第9話 芸術

パンダはこの時代において、

破壊と殺戮を繰り返している。

パンダの増殖で滅びた動物も少なくない。

それでもパンダは増える。

数百年、人がパンダに組み込んだ繁殖の遺伝子にのっとって。


パンダは邪魔なものは容赦なく破壊する。

ただ、パンダが破壊しないものもある。

人はまだ知らないが、

それは芸術というものだ。

パンダは芸術を理解することができる。

言葉ではなく、直感で。

パンダはそれだけは壊さない。


それは、人のいじった遺伝子による作用なのか、

パンダが根本から持っているものか。

わからないが、

パンダは芸術と呼ばれるものを壊さない。

美しいというものを知っているのかもしれない。


パンダを守るラブパンダと、

パンダを殺す白黒の敵とで、

小競り合いがたまにある。

そういったときに芸術や歴史が失われる。

その責任を人はとらない。

パンダが壊したことにされてしまう。

パンダの本能に悲しみというものはないが、

失われていく重みを、

パンダだけは知っているのかもしれない。


パンダは本能で生きている。

その本能に語りかけるすべを、

人は持っているのに、知らない。

白黒の敵も、ラブパンダも、

パンダとわかりあえるとは思っていない。

パンダと人間は全然別の生き物だと。

別の生き物で、何もかもわからないと。

そんな風に思われている。


ここで、とある少女がパンダに襲われたときの話をする。

少女は町から家に帰る帰り道で、

野良三毛パンダに遭遇した。

言うまでもなく、三毛になったパンダは、動くものほとんどを殺す。

動物ではない、獣か魔物かもしれない。

当然、少女は逃げようとした。

野良三毛パンダは俊敏に追ってくる。

逃げるものを追う本能なのか、

いたぶるのかはわからなかったが、

少女は刷り込まれた教育のままに逃げた。

パンダに殺されると、少女は本気で思った。

(死にたくない!)

少女は強く願った。

(この本を読み終えるまでは!)

少女は、本を抱きしめ、走る。


少女はつまづき、転んでしまう。

パンダはそこにやってくる。

パンダが腕を振り上げる。その一撃で死ぬに違いないと少女は目をつぶった。

だが、いつまでたっても一撃は来ない。


少女は恐る恐る目を開ける。

目の前にパンダがいる。

パンダは少女の抱きかかえている本をしげしげと見て、

こくりとうなずいた。

少女も、反射的にうなずき返した。

野良三毛パンダは、何か満足したように、少女のもとを去っていった。


「ご先祖様が守ってくれたのかな」


少女は抱えていた本を見る。

五百年前の同人誌と呼ばれるものが、奇跡的にそこにあった。

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