第21話 パンダム

機動戦士パンダム。

ダウンロードチャンネルに彗星のごとく現れた、

人気ロボットアニメーションだ。


何百年も前に作られていたというロボットアニメを踏襲して、

古い言葉で言うところの視聴者も参加できる、

(この時代においては、ユーザーという言い回しもある)

体験型チャンネルだ。

パンダムはいわゆるロボットアーマーというものに近く、

巨大なアーマー(スーツというのもある)を、

ユーザーは操縦する。

そして、戦争をするのだ。


一応、勢力は二つ。

連合と帝国。

このあたりも昔のものを使っている。

ユーザーは好きな国からはじめて、

階級を上げていき、

好きなロボットに乗り換えていく。

カスタマイズだってできるし、

同じ陣営のもの同士なら、作戦を立てる会話もできる。


パンダムは連合のアーマーで、

一番人気だ。

白と黒、モノクロにかっこいいパンダの頭。

とにかく強い。

半端じゃないほど。

とにかくパンダムを使いたいというのが、

大体のユーザーの一致するところだ。

帝国側だって、

パンダムを手に入れて、

帝国パンダムを作りたいというのが本音だ。


アニメーションは、

それぞれのユーザーが、

それぞれ体験したことが配信される

みんなが主人公、みんながヒーローになれる。

英雄らしい英雄のない時代。

ダウンロードチャンネルにおいて英雄になれることは、

古いユーザー、新しいユーザーの心をくすぐる。

どこかに、みんな英雄が眠っている。

パンダムはたくみにその心理をつく。


パンダムを操るユーザーは一人だけ。

今のところ一人だけ。

設定上量産が難しいらしいが、

そのパンダムは鬼のように強い。

めったにダウンロードチャンネルの戦場には出てこないが、

劣勢のときに現れては、

帝国を蹴散らしていく。

帝国にもクマチャンという人気アーマーがいて、

それも一体しかないらしい。

いつかパンダムとクマチャンが戦うんだろうか。

ユーザーはあこがれる。

いつか英雄達のぶつかり合いを見たいというのと、

いつか、自分もあんなふうになりたいと。


政府、反政府。

ラブパンダ、白黒の敵。

それが当たり前になった時代。

ダウンロードチャンネルで終わらない戦争ゲームをしている。

パンダが人を殺すこともありうる世界で、

誰も死なない戦争をしている。

何かが欠落した戦争。

パンダムはそんな時代の象徴だ。


英雄らしい英雄が、

現実にいない世界。

チャンネルを合わせれば、

戦争が始まっている。

英雄はチャンネルの中にいて、

いつもパンダムで敵を蹴散らしていく。


無口なパンダムの操縦者のことは、

誰も知らない。

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