Episode 05 『I FEEL COKE』が聴こえてくる

「あれ?何でこの曲が流れてくるんだ?」

 ヒデキは食事を終えて洗い物をしていたのだが、付けていたテレビから懐かしいCMソングが流れてきたのを聴いていた。『I FEEL COKE』。80年代に流れていたコカ・コーラのCMソングだ。青春を感じさせるような生き生きとした若者の表情。とてもいい笑顔をしている。ヒデキは洗い物の手を止めて途中からCMを見ていた。そして驚いたことに、これはマクドナルドのCMだった。これは一本取られたなと思った。有名なCMソングを関係のない企業が使用するっていうのは、幾つか見た事があったけれど、いくらハンバーガーと切っても切れないような関係のコカ・コーラといえ、マクドナルドが使うかなぁとも思った。いや不快感はなかったけれど。


 洗い物を終えたヒデキは、ちょっと興味を持ったのでパソコンで検索してみた。Youtubeには映像もいくつか上がっていた。早速見てみようかと。何種類かあったけれど、マクドナルドの公式チャンネルに、1分45秒のロングバージョンを見つけたので、まずこれからかな。


 https://www.youtube.com/watch?v=aOKvB0jtyVw


 雰囲気は、昔見たコーラのCMを踏襲しているなと。コークと言いながらマックしか出てこない違和感は感じるけど。


 そしてこれが昔見た記憶があるコカ・コーラのCMか。うん、懐かしさを感じる。


 https://www.youtube.com/watch?v=XFiccrmQpH8


 昔から記憶にあったコカ・コーラのCMは、センスのあるものばかりだった気がしている。爽やかさを連想するようなイメージ。炭酸飲料と言えばコカ・コーラ。そうすぐに連想する感じだから、戦略としては成功していたのだろう。

 うん、何だか懐かしい思いと、他にはどういったCMがあったかなっていう好奇心が出てきてしまった。こうなると自分が納得いくまで調べてしまうのがヒデキの性格なのだ。ではもっと色々検索してみようか。


 ヒデキとしては、印象に残っているのはトランザムが演奏していた『COME ON IN .COKE』のCM。矢沢永吉さんの『YES,COKE,YES 』のCM。早見優さんの『夏色のナンシー』のYES,COKE,YESバージョンあたりか。Youtubeを検索してみた。


 https://www.youtube.com/watch?v=EEaE1Q9f5Rs

(トランザム以外のCMもあり)

 https://www.youtube.com/watch?v=ltGw4SH19_U

 https://www.youtube.com/watch?v=XjokZ2GnSqg


 こういったCMあったなぁと懐かしんでいると、まぁそれ以外にもCMが沢山登録されている。ちょっと一度で見れる量じゃないなと嬉しい悲鳴を上げた。

 1960年代初期の頃は、まだ野暮ったい感じのCMだけれど、時代が下るにつれて、色々なアーチストが演奏するようになってくる。グループサウンズからフォークまで、有名なアーチストが目白押しだ。時には海外のアーチストも。まだ白黒時代のCMの中にも、レコーディング風景をCMで見せるワイルドワンズといったセンスの光るものもあったりするので侮れない。


 https://www.youtube.com/watch?v=IwaMd775N2k


 当時人気のあったフォーリーブスなんかは、コンサート会場で撮影し演奏している。まだお洒落な感じにはなっていないけれど、これはこれで面白いと思う。


 https://www.youtube.com/watch?v=6mZMVgdzQ0Q


 サーカスのものは、トランザムと同じ曲なのに、アレンジ違いで随分と雰囲気が変わってくる。そういった感じで飽きないようにしているのだろうか。


 https://www.youtube.com/watch?v=jmMVk77CSKM



 探せば探すほどに色々なCMが見つかってくる。一体、年にどれくらいのCMを作製していたのだろうか?CM1本作るだけでも相当な金額がかかるし、放送するだけでもいくら支払っていたのだろうかと思ってしまう。それでもコカ・コーラにいい印象を持ってもらうには安いのかもしれない。ヒデキはいらない事を考えるのだった。


(商品化されているものってあるのかな?)

 CDとかDVDとか発売されていないかなとヒデキは、いつも利用している密林のサイトを確認してみた。どうやらコカ・コーラのCM音源をまとめてあるCDがあるみたいだった。しかしながら現在廃盤みたいで、馬鹿みたいな値段をつけている所もあったりする。〇ルカリとかも調べてみても、残っているのは高額な値段が付いている物ばかり。たまに出品されても売り切れるのが早いようだ。この昭和の時代のコカ・コーラのCM集、初音源化のものが多数あるし、1曲の時間が短いとはいえ、2枚組で50曲以上収録されているのは魅力的だ。どうにか手に入らないのかな?と思い始めていた。でもやっぱり無理かなぁ?


(ダメ元で探してみるか)

 ヒデキは、行動範囲の中でCDを探してみる事にした。とはいえ、探すところは限られているのだけれど。

 まずは中古レコード屋で探してみようかなと。しかしながら、地元で数件あった中古レコード屋は、コロナ過の影響もあってなのか、ほぼ閉店していた。そういえば昔はよく中古レコード屋に行っていたけれど、YoutubeやSpotify等で簡単に音楽を聴けるようになってからは、殆ど行ってなかったなぁと。その辺りも衰退の要因なのは分かる気がする。

 次にリサイクルショップを回ってみた。数は多くはないけれど、CDやレコードを売っている店はあったりするものだ。しかしながら、置いてあるのはよくあるアイドルや昔のヒット曲、時々クラシックや映画のサントラ盤があったりするくらい。お目当てのものはかすりもしなかった。やっぱりそうだよなぁ。現実っていうのは甘くないものだ。


(後はここぐらいかなぁ)

 最後に訪れたのは、全国的なチェーン店でもある、『〇〇〇オフ』。この店舗は、色々な中古品を扱うタイプの店舗で、CDやレコードも置いてある。ここで無かったら、通販を扱っている中古レコード屋を片っ端から探してみようかなと思っていた。でもこの店には一縷の期待をしていた。以前、たまたまこの店でCDを探していた時、なかなか見かけないCDを見つけた事があったのだ。今回も望みを繋ぐ事にした。

 まずは暫く顔を出していなかったからと、国内アーチストの棚を調べてみる。残念ながら好みのアーチストの掘り出し物は無かった。海外アーチストも同様。掘り出し物はそう簡単に見つからない事はわかっているのだが。

 そしてお目当てのアニメ・サントラ等その他のジャンルの棚へと向かった。昔の特撮のサントラで、ちょっと気になったものがあったけれど、残念ながらプレミア価格だった。うん、残念だ。意外と古いゲームのサントラにプレミア価格が付いているものもあるが、これは欲しいと思う人が多い割に再発される事が少ないからだと思う。


 そしてあるとしたら、このオムニバス盤の棚。ゆっくりと確認する。すると赤い背表紙のCDがあった。これはもしかしなくても……。


『コカ・コーラCMソング集 1962‐89』と書いてあった。まさか本当に見つかるとは思わなかった。当然、ヒデキは速攻で確保して会計を済まし、家へと帰っていった。

(こんな事ってあるんだな。ちょっとびっくりだ)



 ヒデキは早速、CDを聴いてみる事にした。そして解説を読んでみる。60年代初期は商品名を連呼するようなCMが多かったけれど、次第に印象に残る様なイメージソングが作られるようになっていくと。後にはタイアップの曲が主流になっていくけれど、コカ・コーラのCMは、CMの為に書き下ろされたオリジナルソングが多くを占めていたと。しかもその時の時代の先端になる様な曲を、豪華な作家陣が製作していたと。成程、読み物としても面白い。

 正直言ってディスクの1枚目は、自分が生まれる前のCMばかりなので、いまいちピンとこない。大体、60年代の初期は、まだコカ・コーラの様な炭酸飲料は一般的ではなかったものだ。それどころか、缶入りのものさえなかった時代だ。瓶入りのものしかなかったはずだ。1曲目のSEのコークの開栓音は、今の時代の人にはピンと来ないかもしれない。2曲目のフォーコインズの初のオリジナルソングは、懐かしのCMの特集で取り上げられたのを記憶しているが、やっぱり古さを感じるなぁ。

 クレジットを読むと、作詞は山上路夫さん、橋本淳さん、なかにし礼さん、阿久悠さん等、作曲は宮崎尚志さん、筒美京平さん、いずみたくさん、鈴木邦彦さん等、有名どころの名前が出てくるので、早い時期からCMを重視していたんだなぁと感じたわけだ。

 そしてアーチストも本当に多彩だ。60年代末期には加山雄三とランチャーズ、ワイルドワンズ、ヴィレッジシンガーズといったグループサウンズ勢、それ以降は、尾崎紀世彦さん、西郷輝彦さん、布施明さんといった実力派も。女性陣は森山良子さんや朱里エイコさんの名前も。コーラスが印象的なグループだと赤い鳥やトワ・エ・モア、ビリー・バンバンといったグループも。そして驚いたのが、1975年から76年にかけてのCMには、グレン・キャンベルにダイアナ・ロス、スタイリスティックスにB.J.トーマスといった海外のアーチストが担当していたりしていた。バブルでもないのに、どうしたんだと思ってみたり。


 この辺りの時期から、キャッチフレーズを決めて、それが曲の中に入るようにして、色々な人が毎回、オリジナルソングを作っていたようだった。1972年から73年は『うるおいの世界』、76年から80年にかけては『COME ON IN COKE』、82年から84年にかけては『YES COKE YES』といった具合に。作る人や編曲によって色々な形になっていくのが面白い。


 ヒデキにとっても、やはり興味があるのはディスク2の方だった。好きなCMでもあるトランザムの『COME ON IN. COKE』の77年版の『あふれる光の中で』。爽やかな歌声がコークらしさを感じて好感度が高く感じる。改めてCDのいい音質で聴けるのは格別だと思った。それのラジオCM版を歌うのはハイファイセット。こちらも爽やかなコーラスが売りだけれど、編曲が違うと別の曲のようにも感じる。トランザムの評判が良かったのか、3年連続で担当していて、それぞれの曲が魅力だ。そしてサーカスも3年連続で担当している。このグループも美しいコーラスの定評だから、ニーズに合っているのだなと。


 80年代に入ると、『YES COKE YES』のキャッチフレーズ。インパクトがあったのは前述の矢沢永吉さんと早見優さん。このCMはヒデキ自身にとっても一番馴染みのあるCMなので、CMバージョンのものを聴けて嬉しく思ったりもしていた。『YES COKE YES』では他にも原田真二さんも意外な人選だったし、ラジオのみとはいえ、ムーンライダースも担当していたとは思わなかった。ヒデキにとっても意外な発見だった。


『COKE IS IT!』の後は、あの有名な『I FEEL COKE』のCMのシリーズ。マクドナルドのCMとコラボしたのは、1987年の佐藤竹善さんのバージョン。登場する人がイキイキとしていて本当にいいCMだと思う。因みに作曲は井上大輔さんだ。その後には本当に意外な人選の上田正樹さんやJ-WALKが担当もしていたりする。いや、なかなか面白いCDだなとヒデキは満足していた。正にCMに歴史ありだ。


 こうなったらこのCDの続編も出ているので探してみたのだけれど、流石に今度は上手く見つけられていない。でも根気よく探してみようかなと思っている。聴いてみたいと思っていた沢田研二さんの『RED SUMMER』がこのCDのボーナストラックに入っていると知ったからだ。


 https://www.youtube.com/watch?v=t2Owk7ugn1I


 そしてCDには収録されていないアーチストもいて、例えば山下達郎さんや松山千春さん。これらはアップされているのを探して見るしか方法が無いのが現状だ。残念だけど。


 https://www.youtube.com/watch?v=CekI925h2CM


 https://www.youtube.com/watch?v=fu-W4F993jc



 そしてその後のヒデキだけれど、コーラだけでなくCM全般に興味を持ってしまうというオチが付いた。昔のCMも時代を感じて面白いし、タイアップ曲だけでなく、CMオリジナルソングも味があっていい。CMソングばかりを手掛けているアーチストもいるし、有名アーチストがお菓子の宣伝をしているような面白いものもあったりする。


 https://www.youtube.com/watch?v=CHhW1ZZlp6s


 その地方のみしか見れないCMもあったり、物言いがついて変更されたりしたものもあったりする。いや、なかなか奥深いものだなと、今日もヒデキは検索をしている。1本のCMがこれだけの影響を与えてくれる。そんな時もたまにはあるものだ。

 (これだから人生は面白いんだろうな)

とヒデキは思ったりもしていたのだった。




 参考までに 『日本のCMソング コカ・コーラ編』


https://www.youtube.com/watch?v=mSjtKDiZmZE&t=1838s


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