第7話 狙撃手

「なぁ、もう少し高値で引き取ってもらえないか?」

男の声がする。

ここは食肉買取の問屋みたいなもの。

パンダを狩っては、

売りに来るものが後を絶たない。

ただし、パンダに逆襲されるものも後を絶たない。

「だめだな、確かにパンダは増えたが、味はいまいちなんだ」

問屋はそういうと、値段をはじき出した。

男は提示された値段にうなずいた。

「しょうがないか」

男はつぶやく。

男は大きなぼろ布を頭からかぶっていて、

問屋にしか顔が見えない。

問屋も大して顔を見ているわけではない。

「まぁ、あんたもちょくちょく来るよな」

「ああ、まぁな」

「その腕なら白黒の敵にもいていいだろうに」

「まぁ…それはいいんだ」

問屋は金を渡す。

ぼろ布の男は、金をしまうと、雑踏に消えていった。


ぼろ布の男は、

その町の端っこまでやってくる。

旧時代に作られた、見張りのための塔がある。

ぼろ布の男は、そこに上っていく。

台風も大地震にも揺らがない塔。

そこがぼろ布の男の今の居場所だ。


茜色の夕日に照らされた、塔の一番上。

買い込んである食料、

旧世代の銃弾。

そして、ひどく長いライフルらしい銃。

狙撃をするための、銃。

それと、すっかりよれよれになった本が一冊。

表紙は日焼けしていて、何の本かはわからない。

それ以外に、身元を確認するようなものはない。

ぼろ布の男は、ライフルを構える。

手馴れている。


「神よ」


男は祈りをつぶやく。

そして、その目の先にパンダ影を見つける。

集団でやってくる。

集団三毛パンダだ。

男は、引き金を引く。

ためらいなく、確実に。

パンダの一体が倒れるのが見える。

しとめた。

まだいる。

スコープも使わない、肉眼での狙撃だ。

男は引き金を確実に引き続ける。

何度も。

夕焼けの町にたどり着くパンダは、一体もいない。

すべてしとめられた。


ぼろ布の男はため息をつく。

「アーメン」

あまり伝わっていない言葉。

聖書という昔の本にあったという言葉。

ぼろ布の男はそれを愛した。


荒野に散らばるパンダの死屍累々。

懲りてくれるだろうか。

パンダに懲りるという言葉はない。

しばらくこの町を守ることになるだろうか。


ぼろ布の男から、不意に、メロディー。

旧時代の着信というものらしい。

男は旧時代らしい、端末を取り出す。

「何の用だ?」

「会談のお時間です」

「そんな時間か」

「今回はラブパンダのあり方について…」

男はぼろ布を脱ぐ。気分的なものだ。


そこには、スーツに身を固めた、政府の首相がいた。

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