前のエピソード――Episode 03　男の色気を感じさせるアーチストは好きですか？　

（ああ、取り返しのない事をしてしまった）

　カズヒコは、自分の行動してきた事に後悔していた。自分では大丈夫だと思っていたが、先方にとっては、受け入れ難い事だったらしい。結局、先方を怒らせてしまい、契約がキャンセルとなってしまった。

　大部分、いやほぼ全てが自分の責任だっただけに、カズヒコにとって大きなショックだった。多分、暫く立ち直れない程に。

（何か気分転換でもしたいけれど……）

　生憎ながら、カズヒコには夢中になれるような趣味はなかった。

　他の人なら酒を飲みに行ったり、キャバクラのような所で奇麗な女性相手に話をしたりと、まぁ色々な方法があるだろうけれど。カズヒコには、そういう事は苦手に感じていた。気の合う同僚に話してみても、適当な事を言われて終了だったりする。まぁ気にし過ぎないのが一番だろうけれど、そう簡単にリセットなんか出来ないものだ。何も考えずに気楽に生きている人が羨ましいとも思っている。

（とりあえず、ブログ巡りをするか）

　カズヒコには、毎日の日課になっているようなものがある。お気に入りの漫画サイトの巡回、そしてお気に入りのブログの巡回だ。漫画サイトは、大半の漫画は一日経てば無料チケットで一話ずつ閲覧出来たりする。暇つぶしには結構重宝している。

　そしてブログ巡りである。カズヒコは、旧〇イッタ―みたいなものは、リポストだの何なのはよくわからないし、どうしても使うのに馴染めないので、利用はしていない。やはり昔ながらのブログがいいと感じていた。

もっともブログを未だにやっている人は、年齢層が高い人ばかりだと感じている。

　大抵の人は、身の回りでの出来事といった身近な事を題材にしているのだが、カズヒコが好んで読んでいるのは、ちょっと目先が違うものだ。マイナーな映画の感想とか、あまりメジャーじゃない人のライブの感想とか、そういったものに興味があったりする。そして誰も知らないようなアーチストの紹介、昔ヒットした懐かしい曲の紹介、そういったものにも惹かれて、よく閲覧させてもらっている。

　そして一番気に入っているのは、日本のマイナーなアーチストを中心に紹介しているブログだ。正直、知っているアーチストは殆どない。懐かしのフォークソングとかも紹介される事もあるが、アーチストの名前は知っていても隠れた名曲的なものだったりする。しかしながら、ここで紹介されるものは、知名度は低いながらも曲のクオリティが高いものばかりだ。題材が題材だけにフォロワー数も少なく、閲覧数は多くないのだが、自分にとっては気に入っているブログだ。

　このブログは、週2回程度の更新でマイペースにやっている感じだ。ちょうど最新の更新がされていたようだった。

　今回、紹介されたアーチストは、WHITE HEAVENというらしい。当然ながら聞いた事のないバンドだ。何でも通好みのバンドである、ゆらゆら帝国のプロデュースをしている人のバンドだとか。ゆらゆら帝国さえ知らないのだが。

　とりあえず説明を読んでみる。国内ではマニア以外に知名度は無いに等しいが、海外においては、サイケデリックな音楽が好きな人には人気があるのだとか。その為、アルバムも海外で発売されてもいる。成程、隠れた実力派という感じか。

　という事で、ブログで紹介されているYoutubeのリンクをクリックしてみる。

　まずは『My Cold Dimension』という曲。

https://www.youtube.com/watch?v=ZyizSFtQ0N0

　そして『Fallin' Stars End』という曲だ。

https://www.youtube.com/watch?v=GMGr7ozoupA

　これは日本のバンドなのかと言うのが、最初に聴いた時の感想だ。落ち着きがありながらも攻撃的な曲、そしてどこまでもメロウで引き込まれるような曲。歌詞も英語で歌われていて、成程、海外でのファンも多い事がわかるようだ。これはファーストアルバムの「OUT」からの曲の様だった。凄く気に入ったので、ブログにお礼のコメントを書いておいた。

　暫くしてから、返事のコメントが書かれていた。このバンドの事を気に入ってくれて嬉しい事、もっと高く評価すべきだという事、そして現在はアルバムは国内では入手困難となっている事を憂いていた。更にレア音源や解散後に結成されたスターズというバンドも教えてくれた。どこでこういった知識を得ているのかと思ってしまう。

「しかし、今回は大当たりだったなぁ。沈んでいた気分が吹き飛んだようだ」

　カズヒコはすっかりこのバンドが気に入ってしまった。世の中には、こういった隠れた実力者がいくらでもいるのだと。だから、こんな世の中でも捨てたものじゃないんだと。それじゃカッコつけ過ぎかな？兎に角、いつまでもくよくよするんじゃないよ、と思う事にした。我ながら単純な人間だと思いつつ。