね、ほとんどは

10年以内に死んじゃうの、基本はそれが普通で、

人だったり、一部の生き物はけっこう生きるけど

みんな直ぐに死んじゃうの…。」


鈴「そうなんだ…可愛そう…。」


鈴の母「鈴は優しいね…。」


鈴「そうかな?」


鈴の母「人に優しくすることはね、

実はむずかしいの…。」


鈴「え、そうなの?」


鈴の母「人って他人につい強く当たっちゃう

ことがあるの、それで人を傷つけたり、

それで喧嘩になったり…。」


鈴の母「でも、そんな後にちゃんと

謝れたら、人としてちゃんとしてるんだよ。」


鈴「そうなんだ…。」


鈴の母「でもそれが出来る人は限られてる、

だから鈴はすごいんだよ?」


鈴「そ、そうなのかな…。」


鈴の母「うん、そうだよ、

もっと自信持ってもいいんだよ。」


鈴「そう…かな?」


私のお母さんは、優しかった…。


辛い時にも寄り添ってくれて、

私のことを決して見放さずに

私に最期までずっと色んなことを

教えてくれて、何より…。


楽しかった。


お母さんと一緒に居た日々は退屈しなかった、

常に新しい刺激があって、この楽しさを

お母さんと共有できた…。


それなのに…。


鈴「どうして…。」


鈴の母「…。」


現実は、時に下手な映画や小説より

残酷な時がある。


今私の前に起きている現実がそうだ。


何も出来ない。


どうしようもなかった。


何で、優しかったお母さんが

死ななきゃいけなかったんだろう…。


あぁ…もっとお母さんと一緒に

居たかったな…。


どうして…


ーー


鈴「…。」


紫央「鈴さん…。」


結衣「私は、私の親が憎いよ、本当に…。」


紫央「…そうね…。」


結衣「君にも分かるだろ?大切な

親を失う悲しみは…。」


紫央「…えぇ、とても。」


結衣「こんなことってないよ…。」


結衣「それにあの鵜伏、何を考えてやがる…」


紫央「…あいつよね、鈴さんのお母さんを

殺したのは…。」


結衣「出来ることなら、あいつをこの手で

ぶち殺してやりたいよ…。」


紫央「私も、同意見よ…。」


結衣「畜生、どうしてこんなことに…」


紫央「…にしても、楓花さんが の

お姉さんだったなんてね…。」


結衣「…そんなこと、私達は

聞かされなかったぞ…?」


結衣「まさか、何か裏があるな…?」


紫央「裏って…?」


結衣「…分からないが、重要なことだろう…」


結衣「例えるとするなら、 の出生に

何か闇があるとか…。」


紫央「…そんな…。」


結衣「あくまで可能性の話だ、必ず

そうだとは言ってない…。」


紫央「…。」


主人公「…。」


主人公「あ、あの…?」


楓花「何?」


主人公「本当に、あんたは俺の姉なのか?」


主人公「そもそも俺に姉が居たなんて

聞いたことないんだが…。」


楓花「…話すと長くなるけどいい?」


主人公「時間はあるんだろ?構わないよ…。」


楓花「これは私も最近になって聞いたこと

なんだけど…。」


楓花「貴方は、雪乃家の人間だったの…。」


主人公「…っ、え?」


楓花「貴方の生まれた環境は複雑でね、

雪乃家の人間が不貞をしたことで

貴方は生まれたの…。」


主人公「…は?冗談だろ…?」


楓花「…しかも、貴方は事実上

雪乃家の血を継いでないの…。」


主人公「…何?」


楓花「不貞をした雪乃家の妻は、元々大野家の

人間で雪乃家の血を持ってはいなかった。」


楓花「だから、貴方は雪乃家に属して

いるけど雪乃の血は継いでない…。」


主人公「…待て、俺は何で養子に

出されたんだ?しかも不貞をした妻の

血縁関係にある大野家に…。」


楓花「…不貞をした貴方の母親は分家の

妻だったから、問題化されなかった。」


楓花「本来だったら貴方は消されても

おかしくはなかったけど、ある条件を

つけることで貴方は生かされた…。」


主人公「…その条件って?」


楓花「まず、不貞の相手である貴方の父親と、

貴方の母親を始末すること…。」


楓花「そして、嫁に出した娘が不貞を犯した

責任を取って大野家の人間が貴方を

引き取ること…。」


楓花「そして、あと1つは…。」


楓花「…。」


主人公「…何だ?」


楓花「…雪乃財閥が開発中で試作段階の、

新しい細菌兵器の投与…。」


主人公「は…!?」


主人公「何だよそれ…意味分かんねぇよ…!」


楓花「細菌兵器の効果は、詳しいことは

分かってないけどいくつか分かってることは…」


楓花「初期症状として記憶障害が起きること…」


楓花「そして、最悪の場合、死に至ること…」


主人公「何じゃそりゃ…」


主人公「てか、俺がずっと忘れっぽかったのって

そう言うことだったのかよ…。」


楓花「そして、その症状が深刻になるほどに

記憶障害が重篤化すること…。」


主人公「っ…!?」


おい…嘘だろ?


…最近、どんどん忘れっぽくなっている

気がするんだが、まさか…。


俺は死ぬのか…!?


…冗談じゃない、まだまだやりたいことが

沢山あるのに…!!


楓花「でも、きっと直す方法は見つかる、

だからまだ希望を捨てるには早いわ。」


主人公「だったら…いいんだけど…」


主人公「記憶障害は直らないんだろ…?」


楓花「…たぶん、脳の障害は悪化することは

ないけど、一生残り続けるでしょうね…。」


主人公「…。」


主人公「っ…!!」


主人公「クソがっ!!」ドォン!


主人公「ハァ…」


楓花「お、落ち着いて…。」


主人公「…はい。」


クソ…最悪の気分だよ…


これまで人生を生きてきた中で、間違いなく

一番最悪の気分だ…


鈴さんのお母さんがあんなむごい殺され方

されて、あげく記憶障害が一生直らないし、

死ぬ可能性が高いなんて言われて、希望なんて

持てるわけねぇだろうがよ…!!


主人公「…いくつか、聞いていいですか…?」


楓花「…何?」


主人公「その情報は、どこから

仕入れたんですか…?」


楓花「言っても信じてもらえるか

分からないけど…」


楓花「貴方の、二人目の親よ…。」


主人公「…え?」


主人公「俺の二人目の親って、

死んだんじゃなったのか…?」


楓花「なんとか生きていたらしいの、

知ったのは最近だけど。」


主人公「じゃあ、今は何処に…?」


楓花「今は本土に居る、だけど

直ぐにここに来るわ。」


主人公「あと、もう1つ…。」


主人公「何故俺をストーカーしてた?」


楓花「…貴方のことを守るためには、

こうするしかなかった…。」


楓花「ごめんなさい、貴方を

不安にさせてしまったわね…。」


主人公「…いえ、もう過ぎたことです…。」


楓花「…そう…。」


…今も、罪悪感で頭が潰れそうだ…。


鈴さんにあの事を話さなければ、

鈴さんのお母さんは死ななかったかも

しれないし、もっと状況は好転したかも…。


いっそ、俺が死ねば良かったのか…?


どうしよう、俺のせいでみんな

死んでしまったら…。


…もう、特攻するか?どうせ

残り少ない命なんだろ…?


ハハハ、もうそれがいいかもな…。


舞「おーい、 …?」


主人公「…何だ…?」


舞「もっと元気出しなよ… らしくないよ?」


主人公「…俺のせいなんだよ…。」


舞「…え?」


主人公「鈴さんのお母さんが死んだのは…

俺の、俺のせいなんだよ…。」


楓花「な、何言ってるのよ…!!」


舞「そうだよ、 が責を感じる必要ないよ!」


主人公「でも…」


舞「全部あの鵜伏が悪い!だから は

悪くないの!!分かった!?」


主人公「…なぁ、舞…。」


舞「何?」


主人公「俺って、生きてる意味あるかな…?」


舞「…は?」


主人公「どうせみんなを忘れちまうのに…

このまま生きてたって、辛いよ…。」


楓花「何っ…!!」


舞「ねぇ、やめてよ …どうしたの?」


主人公「あはは…舞…。」


主人公「俺もう全部嫌になっちまったわ。」


主人公「ごめんな…ごめんな…。」


舞「 …!」


主人公「鈴さんにも、申し訳ない…

情けないよ本当に…。」


舞「やめて…!」


主人公「…あぁ…」


主人公「なぁ、舞…。」


舞「…何?」


主人公「1つ、頼まれてはくれないか…?」


舞「何…?」


主人公「…もし、俺が紫央や結衣、鈴さんに、

舞、大切な人達の事を忘れてしまったら…。」


主人公「その時は…。」


主人公「どうか俺を、俺の事を、

殺してくれないか…?」


舞「…え…?」


主人公「…俺は、少し休んでくる…。」


舞「ね、ねぇ、待ってよ !」


舞「ねぇ…待って…!!」


舞「嫌…行かないで…!!」


楓花「…。」


楓花「…私は、私達は無力よ…。」


舞「…。」


楓花「何で、何で私は大切な弟すら

守れなかったの…。」


舞「…。」


楓花「絶対に守るって、辛い思いは

させないって決めてたのに…。」


舞「…辛いですよね、こんなことは…。」


楓花「…出来ることなら、私の命と

引き換えに に細菌兵器が投与された事を

無かったことにしたい…。」


舞「…。」


舞「私、 に守ってもらったんです…。」


楓花「…。」


舞「私、中学の時いじめを受けてて…

でも、その時に が助けてくれたんです。」


舞「だから…次は私が を助けたいんです。」


楓花「…そうね…。」


舞「…だから、絶対後ろは向きません…。」


舞「私が を助けます…!」


楓花「…。」


楓花「上手く行くかしら…。」


舞「…私はもう覚悟を決めました、

どんな卑怯な手も好んで使います、

人も殺せます、自らの命も使うことすら

厭わない覚悟です…!!」


舞「これ以上…これ以上 を辛い目には

遭わせません…!!」


舞「絶対に…!!」


そう言って、私は強く拳を握りしめた…。


そして、ふと昔の事を振り返ってみる…。


 と出会った最初の日を…


ー数年前ー


彼との出会いは、唐突に舞い降りた…。


主人公「やべぇ、部室どこだっけ…。」


主人公「こっちだったか…?」


主人公「ん?あいつは…?」


舞「…。」


主人公「え、あいつびしょ濡れじゃん…!」


タッタッタッ


主人公「おい、お前大丈夫か…?」


舞「…っ。」


私は と始めて会ったとき、

酷く怯えていた…。


主人公「タオルあるから体拭けよ、ほら。」


舞「あ…うん。」


舞「ありがと…。」


主人公「礼には及ばないよ。」


主人公「…それより、何があった?お前って

水泳部じゃないよな、何で濡れてるんだ?」


舞「…っ…。」


主人公「いや、話したくないなら

話さなくていいからな…。」


舞「…。」


舞「トイレに居るとき…。」


主人公「…?」


舞「バケツの水をかけられた…。」


主人公「え…!?」


主人公「それ、いじめだろ…!

そのこと先生には言ったのか…?」


舞「…言ってない。」


主人公「先生に言った方がいいだろ…、

それが一番だ…。」


舞「…無理なの、言っても無意味なの…。」


主人公「え…、どう言うことだよ…!」


舞「私のこといじめてきた奴らの中に、

田代先生の娘が居るの…。」


主人公「え…田代先生って確か、

理科の教師だったか…。」


舞「しかも最悪なのが、田代先生はいじめを

容認してるらしくて…。」


主人公「おい…嘘だろそんなこと…

そいつ、本当に教師か…!?」


舞「それだけじゃない。」


舞「田代先生はこの学校の理事長の

お気に入りらくて、先生に相談しようにも

意味がないみたいなの…。」


主人公「それじゃ、林教頭先生に話して

みるのはどうだ?林先生は理事長や田代先生に

恨みがあるともっぱらの噂だからな…。」


舞「…それが罠なの。」


主人公「…え?」


舞「林教頭が理事長や田代先生を恨んでいる

なんて真っ赤な嘘、教頭に言ったら最後…」


舞「不当な罪を着せられて、退学になる…!」


主人公「…は!?」


主人公「何だよそりゃ…そんな

酷ぇ話あるかよ…!」


舞「酷いよね、でもそのせいで私の

大切な人が退学させられた…。」


主人公「…その人は、どんな人だったんだ?」


舞「私の…部活の先輩。」


舞「とても正義感が強くて、優しくて

他人の模範になるような人…。」


舞「だった。」


主人公「だった…?」


舞「私のことを庇って、林教頭に

いじめのことを話して…」


舞「そのまま、退学させられた…。」


舞「その時、先輩が私に言ったの。」


ーー


舞「せ、先輩…話って何ですか?」


先輩「…ねぇ、舞、私退学させられちゃった。」


舞「…え?」


舞「どうして…!教頭先生に話せば理事長や

田代はどうにかできるはずじゃ…!!?」


先輩「…教頭は理事長や田代を

恨んでなんかいなかった。」


舞「…っ!!?」


舞「そん…な…。」


先輩「…あんたなんか…。」


舞「…え?」


先輩「あんたなんか助けようと

するんじゃなかった!!」


舞「…え?」


先輩「あんたのせいで…あんたのせいで私は

退学させられたの!!」


舞「え…な、なんでそんな酷いこと…」


先輩「私、全国大会に出る予定だったのよ…」


舞「っ…!!?」


先輩「なのに…なのにあんたのせいで…!!!」


ボガッ


舞「っが…!?」ドサッ


先輩「よくも…よくも…!」


ーー


主人公「っ…!?」


舞「それ以来私、もう全部

嫌になっちゃったんだ。」


舞「だから…」


舞「自殺しようと、屋上から飛び降りようと

思ったの…。」


主人公「っ…!?」


舞「でも、私は私が思うほど強くはなかった。」


舞「飛び降りようと、柵に伸ばした手が、

自分でも分かるくらい震えていたの。」


舞「私に死ぬ勇気なんてなかったんだ。」


主人公「…!!」


舞「…ねぇ、君、名前なんて言うの?」


主人公「俺は… だ。」


舞「そう、じゃあ …。」


舞「私と友達になってくれる?」


主人公「え…?」


舞「君だけは、信用できそうなの…。」


主人公「…分かった。」


舞「フフ、よかった…。」


舞「今日はありがとう、話を聞いてくれて…。」


主人公「どうも。」


主人公「そう言えば、まだ名前を聞いて

居なかったな?名前なんて言うんだ?」


舞「私?私はね…」


舞「舞って言うんだ。伊上舞。」


主人公「舞…か。」


主人公「これからよろしくな。」


舞「うん、こちらこそ。」


主人公「そうだ、今日は一緒に帰らないか?」


舞「うん、一緒に帰ろう…。」


主人公「あと、1ついいか…?」


舞「…何?」


主人公「俺、お前の事を守ってもいいか…?」


舞「っ…!!」


舞「うん…!!」


その、彼の優しくも強い言葉に心を打たれた。


その時だろう、彼に、 に恋したのは…。


ー今に戻るー


舞「…。」


昔の事を思い出して、より彼への、 への

想いが増した気がした…。


もう、何も恐れることはない…。


 が居なくなることに比べたら、

もう何も怖くないよ…。


楓花「…ねぇ…。」


舞「何ですか?」


楓花「もし、この事件の黒幕が

貴方の大切な人だったら

その人のことを殺せる?」


舞「殺します。」


楓花「…そう、問題ないみたいね。」


舞「貴方は、どうですか…?」


楓花「…辛いけど、殺すしか…。」


舞「…それは、良かったです。」


ーー


俺は、部屋の中で一人立ち尽くす…。


そして、自分の頭に銃口を向ける…。


主人公「…。」


どうせ、引き金も引けないくせに…。


虚しい、何もかもが虚しい…。


迷惑ばかりかけて、何も返せてない…。


何もかもが悔しい…。


自分の事が、殺したいくらい憎い…。


恥の多い人生を送ってきたんだなと

痛感する…。


この、自分の頭に向けられた銃口の引き金を

引けたら、どれだけ楽なんだろうか…。


…いや、今ここで俺が死んでも、

皆に迷惑をかけるだけなんだ…。


主人公「…どうすりゃいいんだよ…。」


鈴「…。」


主人公「…鈴さん…。」


鈴「さっきは、私の事担いでくれて、

ありがとうね…。」


主人公「いえ、礼には及びません…。」


鈴「 君も辛いの…?」


主人公「いえ、そんなことは…。」


鈴「あるんでしょ?だからそんなに

泣きそうな顔をしてるんでしょ…?」


主人公「…鈴さんの方がよっぽど辛いですよ…」


鈴「辛さに上とか下とかないよ…

辛い時は、皆同じくらい辛いの。」


主人公「そう、なんですか…?」


鈴「そうだよ…きっと。」


そう言って、鈴さんは俺の手を握る。


その手は、酷く震えていた…。


…俺は何をしてるんだ…。


鈴「ねぇ… 君…。」


ぎゅぅっ


鈴さんは、震えている手で、心もとない力で

俺を抱き締める…。


鈴「これで、少しは落ち着くかな…?」


主人公「…。」


鈴「よく、頑張ったね…。」ナデナデ


鈴さんは、俺よりずっと辛い目にあったのに、

俺に優しくしてくれた…。


それに比べて俺は…。


鈴「…私達は、どうして辛い目に

遭わなきゃだめなんだろうね…。」


主人公「…。」


鈴「でも、こんなに苦しいってことは、

近い内にきっと救われるってことだよね…。」


主人公「…。」


鈴「だから、いつまでも下を

向いてちゃ駄目だね…。」


俺に、先なんてないんだよ…。


鈴「…それに、お母さんも私に

下を向いて欲しくないだろうから…。」


主人公「…」


鈴さんは立派な人だ…。


お母さんが死んで、辛い気持ちになって、

それでも前に進める…。


先のない俺とは違う…。


鈴「だから…。」


鈴「 も、そんなに辛い顔しないで…。」


主人公「…。」


鈴「ねぇ… ?」


主人公「…」


鈴「…ちゅっ。」


主人公「んっ…!?っ…!」


鈴「んんっ…えへへ…。」


主人公「なっ、何を…。」


鈴「えへへ… が綺麗な顔してたから、

ついちゅってしちゃった…。」


主人公「っ…。」


鈴「…今日は一緒に寝ちゃおっか?」


主人公「…そう、しますか…。」


鈴「寝て今日の疲れを取ろう、

きっとそれが一番だよ。」


主人公「はい…。」


鈴さんはどうして、あんな辛いことが

あってこんなにも前向きに、ひた向きに

生きていられるんだ…。


鈴「えへへ、 、おやすみ…

ゆっくり眠るんだよ。」


…その、貴女の姿を眩しく感じる。


まるで太陽のように。


…ただ、太陽の光は直接見るには眩しすぎる。


…その眩しさを見ると、未来のない俺と

重ね合わせて、絶望感が増していく感覚が

してしまうんだ…。


…鈴さん、俺は貴女のようにはなれない…。


…怖いんだ、何もかも…。


ある日、ある時あっさりと皆のことを

忘れてしまうと考えると、底知れない

恐怖で泣きそうになるんだ…。


…あぁ、もう嫌だ…。


鈴「ねぇ、 君…。」


主人公「どうしました…?」


鈴「私、思うんだよね…。」


鈴「そろそろ私達の方に運が巡って

来るんじゃないかって…。」


主人公「…そう、なんでしょうか…。」


鈴「きっとそうだよ。」


鈴「そう思った方がいいよ…。」


主人公「…そうですね…。」


…もう、眠りにつくのか…。


今までの夢は、俺の記憶に関する

物が多かった…。


…せめて俺の記憶障害が直るヒントになる

夢でも見せてはくれないか…?


…頼むぞ…。


ーー


主人公「…あれ?ここは…?どこだ?」


分からない、ここは…?何で

僕はここに居るんだ?


主人公「ここは…公園みたいだけど。」


主人公「…ん?あれは…?」


白髪の少女「あなたはだれ?」


主人公「…え?」


紫髪の少女「あなたはだれ?」


主人公「あ…が…!?」


眼帯をかけた少女「あなたはだれ?」


主人公「嫌だ…があぁっ、やめろ…!!!」


オレンジ色の髪の少女「あなたはだれ?」


主人公「がぁぁっ、だっ、誰か…助け…」


父親「あなたはだれ?」


主人公「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


母親「あなたはだれ?」


主人公「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


お前は…誰だ…!!


お前らは…誰なんだ…!!


…俺は誰なんだ…?


…あなたは誰…?


あなたはだれ?


…。


あなたはだれ?


あなたはだれ?


あなたはだれ?


あなたはだ


主人公「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


鈴「だっ、大丈夫!?」


主人公「はぁ…はぁ…はぁ…!?」


主人公「嫌だ…嫌だ…!?」


鈴「どうしたの!?大丈夫…?」


主人公「はぁ…はぁ…夢…!?」


鈴「大丈夫…?すごいうなされてたけど…。」


主人公「…すいません、大丈夫じゃ

ないかもしれません…。」


鈴「そっ、そうなの…?

何があったの…?」


主人公「地獄のような夢を見せられました…。」


…あれは何だったんだ…。


…あの夢に出てきたのは結衣に紫央、舞に

鈴さん、それに俺の母さんと父さんだ…。


…もう、あの夢のことは思い出したくない…。


…もし、俺が今どうしようもなくなったなら、

せめて、何かできないか…?


何か、できることはないのか…?


舞「 っ!大丈夫!?」


主人公「っ、舞…!」


舞「あれ、鈴さんも一緒…?」


鈴「詳しいことは後で話すよ、

ほら、行こう?」


舞「は、はい…。」


舞「…。」


主人公「舞、どうかしたか…?」


舞「 、後で二人だけで話さない…?」


主人公「あぁ、いいぞ…。」


舞「…ありがと。」


ーー


結衣「…なぁ、紫央、私一つ思うことがあるんだ…」


紫央「…何?」


結衣「楓花さんは、まだ私達に隠してることが

あるんじゃないかって…。」


紫央「…え?」


結衣「私が思うに、あの に投与されたとか

言ってた細菌兵器、あれに何か裏があると

思うんだよ…。」


紫央「それは、流石に考えすぎじゃない…?」


結衣「…そうか?私にはそう思えないな…。」


紫央「…そうなの?」


結衣「…分からないんだ、あの人が

何を考えているのか…。」


紫央「…。」


結衣「なぁ、紫央…」


結衣「特効薬を使えば記憶障害が無くなって、

全部思い出すなんて嘘なんじゃないのか…?」


紫央「結衣、止めて…」


結衣「…ごめん、流石に考えすぎたか…。」


紫央「…ん?あれは に、舞ちゃんと鈴さん?」


結衣「…さっきの の叫び声は何だったのか、

これで分かるね…。」


紫央「…えぇ、そうね。」


舞「…それで、 と鈴さんはなんで

一緒に居たの…?」


主人公「…それは…。」


鈴「私が、悩みを聞いてもらってたの…。」


鈴「そしたら、気づいた頃には一緒に

寝ちゃってて…。」


舞「そうなの…?」


主人公「…そうだ。」


舞「…そうなんだ…。」


主人公「所で、俺達はこれから

どうしようか…。」


鈴「そう言えば、これからの事を

全く考えて無かったね…。」


結衣「そのことか…。」


主人公「結衣…?」


結衣「実はまだ資料が場所の目処

が立ってなくてね…。」


主人公「え、そうなのか…?」


結衣「そう、だから暫くはお休みだよ…。」


鈴「…そっか。」


結衣「…すまないね。」


鈴「…いいの、私は大丈夫だから…。」


結衣「…。」


結衣「そう言えば、さっきなんで は

叫んでたんだ…?」


主人公「…少し、悪い夢を見ていたんだ…。」


結衣「悪い夢…?」


主人公「…地獄のような夢だった。」


結衣「…そうだったのか…。」


結衣「…すまないな。」


主人公「…いや、いいんだ…。」


結衣「…。」


結衣「…楓花さん、ちょっといい?」


楓花「結衣…?どうしたの?」


結衣「少し聞きたいことがあるんだ…。」


楓花「…それは?」


結衣「 に何を吹き込んだ…?」


楓花「…。」


結衣「答えてくれないか…?」


結衣「…まさか…。」


結衣「 にあの事を言ったのか?」


楓花「…。」


楓花「えぇ、言ったわ。」


結衣「は…!?」


結衣「何やってるんだよ…!!」


結衣「あの事だけは話すなとあれほど

言ったのに、どうして…!!」


楓花「ごめんね…。」


楓花「 には包み隠さず、本当のことを

教えたかったの…。」


結衣「だからって…あの細菌兵器の

話をすることないだろ…!!」


楓花「…あれはあの子の出生に関わる

最も重要なことなの…。」


結衣「だからって、何で話す

必要があるんだ…!!」


楓花「こうするのが、きっと一番いい

選択肢のはずなの…。」


紫央「二人とも、どうしたの?」


結衣「楓花さんが、細菌兵器のことを、

 に話した…!!」


紫央「…え?」


紫央「それは本当なの…?」


楓花「えぇ。」


紫央「何でそんなことを…?」


紫央「あの事を に話す必要性は

ないはずよ…。」


楓花「…私は、あの子に本当のことを

話したかったの…。」


紫央「…でも、本当のことを全て話すことは

 の事をを傷つけることにも繋がるわ…。」


楓花「…え?」


紫央「 はこの島を出てから更に

忘れっぽくなったみたいだから、

自分が長くないと確信するはずよ…。」


楓花「っ…」


紫央「 にあの事を教えたのは

本当に正しかったの?」


楓花「…。」


楓花「私は、あの子に少しでも

姉として何かしたかったの…。」


紫央「っ…!」


楓花「…でも、それが悪い結果に

なってしまったのかもしれないのね…。」


楓花「…ねぇ、私はどうすればいいの…?」


紫央「…。」


舞「ねぇ、何の話?」


結衣「わぁっ、舞…?」


舞「なんか、細菌兵器とか言ってたけど…」


楓花「舞ちゃんもこの事を知っておいた

方がいいかしら…?」


紫央「舞には話した方がいいかもね…。」


結衣「…あぁ、そうだな…。」


楓花「ねぇ、舞ちゃん、ちょっといい…?」


舞「…何ですか…?」


楓花「これは重要な話なの…。」


舞「…それは…?」


楓花「あの子の、 の過去、それと

 が投与された細菌兵器の詳細について…。」


舞「…それは?」


そして、舞は の出生、そして投与された

細菌兵器のことを楓花から明かされた…。


舞「 の身にそんなことが起きていたんだ…。」


舞「まさか… が死ぬなんてこと、

ありえないよね…?」


結衣「…。」


結衣「死ぬかもしれないんだ。」


舞「え?」


舞「 が…死ぬ…?」


舞「どうして…!」


紫央「それを防ぐためには、特効薬を

見つけて、 の細菌兵器の効果を無効化

させるしかないの…。」


舞「…え?そんなのがあるの…!?」


結衣「…うん、研究所にあるらしいんだ…」


舞「なるほど、研究所にその

特効薬はあるんだね…。」


結衣「…うん。」


舞「それじゃ、急いで研究所のある

場所を突き止めないと…!」


結衣「あぁ、私達も急ピッチで行く。」


舞「うん、じゃあ私にも何か

出来ることはない?」


結衣「舞…。」


結衣「なら、1つ頼みたいことがあるんだが…」


舞「…何?」


そして結衣は、口を舞の耳に近づける…


結衣「…。」


舞「…え?」


結衣「頼まれてくれるか…?」


舞「う、うん…分かった…。」


舞「でも、いいの…?」


楓花「それじゃあ、私達は準備に

取りかかりましょう!」


紫央「はい!」


結衣「さて、私も行こう…。」


舞「…。」


舞「私はどうすればいいのかな…。」


舞「そう言えば、研究所の場所なんて

どうやって突き止めるの…?」


結衣「ハッキングを使うんだ。」


舞「ハッキング…?」


舞「雪乃財閥のセキュリティとなれば、

並大抵のハッキングじゃどうにも

ならないはずだと思うんだけど…。」

 

結衣「楓花さんはハッキングを嗜んで

いるんだ、それもかなりレベルが高い…。」


楓花「それに、雪乃財閥はセキュリティの

コードに同じキーワードを使ったり、

同じような回路を多用したりする、

お粗末な点があるの…。」


舞「え、そうなんだ…。」


舞「そう言えば、同じキーワードって

言ってたけど、そのキーワードって何?」


結衣「何でそれを聞いたんだ…?」


舞「…何となく、気になったの。」


結衣「…良いだろう、けどそのキーワードを

聞いてもよく分からないと思うぞ…。」


舞「そうなの…そのキーワードは?」


結衣「…。」


結衣「葉桜プロジェクトだ。」


ーー


鵜伏「さて…我々の計画ら葉桜プロジェクトも

そろそろ大詰めですね…。」


鵜伏「これが成功すれば雪乃財閥は

世界を支配し、私もこの世界に

大きな爪痕を残すことが出来る…。」


鵜伏「フフフ…もう私が打つべき手は

全て打ちました…。」


鵜伏「あとは、天命を待つだけです。」


鵜伏「フフフ…楽しみですねェ…彼らが

ここを突き止める時が。」


鵜伏「ですが、彼らに早く突き止めさせる

ためにセキュリティに同じような回路を

使ったりしたのは迂闊だったかもしれません。」


鵜伏「ですが、もう既に私の勝利は

決定付けられているのだよ…。」


鵜伏「それには絶対的な根拠があり、

今後何が起こり得るのか、それも

全て予測済みだ…。」


鵜伏「あぁ…楽しみだ…。」


鵜伏「だが…彼の子供はまだいないの

でしょうか…?」


鵜伏「それだけが不安ですね…。」


ーー


主人公「…。」


俺が居た施設、そこの屋上から海を見ている…


この施設は、どうやら一軒家を加工した

特殊な施設のようだ…。


…そして、ここから見える海は、

残酷なまでに綺麗だった…。


どこまでも繋がっているかのような

水平線の中心に、月が浮かんでいる…。


しかもどう言う訳か、今日に限って

満月のようだった…。


鈴「あ、 君…奇遇だね。」


主人公「鈴さん…?」


鈴「 君も月を見に来たの?」


主人公「…えぇ、そんな所です。」


鈴「綺麗だよねー、この島から

見える海って…。」


主人公「えぇ、そうですね…。」


鈴「春は桜を見て、夏は海で泳ぎ、

秋は紅葉が咲き乱れ、冬は雪が街に

降り積もって行く…。」


鈴「忘れられがちだけど、この島って

自然の宝庫だよね…。」


主人公「…はい。」


鈴「私、この島に生まれてきて、この島で

育つことができてよかったと思ってるよ。」


主人公「…はい、俺もです…。」


鈴「 君もそうなんだね…。」


鈴「この島は本当に退屈しないよ、

豊かな自然に色んな施設もある…。」


鈴「…それに、何より…。」


鈴「君に出会えた、それが私にとって

何よりの幸せだよ…。」


主人公「っ…!?」


鈴「ねぇ、1ついい?」


主人公「何ですか…?」


鈴「来週の土曜って予定開いてるかな?」


主人公「はい、俺は開いてます。」


鈴「なら、連れていきたい場所があるんだ…」


主人公「…え、いいんですか…?」


鈴「うん、 君何だか元気無さそう

だったから、元気になって欲しいんだ…。」


主人公「っ…」


鈴「 君も大変なんだなって思ったら、

私も少し元気になったんだ…。」


鈴「辛いのは私だけじゃない、私は

一人じゃないんだって…。」


鈴さんの優しさに心を射たれた。


この人の心はまるでこの島の海のように広く

それでいて夜空を照らす月のように

優しく俺を包み込んでくれる…。


…俺もいつまでも鈴さんの優しさに

甘えている訳にはいかない、けど…。


希望を持てないんだ、この先の人生に…


もしこの後雪乃財閥を倒したとして、

俺はどうなる…?


…死ぬのか、俺は…。


もし仮に死ななくても、全てを

忘れるかもしれない…。


今日、この日のことさえも…。


忘れたくない、何もかも…。


俺が、俺達が作ってきた、この世界に

刻み込んだ、俺が生きた証を…。


俺の大切な宝物を…。


だが、もう手遅れなのか…?


鈴「ねぇ、いいかな…?」


主人公「…はい、行きましょう…。」


ーー


少年「…。」


結衣「なぁ、 …!」


少年「…結衣?」


結衣「この島から引っ越すって、本当なの!?」


少年「…あぁ、そうだ…。」


結衣「おい、どうするんだよ…こんな

大変な時に…!!」


少年「…大変って何のことだ…?」


結衣「紫央が、祭の演舞をすることに

なったんだよ…!!」


少年「っ…え!?」


少年「祭の演舞って本来紫央じゃなくて

俺と同じ、大野家の人間がやるんだったよな…」


結衣「それが、本来祭の演舞をするはず

だった人が居なくなったんだよ…。」


少年「でも、何で紫央が…」


結衣「本来、村上家が演舞を踊る役割を

持っていたんだ、ただ失敗続きでその役割は

大野家に引き継がれたんだけどね…。」


少年「…そんなことがあったのか…」


結衣「なぁ、本当に行くのか…?」


少年「…本当にすまない…」


結衣「…いや、仕方ないよ…、

 にも事情があるんだろ?」


結衣「聞いたよ、両親が消息不明なんだろ?」


少年「…そうなんだ、…どうしたんだろう…」


少年「そんなに大事な時にいなくなるなんて、

本当にどうかしてるよ…。」


結衣「…なぁ、 …?」


少年「どうした?」


結衣「一つ、約束してくれないか…?」


少年「いいぞ、何だ?」


結衣「またいつか…近いうちに、また

この島に戻ってきてくれないか?」


少年「…あぁ、いいぞ。約束だ…」


結衣「!うん!また戻ってきてね!

約束だよ!」


少年「あぁ!!」


結衣「…、紫央は果たして持つかな…?」


結衣「…。」


ーー


主人公「…朝、か…。」


何だ、この、記憶は…。


…紫央が祭の演舞をしていたのか?


だが、1つだけ確かなのが…。


この時の結衣の悲しそうな顔が、

とても強く印象に残っていた…。


断片的にだが、これだけは覚えていた…。


…分からない、なぜこれだけ

記憶していたのか…。


だが、1つ分かったことは…。


多分、俺をこの島に行かせようとしたのは、

この時の約束である可能性がある…。


それを確かめなければいけない…。


だが、その前に…。


主人公「鈴さんの所に行こう…。」


ピンポーン


主人公「ん?誰だ…?」


ガチャ


鈴「 君、もう準備は出来た?」


主人公「鈴さん!はい、もう

準備は出来ました…。」


鈴「そう、じゃあもう行っちゃおうか。」


主人公「はい!」


ーー


主人公「…ここは、遊園地…?」


鈴「うん、遊園地だよ!」


鈴「私もここに来るのは久しぶりだから、

ずっと楽しみにしてたんだ…。」


主人公「そうなんですか?」


鈴「うん。」


鈴「懐かしいなぁ…よくお母さんに

連れられて来たっけ…。」


主人公「…。」


鈴「ほら、行こう!」


主人公「あぁ、ちょっと!」


そして俺は、鈴さんに手を引っ張られて

連れられた…。


鈴「どこから行こっか!」


主人公「えーっと…どこにしよう…。」


鈴「メリーゴーランドとかいいんじゃない?

よし、早速行こう!」


主人公「ちょ、高校生が2人で

メリーゴーランドに乗るってどうなんですか…」


鈴「そんな細かいことは気にしないの!」



鈴「分かった!?」


主人公「はっ、はい!?」


何か丸め込まれた気がする…。


鈴「どれに乗ろっか!」


鈴「この馬車のやつとかいいんじゃない?」


主人公「えっ、せ、せめて馬に…」


鈴「いいから、行くよ!」


主人公「ちょ、う、うわぁ!?」


今日は鈴さんが何故か強引だ…。


鈴「じゃあ、行っくよー!」


主人公「ちょ、鈴さん…!?」


鈴「やっほーい!」


メリーゴーランドでこんなにはしゃいでる

人は始めて見たかもしれない…。


しかも馬車で…。


鈴「楽しみだなー、メリーゴーランドなんて

いつぶりだろー?」


主人公「俺も、メリーゴーランドなんて

乗るのすごい久しぶりだな…。」


鈴「お、もうそろそろ発車かな…?」


主人公「え、何か揺れるんですけど…」


鈴「知らないの?ここのメリーゴーランドは

すっごい揺れるのが特徴なんだよ!」


主人公「…はえ?」


グラグラ…。


主人公「え、これ馬車だよ?そんな

揺れるわけ…」


鈴「あ、シートベルト付けた?」


主人公「っ…え?」


メリーゴーランドなのにシートベルトを

付ける前提だと…?


…この遊園地、どうなってやがる。


鈴「はい、シートベルト付けといたよ。」


主人公「あ、ありがとうございます。」


ガッシーン!


主人公「うわぁぁぁ!?」


鈴「いやっほーい!」


なんて揺れだ…これもう

ジェットコースターなんじゃないのか?


鈴「これ楽しいねー!」


主人公「これはもうほぼほぼ

ジェットコースターでは…!?」


鈴「あー、確かにそうかもね!」


主人公「今気づいたんですかー!?」


鈴「うぇーい!」


主人公「ぎゃぁぁ!?」


いや、この揺れは…コーヒーカップにも

通ずる物があるような…。


とにかく、これはヤバイ…!!


鈴「たーのしーっ!」


何で鈴さんはこんな楽しそうなんだ…。


慣れてんのか…?にしても

はしゃぎすぎなような…。


主人公「にっしても、どんだけ揺れんだ

これは!本当にこれメリーゴーランドかよ!?」


鈴「うん!一応ね!」


主人公「一応って何なんだよ、うわぁぁ!?」


鈴「いやー、こんなの久しぶりだから、

すっごく楽しいよー!」


主人公「こっ、こんなの…」


主人公「メリーゴーランドじゃ、

なぁぁぁい!?」


ーー


主人公「はぁ…死ぬかと思った。」


鈴「いやー、楽しかったね。」


主人公「楽しかった…って

言っていいのかこれ?」


鈴「次はこれとかどう?」


主人公「これは…ジェットコースターか…。」


こんなメリーゴーランドがめっちゃ揺れるような

所ののジェットコースターなんて、

先が思いやられるな…。


主人公「それで、このジェットコースターは

どんな感じなんですか…?」


鈴「うーん、あんまり怖くないかな。」


え、そうなの?


もしそれが本当だとしたら果たして

どうなってんだこの遊園地は…。


鈴「じゃ、早速行こっか。」


主人公「はい…。」


ーー


鈴「そろそろ出発するみたいだね。」


主人公「はい、ですね…。」


鈴「お、発進したみたい!」


主人公「っ、ジェットコースターなんて

久々に乗るからな…感覚なんて

すっかり忘れちまったよ…。」


鈴「うん、私も…この、上がる感覚も

久しぶりだよ…!」


主人公「…あれ、もう上がり終わるんですね、

早い気がします…。」


鈴「でしょ?実はこのジェットコースターって

初心者用に作られたんだよね。」


主人公「あ、そうなんですか、だから

こんなにも早く…。」


俺がそう言った瞬間、体が下に

落ちていくような感覚がした…。


鈴「うぉぉぉっ!!」


主人公「うぉっ、久しぶりだから

中々スリルを感じます…。」


鈴「確かに、そうだね…。」


主人公「お、次はまぁまぁ上がりますね…。」


鈴「だね、でもこれが終わったら

このジェットコースターは終わるんだよね…」


主人公「あれ、早いですね…。」


主人公「あれ、ここから海が見えます!」


鈴「そうだよ、ここからだと海が見えるんだ。」


鈴「この島から見える海って本当に奇麗だよね、

私、この島に生まれてきてよかったよ。」


主人公「俺も鈴さんに同意です…」


そして、再び体が落ちていく感覚を

その身に感じた…。


主人公「うぉぉっ、これは、初心者用にしては

なかなか落ちるなぁ…っ!」


鈴「わぁぁ!この感覚久しぶりだよ!」


主人公「鈴さん、楽しそうですね…!」


鈴「そりゃそうだよ、こんな楽しいの

すっごく久しぶりだもん…!」


主人公「…ふぅ、終わったか…。」


鈴「あー、楽しかったな…。」


鈴「あぁ、言い忘れてたけど実はここ

奥の方にもう一つジェットコースターが

あるんだよね…。」


主人公「…え?」


鈴「そっちの方は私も1回しか乗ったことが

ないんだけど、すごい落ち方したんだよね…」


鈴「折角だし、行ってみようよ!」


主人公「ちょっ…ストップ!ストップ!」


鈴「何?」


主人公「流石に2回連続ジェットコースターは

体にくるんですよ…。」


鈴「あー、そっか…。」


主人公「そ、それにお腹空きません?

ご飯食べましょうよ…。」


鈴「あ、いいね、もう食べちゃおっか!」


主人公「それで、どこで食べましょうか…?」


鈴「さっきのメリーゴーランドの近くにある

ハンバーガーのお店が美味しいんだ、

だからそこに行こうよ!」


主人公「そうしますか…。」


鈴「じゃあ、行こう!」


ーー


鈴「 君は何食べる?」


主人公「俺は…無難に、チーズバーガーに

してみようかな…。」


鈴「じゃあ、私も同じやつにする!」


主人公「え、同じやつにするんですか?」


鈴「だって、同じ物を食べた方が

美味しいじゃん!」


主人公「なら、そうしまょう。」


鈴「じゃ、行こっか!」


店主「へい、いらっしゃい!ご注文は?」


主人公「チーズバーガーを2つお願いします。」


店主「おっ、2人でお揃いかい?」


主人公「はっ、はい、一応…。」


店主「お二人さんはカップルかい?」


主人公「あっ、いや、そう言う訳では…」


鈴「カップルです!!!」


主人公「あぁっ、ちょっと鈴さん!?」


店主「そうかい!やっぱりカップルかい!」


主人公「あっ、あの…すいません…」


店主「いいじゃないか、2人で

休日に遊園地デートなんて、

青春してるじゃないか!」


主人公「あっ、その…」


鈴「はい!休日デート楽しいです!」


主人公「…聞いてない…。」


店主「はい、チーズバーガー2つ、

あとこれはおじさんからお二人さんへ

ささやかながらプレゼントだ。」


鈴「えぇっ、いいんですか…!?」


主人公「えっ、えぇぇっ!?」


店主「お二人さん、楽しんできな!」


鈴「はい!ありがとうございます!」


主人公「あ、ありがとうございます…?」


おいおい、おじさん何してくれてんだ…


プレゼントと言われて鈴さんが渡された

それはコーラだった…


だが、そのコーラは明らかにカップルが

飲むことを前提としている、ハート型の

口が2つあるストローがついていた…。


主人公「…。」


どうしよう…これもう後戻り

出来ないのでは…。


鈴「あのおじさん、いい人だったね!」


主人公「あっ、はい…。」


鈴にとってはそうだったのかもしれないけど、

あのおじさんは俺には悪魔に見えたよ…。


鈴「お、あそこにちょうどいいベンチがある、

あそこに座ろうか。」


主人公「はい。」


主人公「…。」


やばい、マジでどうしよう…。


鈴「いただきます。」


主人公「あ、いただきます…。」


主人公「…。」


おいしい…。


…。


鈴「…。」


鈴「コーラ飲まないのー?」


主人公「あっ、いや、その…。」


鈴「飲もうよー、折角おじさんが

くれたんだからさー。」


主人公「いや…あのー。」


鈴「飲まないなら、これ食べ終わった後

奥の方のジェットコースターに直行するよ…?」


主人公「あーっ、分かりました、

分かりましたからそれだけは…」


鈴「いいから、早く飲みなさい!」


主人公「はっ、はい…!?」


主人公「…。」


鈴「じー。」


主人公「ゴクゴク…。」


鈴「じー。」


どうしよう、コーラを飲んでる俺を

鈴さんがガン見して来る…。


鈴「ゴクゴク。」


やばい、鈴さんがコーラを飲んでる…。


これ、めっちゃ恥ずかしいんだけど…。


鈴「…。」


鈴「ねぇ、 君。」


主人公「な、何でしょう…。」


鈴「こうやって一緒のコーラを飲んでると、

まるでキスしてるみたいな感覚になるよね。」


主人公「っ…!?」


鈴「あ、赤くなった、可愛い…。」


主人公「可愛い言わないでくださいよ…。」


鈴「だって本当にかわいいんだもーん。」


主人公「それを言うなら、鈴さんの方が

可愛いですよ…。」


鈴「な…っ!?」


鈴「あーっ、、 君の方が可愛いんだもん!」


主人公「あ、鈴さんも赤くなりましたね…。」


鈴「むー…。」


主人公「…。」ナデナデ


鈴「頭撫でないでよぉ…!」


主人公「鈴さん…まるで子供みたいですね。」


鈴「ぶぇー!怒った!もう怒ったから!」


鈴「これ食べ終わったらすぐ奥のほうの

ジェットコースターに行くから!」


主人公「あっ…ちょっとそれだけは…」


鈴「だめー、 君は私を怒らせたから、

その罰だよ…。」


主人公「ちょ…ごめんなさい、本当に

ごめんなさい、反省してます、許して…」


鈴「んー?どーしよっかな?」


鈴「うーん…。」


主人公「…。」


鈴「だめー。」


主人公「っー、どうして…!」


鈴「それより、早く食べちゃお?」


主人公「…はい…。」


俺、終わったかもしれない…。


てか、俺こんなことしてる場合なのかな…。


ーー


主人公「…。」


鈴「あー、緊張するなー。」


これは俺のせいなのか…?


どうしよう、生きて帰れる自信がない。


ここに入る前、ジェットコースターを

見てみたんだけど…。


さっきのやつとは比べ物にならないくらい

高低差があったんだ…。


…この2つは、本当に同じ遊園地の

ジェットコースターなのか…?


…そんな事、考えても無駄だな…。


今はただ…。


主人公「…乗らなきゃ、ダメですか?」


鈴「ダメっ!」


この目の前にある現実に、

立ち尽くすしかないんだろう…。


鈴「ほら、行くよ!今すぐ行くよ!」


主人公「鈴さんは怖くないんですか?」


鈴「うん、全然怖くないよ!」


主人公「え、あれがどんな高低差か

見たんですよね?」


鈴「うん、見たよ。」


主人公「どう思いました?」


鈴「久しぶりに乗るなぁ…って思ったよ。」


主人公「えぇ…。」


鈴「何で引いてるのー?」


主人公「いや、多分その感覚普通じゃないですよ…」


鈴「え、そうなの?」


主人公「今気づいたんですか…。」


鈴「そんな事より、早く行っちゃおう!」


主人公「あっ、ちょっと、まだ心の準備が…」


鈴「ほら、行くよ!」


主人公「え、ちょっ、うわぁぁ!?」


主人公「わぁっ、乗っちゃった…。」


鈴「フフフ…もう諦めなさい。」


主人公「そんな…。」


鈴さんってこんなキャラだったっけ…。


鈴「…お、もうそろそろ出発かな…?」


主人公「あぁ…嫌だなぁ…。」


鈴「お、出発した!」


主人公「え、何でこんなに上がるの…?」


鈴「あー、そうだそうだ…これ、

最初でもだいぶ上がるんだよね…。」


主人公「へー、そうなんですか…。」


そう言った時にはもう体が落ちていた…。


主人公「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」


鈴「うわぁぁぁ!」


主人公「ちょ、まっ、うわぁぁぁ!?」


主人公「あぁ…死ぬかと思った。」


鈴「でも、本番はここからだよ?」


主人公「…え?」


鈴「ほら、ジェットコースターって基本的に

一番大きいのは最後に来るでしょ?

そう言うことだよ。」


主人公「…あの、今からでも

降りられませんか…?」


鈴「無理!!」


主人公「そっかぁ…無理かぁ…。」


そして、また体が落ちていった…。


主人公「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」


鈴「わぁぁぁぁ!!」


主人公「死ぬぅぅぅぅ!?」


鈴「いゃっほぉぉぉぉ!」


こんな落ちてるのになんで鈴さんは

こんなにも楽しそうなんだ…。


主人公「はぁ…やべぇこれ…。」


鈴「あー、楽し…。」


鈴「あぁそう、あと次が最後だよ。」


主人公「あぁ、やっと終わるのか…。」


鈴「あぁ、勿論次のが一番落ちるよ。」


主人公「まぁ…そっか…。」


鈴「お、めっちゃ上がるね…。」


主人公「あぁ…もうやだ…。」


そして、また落ちていった…。


主人公「うわぁぁぁぁ!?」


これまでに感じたこともない感覚を感じた。

…これ本当に死ぬんじゃないのか…?


鈴「きゃぁぁぁぁ!!」


主人公「うぎゃぁぁぁぁ!?」


鈴「あぁ、これやばいよぉぉぉ!?」


主人公「はぁ…終わった…?」


鈴「え、もう終わったんだ…。」


主人公「あぁ…本当に死ぬかと思った。」


鈴「終わるの案外早いね、これ…。」


主人公「もっと長かったら気絶してたと

思います…。」


鈴「確かに、これはやばかったね…。」


鈴「でも、楽しかったな…。」


主人公「俺の場合は楽しんでる場合じゃ

なかったです…。」


鈴「そっか…」


鈴「じゃあ、また来ようか!」


主人公「そっ、それだけは勘弁してください!」


鈴「えー…。」


主人公「そんな顔しても駄目です!」


鈴「ダメ…?」


主人公「駄目な物は駄目です!」


鈴「そっか…」


鈴「まぁ、 君の意志とは関係なく

行ってもらうけどね!!」


主人公「じ、慈悲はないんですか…?」


鈴「無いよ。」


主人公「ま、マジですか…。」


鈴「うん、マジ。」


主人公「そんな…。」


鈴「そう言えば、ここって観覧車も

あるんだよ。」


主人公「え、そうなんですか…?」


鈴「うん、じゃあ行こうか…。」


主人公「はい。」


ーー


鈴「ここから乗れるみたいだね…。」


主人公「じゃあ、乗りますか…。」


鈴「うん、そうしよう…」


ガチャ


主人公「そろそろ発進するみたいですね…」


鈴「お、もう出発したかな…?」


主人公「お、したみたみたいですね…。」


鈴「わぁ、ここから見える景色綺麗だねー!」


主人公「本当ですね、この島が

一望できます…。」


鈴「て言うか、島に観覧車があるなんて、

すごいよね…。」


主人公「そうですね、こんなの

普通はあり得ませんよね。」


鈴「ここからだと海も見えるし、

この島全体も見れるかな…?」


主人公「見れそうですよね…。」


鈴「フフフ… 君が元気になった

みたいで良かったよ…。」


主人公「…え?」


鈴「やっぱり 君は笑ってる顔の方がいいよ。」


主人公「…鈴さん、今日は何かいつもと

雰囲気違いますよね…。」


鈴「…やっぱりそう感じるかな…?」


鈴「今日は楽しもうと思ってさ。」


鈴「 君に楽しんでもらうためにはやっぱり

自分も楽しまなきゃな…って思って。」


主人公「…そうなんですか…。」


主人公「そこまで考えてたなんて…」


鈴「 君に辛い思いはしてほしくないから、

私も頑張ろうと思ったんだよね…。」


主人公「…鈴さん、つかぬことを

お聞きしますが…。」


鈴「…何?」


主人公「何で、出会って間もない俺のために

そこまでしてくれるんですか…?」


鈴「…それは…」


鈴「…実は、 君のことは楓花さんや

結衣ちゃんから聞いてたんだよね…。」


主人公「え、結衣から…?」


鈴「だから、 君のことは知ってたんだけど…」


鈴「… 君は覚えてないかもしれないけど、

実は 君と私は前に1度会ってるんだよね…。」


主人公「…え?」


鈴「 君が島を出る少し前くらいかな、

祭の準備をしてる時に話してるんだよね…。」


主人公「…え?」


鈴「覚えてるかな?紫央ちゃんと結衣ちゃんも

その時居たんだよね…。」


主人公「…覚えて、ないです…。」


鈴「そっか…」


主人公「すいません、実は俺記憶障害が

あるらしくて…。」


鈴「…確か、雪乃財閥に細菌兵器の

実験台にされたんだっけ…。」


主人公「はい、そうです…。」


鈴「 君も大変だね…。」


主人公「…鈴さんほどではないですよ。」


鈴「…そうかな…?」


鈴「…。」


鈴「…あれ?もう終わりかな…?」


主人公「…早いですね。」


鈴「…綺麗だったね…。」


主人公「…ですね。」


プルルルル


主人公「あれ、電話…俺か。」


主人公「…ん?結衣から?」


主人公「もしもし?」


結衣「おい! 、今どこに居る…!」


主人公「え、どうした…?」


結衣「いや、面倒なことになった…!」


結衣「どうやら雪乃財閥がこの島の

警察を利用しようとしてるらしい…!」


主人公「…え?」


結衣「すぐに戻ってこい、拠点を

警察の目につかない所に移す…。」


主人公「…あぁ、分かった。」


結衣「くれぐれもすぐに戻ってこい。」


主人公「あぁ…。」


ピッ


主人公「鈴さん、帰りますよ…。」


鈴「え、もう!?」


主人公「いや、どうやら雪乃財閥が

警察を使ってくるらしくて…」


主人公「拠点を別な所に移さなきゃ

いけないらしくて…。」


鈴「…なら、仕方ないね、

ここにはまた来よう。」


主人公「じゃあ、行きましょう、

警察に目をつけられない内に…。」


鈴「うん…!」


Next...

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る