第6話 仮想現実

電脳の普及に伴い、

仮想空間が新たな意味を持ち始めた。

単なる交流の場でなく、

感覚を共有できる場として、

電脳の仮想空間は機能し始めていた。


少女は仮想空間にいる。

少女は、電脳を通さないと目が見えない。

眼球は電脳を介した義眼で、

一応現実世界でも目が見えることになっている。

少女は、少しだけノイズ交じりの電脳視界を、

ちょっとだけ、疑っている。

みんな本当にこんな姿をしているのかなと。

電脳でみんな、書き換えられてるんじゃないかと。

ああ、本当の目があったら、どんなに素敵だろうかと。

少女は電脳の仮想空間で夢想する。


誰かのログインの合図。

少女のアバターが、

(アバターとは、仮想空間における、自分というもの)

空間をクリックすると、

友人がログインしたようだ。

言語をすべて翻訳になっていることを確認すると、

少女は友人に挨拶する。

「こんにちは」

「こんにちはー」

間延びした挨拶が返ってくる。

この友人はいつもこうだ。

少女のアバターは、少女の感情によって、

微笑み、怒り、泣く。

少女の目は、義眼は、

一応現実世界を見ている。

けれど、電脳は、平行して、

仮想空間の友人と話している。


電脳がすべてじゃない。

この状態でも、現実のパンダに殴られたらおしまいだ。

部屋にセキュリティはある。

家には、パンダよけのギミックもある。

野良パンダがいつ襲ってくるとも限らない。

そんな現実が、「ほんとう」であっては、

少女としては、嫌だなと思う。

アンチパンダというわけではないかもしれない。

ただ、脅威がうろうろしているのが、なんだか嫌だ。

パンダじゃなくて、

昔滅びたライオンとか言うのがうろうろしていたら、

やっぱり少女は嫌だなと思ったことだろう。


しかしこの友人、

よりにもよってそのパンダをアバターに使っている。

この仮想空間においても、

アンチパンダが主流になってきている。

でも、この友人だけは、

むしろみんなから尊敬されている。

さすがに時代が時代だから、

いろいろあったのかもしれない。

けれど少女が知るこの友人は、

パンダアバターで仮想空間を飄々と飛び回り、

みんなの手助けをしてくれている。

「今日は困ったことないかい?」

友人がたずねてくる。

「うーん、義眼の調子がよくないかな。ノイズっぽい」

「ソフトの問題ならある程度解決できるよ、バージョンいくつだっけ?」

友人はその調子で、少女のノイズを取り払ってしまう。


仮想世界の親切なパンダ。

現実世界の凶暴なパンダ。

少女は親切なほうをとりたかった。

現実なんてノイズでかまわない。


「店長、今日は何しようか」

少女は友人に問いかける。

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