第3話 青年の家系

ざりざりという音を立てて、

タイヤが悲鳴を上げながら、車が走っている。

数百年前、

エコカーという概念が流行って、

政府が推し進めたエコというもの。

確かにエンジンは音がしない。

技術力が上がり、

こんな荒野でも走れるようになった。


地球に優しく。

運転する男は、反吐が出そうだと思った。

無論、車に酔ったわけではない。

政府が何百年も言い続けている、

代わり映えのしないその言葉に、反吐が出そうだ。

地球を守るためなら、俺の命はどうだっていいのか。

パンダに殺されてもいいのか。


「行きすぎだ」

助手席から青年の声がかかる。

「このポイントでやつらを待つ。うまくいけばメスもやれるはずだ」

「何でメスが?」

男は尋ねる。

「メスがすごい勢いで子どもを産んで繁殖する」

「そうなのか」

「この数百年のうちに、パンダの繁殖力を上げようとした、技術のおかげさ」

青年は皮肉っぽく言う。

男は理解できないが、

どうもこの青年、パンダのことには詳しいらしい。

「普通、戦いにはオスが出てくる、次に子どもを守るためにメスだ」

「メスをやればいいんだな」

「甘い」

青年は指摘する。

「メスがやってくる方向に、必ず子どもがいる。それも殲滅だ」

「根こそぎ、か」

「やらなければやられる。ここは戦場、狩場だ」

青年はエコカーを降りて、得物を構える。

近距離用武器、それは「白黒の敵」でも使っているものは珍しい。

数メートルに及ぶツヴァイハンダーだ。

エコカーで運べるのは、このサイズまでが限度だと、

男は青年に言ったものだった。

この青年、全身サイボーグか、特殊細胞を入れているかもしれない。

そうでもしないと、パンダを殲滅できないのか。

そうでもしないと、人間は生き残れなくなってしまったのか。

男は唇をかむ。

平和って一体なんだったんだろう。

「来るぞ、戦えないなら隠れていろ」


青年は、ぶんと大剣を振り回す。

血に飢えたパンダが、そこかしこから現れる。

「ご先祖様が今の様子を見たら、なんて思うだろうな」

青年はつぶやく。

「ご先祖様?」

男は尋ねる。

「俺の家系のご先祖様さ」

「戦士かい?」

「いいや」

青年は否定する。

「じゃあなんだ?」


「今はなき動物園、パンダの飼育係の家系だ」


男は絶句した。

パンダは迫ってくる。

男は大剣を構える。

「ご先祖様たちの、つないだ命を絶つのが、俺の役目だ」

無骨な大剣が、嘆くようにうなりをあげる。

命を育てた家系が、命を奪う。

パンダを愛した家系が、

パンダを殺す。


どちらが生き残っても、

それは悲しいことだと、男は思った。

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