第11話 文字列の謎
建前は研究所。
とある施設だ。
そこでは日夜とある研究がされている。
「こいつもだめか」
生まれたばかりのパンダがいる。
生後まもなくではあるが、
はっきりと、パンダ特有の黒いぶちが出ている。
泣き声を上げているパンダを、
研究者は処分しない。
殺すのが目的ではないし、
あの謎を解き明かす、手がかりになるかもしれない。
「解き明かせないのか、あの謎は」
研究者はため息をつく。
あの謎。
最初は意味不明の文字列かと思われた。
しかし、この研究者は、そこに意味があるはずと。
研究に研究を重ねた。
そして思い至る。
この文字列のできた、五百年前では考えられなかった、
奇跡を起こせばいいのかもしれないと。
奇跡を起こせばさらに奇跡が待っているのではないかと。
研究者は人生をかけた。
その文字列が意味するところを、
解き明かすために。
最初は、政府が発掘に成功した徳川埋蔵金みたいなものを、
そんなものを狙っていた。
意味不明の文字列は、
何かの宝のありかを示しているのではないかと。
けれど今、研究者は、
ただ純粋に、この謎を解いてみたいと思っていた。
勝負だ、名前も伝わっていない文字列の作者と。
私が命尽きるのが先か、
この文字列を解くのが先か。
研究者は、昔の誰かに勝負を挑む。
情熱が静かに身体を駆け巡る。
「所長!」
若い研究員の声がかかる。
「なんだ」
「来てください!もしかしたら、もしかするかもしれません!」
研究者の目に、ぱっと光がともる。
もしかしたら、解き明かせるのか。
自然と、足早に、そして、走り出す。
奇跡が、奇跡が。
走ってやってきた先に、
生まれたばかりのパンダの子どもがいた。
黒いぶちは、極端に小さい、
むしろ、ない。
「これは…」
研究者は高速で考えをまとめる。
これは、これは、
「所長の言うとおりでした。遺伝子レベルでの書き換えを必要としました」
「間違いない」
「そうです、われわれはやったのです」
研究者は感無量だ。
ひとつ謎が解き明かされる瞬間だ。
「これが、白のパンダだ」
「これは、白熊でもない、パンダでもない、白のパンダなのだ」
研究員もうなずく。
「間違いありません」
「五百年前の歌にある、白のパンダとは、この奇跡のことだったのだ」
「では、それに続く、どれでも全部並べて、とは?」
「このパンダを量産して並べることに他ならない」
研究員がうなずく。
「私はこの謎を解くために人生をかける。ついてきてくれるか、諸君」
「もちろんですとも」
研究者は白のパンダを見る。
生まれたばかりのパンダは、
か細い声で歌うように鳴いていた。
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