第15話 混血
廃棄された命だった。
パンダの破壊力と人間の頭脳。
野生と理性。
両方を兼ね備えた命を作り出そうとして、
その研究所は動いていた。
いくつもの実験的な命が作られ、
そして、処分されていった。
研究所の主義が、
ラブパンダのほうだったのか、
白黒の敵のほうだったのか、
あるいは中立だったのか。
今となってはわからない。
攻撃的スクリプトで、
研究所のデータは書き換えられた。
無になった。
研究所は、もう、動いていない。
こつ、こつ。
足音が響く。
もう、廃墟となったその研究所に。
足音の主以外、誰もいない。
電気もきていないようだ。
足音は。一つ一つ研究所の部屋を回る。
命を命とも思わなかった研究。
何のためにパンダと人間を融合させようと思ったのか。
もう、答えるものはいない。
思い出される記憶。
足音の主は、ここで生まれた。
そして、廃棄された。
どうして生きているんだろう。
復讐のために研究所を無にしたわけじゃない。
ただ、異形のものをこれ以上見たくなかった。
あれは、地獄だった。
幼い子どもが、いたなと思い出す。
何百年も前のクラシック歌謡曲を好んで歌っていた。
間違っていたけれど、その間違ったほうを覚えている。
その子どもも、パンダと融合実験をされ、
もがいた挙句に拒絶反応で死んだ。
その地獄を覚えている。
醜い人パンダに成り果てたのを覚えている。
目が、美しかったのを覚えている。
記憶の中で、
実験に使われた、
パンダと人が見つめている。
失っていい命なんてひとつもなかった。
パンダを滅ぼさないようにするというなら、
人を生かしたいと思うなら、
どうしてこんな実験をするんだと。
湧き上がる怒りよりも純粋なもの。
足音の主は、最後の部屋にやってくる。
そこでは、地獄の残骸が醜いむくろをさらしていた。
人の手を残しているものもいる。
パンダの毛を残しているものもいる。
それが中途半端に処分されていた。
沈黙。
そして、足音の主に通信が入る。
コードをつなぐ。
「どこにいるの?店長」
足音の主、パンダ頭の店長は、言葉を選ぶ。
「ちょっとね」
高いとも低いともつかない声、
人間の身体、黒いスーツ。
ポーカーフェイスのパンダ頭。
「用事済んだら帰ってきて」
「うん。すぐ済む」
店長は仕掛けの準備をする。
そして、研究所を後にする。
店長が研究所を出ると、
その後ろで大爆発。
赤い炎がすべてを飲み込む。
爆風にも店長は動じることもなく、
飄々と歩く。
「ぽにょぽにょぽにょ、さかなねこ。えりんぎまいたけぶなしめじ」
店長は歌う。
店長の記憶はいつだって間違えたままだ。
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