第12話 森の少女
パンダは森に隠れている。
この時代において、
植物のあるところないところは、
かなりはっきりした。
あるところでは荒野が広がったし、
過剰に緑地とされたところもあった。
緑豊かに、地球に優しく。
数百年間使い古されたフレーズは、
今も呪いとなってこの世界を覆っている。
森は緑を増やすだけ増やして、
混沌としている。
いくつもの命がそこで生まれ、育ち、森にかえる。
ここに、手負いの三毛パンダが逃げ込んできた。
大きな傷がある。
白黒の敵にやられたものかもしれない。
パンダは倒れる。
意識は森と同化して、混沌となる。
「ひどい傷」
不意に、少女の声。
パンダは目を開ける。
そこには、白い服の少女。
少女は恐れずに、パンダのもとへとやってくる。
そして、パンダの頭をそっとなでる。
「このくらいなら治せるから」
パンダの意識は森に帰っていこうとする。
その意識に、少女はアクセスする。
コードもつながない、
意識のアクセス。
命も心も、霊体さえも、
ゆるゆるととけていく。
パンダの肉体が癒えていく。
大きな傷はふさがっていく。
パンダの意識と、少女の意識が混ざっている。
意識がダンスしている。
パンダはやがて眠りにつく。
少女はそのまま、パンダによりそっている。
いくつ命を助けられるだろうか。
少女は思う。
気がついたら森にいて、
ずっと森で育った少女は、
外のことをあまり知らない。
少女は森であり、
森は少女だ。
どんな命も受け入れたいし、
助けたいと思う。
少女は雨を待っている。
雨が降れば、このパンダの赤い模様も落ちるのではないかと。
すべて洗い流してくれるのではないかと。
じじっと、少女の鋭敏な耳が聞きつける。
この音は、光学迷彩の音。
森が聞きつけている。
誰かが潜んでいる。
少女は立ち上がる。
気配を森から感知する。
右!
少女はステップして、飛ぶ。
ひらりと舞い、感じた場所に蹴りを食らわす。
命中。
と、同時に、
相手は発砲した。
少女の左腕が飛ぶ。
それは、機械の腕。
少女はバランスを崩して落ちる。
「萌えメイドロボットの型落ちかよ」
迷彩の主が言う。
少女のわからないことを。
じじ…
機械の腕が外れた場所から、
ぽたぽたと落ちていくオイル。
(私は森)
(森を守らなくちゃ)
少女は一瞬だけ、パンダのほうを見る。
(私のところに来たんだもの)
雨が降り出し、光学迷彩がはがれる。
そして、パンダの赤い模様も落ちていく。
少女は目に力を宿し、
迷彩に向かって飛ぶ。
神様。
命とは、心とは、なんですか?
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