第8話 薬の使い道

熊猫力Z。

最近開発された、パンダ向けの薬だ。

元はラブパンダが開発していた、

パンダを幸福にするといわれる、

笹エキスの入った薬だった。

それが、どこをどう間違ったのか、

パンダを麻薬中毒に近い状態にさせるとして、

白黒の敵に広まった。


パンダのえさは笹。

そんな時代があったことを、たいていの人は知らない。

笹はパンダの遺伝子に何か働きかけるのか、

パンダをトリップさせるという。

原始のパンダ。先祖がえりをするのか、

動物園というものにいた、眠るパンダそのものになるという。


熊猫力Zは、いわゆるスプレーだ。

緑の液体をパンダに吹き付ける。

笹の葉エキス以外にも、いろいろ入っているらしいが、

どうにも企業秘密なのか、明らかにされていない。

万が一、人が浴びてしまったら。

その点については、トリップしたという報告はない。

ただ、すがすがしい気分になったと、

緑まみれの報告があったらしい。


パンダをトリップさせて、その間に攻撃を。

それができればぜんぜん問題のない代物だ。

問題はむしろ、幸福なパンダにあった。

見よ、愛くるしく眠りに落ちようとするパンダを。

パンダが先祖がえりをすると、

人は保護欲をかきたてられてしまう。

ああ、パンダがかわいらしい。

そう思えてきてしまう。


むにゅむにゅ、ころーん。

至近距離で噴霧された熊猫力Zは、

至近距離でかわいいパンダを作り出す。

もこもこした、無防備なパンダを。


誰がそれに逆らえるだろうか。


ラブパンダは、パンダが無防備になるとして、

熊猫力Zを使わなくなった。

白黒の敵は、むしろいろいろやばいと、

熊猫力Zを使わなくなった。


そんな熊猫力Zは、

とある町で普通においてある。

なんでも、悪い方向に凝り固まったものを、

解毒する作用があると噂されているらしい。

昔ながらの言葉で言えば、

邪気という。

よこしまな気を払うとして、

消臭剤に近い感覚で、

町で使われているという話だ。


「くらえ!」

町で物の怪払いがおこなわれる際、

熊猫力Zを使うものもいる。

しゅーっと吹き付けると、

物の怪が消滅する。

「やれやれ、何体やればいいんだよ」

愚痴りながらも、彼らは物の怪を退治する。

レーダーに反応あり。

走っていけば、物の怪を退治できるかもしれない。

「よっしゃ、いくか」

同業者と、競争になるかもしれない。

報酬欲しさにやっているわけではないけれど、

職業柄、物の怪は退治したい。


パンダの脅威がないこの町で、

熊猫力Zは、ひそかに愛用者がいる。

物の怪がいるけれど、平和な町も確かにあるのだ。

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