Episode 03 男の色気を感じさせるアーチストは好きですか? 

「ねぇねぇ、○○君のダンス観た?メチャカッコよくない?」

大学の講義が終わり、休憩時間になった時に、

親友のミチコが声をかけてくる。しかしながらマキには興味の無い事だった。

「ダメよ。マキは売れ専には興味ないみたいだし。色気のある男が好きって、

変わり者だしさ」

「変わり者は酷いでしょ?実際、好きだからイイじゃん」

確かにマキは、今時の人が好きそうな旧〇ャニーズ系の人達には興味を感じない。

それだけでも充分に臍曲がりの部類に入るが、好みのタイプが

『男の色気を感じさせる人』いうのがまた変わっている。


きっかけは些細な事。たまたま見る機会があったドラマの『あぶない刑事』。

それに出演していた主演の柴田恭兵さんと舘ひろしさん。

理由はよくわからないが、何故かそれがカッコよく思えたのだった。

今までオジサン的な人には特に興味など無かったのに、何でだろう?

その後にネットで検索してみて、たまたま見つけた

柴田恭兵さんが歌う『ランニングショット』。

そして舘ひろしさんが歌う『泣かないで』。これが何故かツボにハマった。

上手く言葉に出来ないけれど、セクシーさというか、男の色気というか、

兎に角、カッコよかったのだ。理由なんて要らない。

そういったものは勿論、同世代の男には出せないだろうし、

周りの年上の人を見てもそんなオーラのような魅力を持っている人はいない。

それ以後マキは、そんな身近にはいない、テレビの向こうにしか存在しないような

魅力ある男性たちを探すようになっていったのだった。


「ちょっとでいいからさぁ、〇〇君のダンス、一緒に見よ♡」

あまりにもしつこく言い寄って来るので、マキは仕方なく、

ミチコのスマホで映像を見る事にした。改めてその映像とにらめっこしてみた。

確かに顔立ちは整っているし、素人の自分が見てもキレのいいダンスは

なかなかだと感じた。でも、それだけ。マキの心を動かすまでには至らなかった。

「ゴメン、やっぱり好みとは合わないや」

「う~ん、どうしてわからないかなぁ」

やっぱり自分の好みはおかしいのだろうか?マキは自問自答する。

(いや、自分はおかしくない。多分……)

そう思いながらもマキは、ちょっと自信を失った感じだ。


「やっぱり、自分の好みっておかしいのかなぁ?」

聞こうかどうか迷っていたが、やっぱり気になってしまったので、

マキはミチコに尋ねてみる。

「おかしいとは言わないけど、同世代としては変わっているでしょうね。

大体、色気があるっていうのがよくわからないけど」

「じゃあ、一緒に見て判断してよ」

今度はマキがスマホを取り出してみる。

Youtubeの履歴から、よく見ている動画を一緒に見る事にした。

「じゃあ、これからね」


まず選んだのは、沢田研二さんの『サムライ』

「やっぱ、ジュリーは基本中の基本でしょ」

もうかなり古い曲になるのだが、歌っている時の表情がいいという。

もちろんこの頃は甘い声は健在。歌も上手いし、これぞスターって感じかな。

https://www.youtube.com/watch?v=zX9xMut0ce0


続いてはCHARの『SMORKY』。

一時期、CHARはアイドルのような売り方をされた事があったが、

それに反発してか、ジョニー、ルイス&チャーを結成して

日本ロック最強とも言われるようになった。

年を取るにつれ、頭髪は少々寂しくなって帽子は欠かせなくなったが、

渋さは増したとも思える。やはりギターはピカイチだ。

「やっぱりCHARのギターを弾く姿って素敵よね」

https://www.youtube.com/watch?v=7gECpFLF0R4


そして白竜の『誰の為でもない』。

白竜は自分と同名の役名でのヤクザの演技の印象が強いのだが、

シンガーとしての実力もなかなかのものだ。

サングラスが良く似合い、渋い声に魅了される。

「歌手としての白竜も評価してほしいのになぁ」

https://www.youtube.com/watch?v=_B7qPBG2peM



「………、ゴメン。おっさんには興味湧かないわ」

ミチコの返事はつれないものだった。

まぁそれはしょうがない事でもあったのは確かだ。

カッコいい若者が好きな人に、おじさんの渋さを説いたとしても

そうそう理解してもらえるのではないと、マキはわかっていた。



「う~ん、流石に理解してくれる人はいないよね?」

「もしかしたら、変わり者の後輩君ならわかるかもしれないね?」

「え?そんな人いるの?」

「講義で知り合ったケンイチ君っていうんだけど、なかなか真面目な子でね、

よくノート貸してもらってる。音楽を聴くのが好きだけど、

自分の聴く音楽は誰もわかってもらえないからって言ってたなぁ」

「紹介して」

「アンタ、やっぱり変わり者だね」

やっぱりミチコには呆れられた。これが性分だから仕方ないんだけどね。



「ねぇ、ケンイチ君って音楽に詳しかったよね。実は私の友達のマキって子だけど、

随分変わった趣味でさぁ。何でも色気のある男が好きで、

そんなアーチストを探しているんだってさ。話を聞いてあげないかな?」

「別にいいですけど、その人、変な人じゃないですよね?」


いきなり呼び出されて、いきなり訳の分からない事を言われ

返事に困っている人が約1名。

ケンイチは少々不安げだ。ミチコ先輩は、いつもこうだ。

いきなり連絡が来たと思ったら、無理難題を押し付ける。

そして自分が人付き合いが上手くないものだから、適当に断ることも出来ず、

結局そのまま押し流されてしまう。


「大丈夫……、だと思う。自信はないけど。ちょっと気が強いくらいかな?」


ケンイチは少しどころか、かなり不安になってきた。自分はどちらかというと、

物静かな人間だと思っているし、グイグイ言われてきたら

どうしようもなくなるんじゃないかって思ってる。

もしかしたら、一人でいる時には好きな音楽を聴いている、

そんな生活が終焉を迎えるんじゃないかってさえ思えてきた。


「まぁ、取って食われるような事がないなら、話を聞きますけど……」

「ありがとね。今度の講義が終わってから、時間作ってもらえると助かるかな」

「まぁ、嫌だって言っても押し付けられるんでしょうね。何か報酬をもらわないと」

「百万ドルの私の笑顔スマイルを0円で。どう?」

「期待していた僕が馬鹿でした」

どちらかと言わなくても、冴えなくて暗い自分にも遠慮なく声かけてくる

ミチコ先輩って何なんだろう?不思議な人だ。とりあえずそう思った。



暫くしてから、マキにミチコから連絡があった。

「連絡ついたよ。明日の講義が終わったら時間作ってくれるって。

ちょっと変わった子だけど、ちゃんと相手してやってね」

「勿論。話聞いてくれるだけでも嬉しいし。」

これがマキの本音だったが、心の奥底では、

(あんまり変わり者過ぎて気持ち悪い人だったらどうしよう)

と思っていたりもした。実に失礼である。

そして日が変わり、ケンイチとの対面が待っているのであった。



翌日、講義が終わる頃、マキは食堂で待っていた。

退屈しのぎにスマホを弄っている。早く来て欲しいなと思っていたりもしたが。

「マキ、お待たせ」

ミチコが少々野暮ったい感じの人を連れてきた。この人がケンイチ君かな?

「こちらケンイチ君ね。結構マニアックな人だけど、逃げないでね」

「先輩、こんな事言ってたら、もう講義のノート見せませんよ」

「それは勘弁ね。あ、後は二人で仲良くしてね~。私、ちょっと用あるから帰るね」

哀れ、ケンイチ君は置き去りにされ、ミチコは去っていったのだった。

「あいつは~」

マキは少々呆れていた。もう少し一緒に居てもいいと思うのに。

あ、置いていかれたケンイチ君が固まっている。

ま、話を聞いてもらうとするか。


「はじめまして。ミチコから聞いていると思うけど、よろしくね。

大丈夫、取って食ったりはしないから」


ケンイチは思わずにやけてしまった。自分と同じような事を考えているとは

思わなかったから。もしかして自分と波長が合ったりするのかな?


「ん?どうしたの?にやけたりして」

「すみません、自分も取って食われるんじゃないかって思ってましたから」

マキとケンイチは、お互いに笑った。ちょっと意外な展開だった。

「へぇ、もしかして気が合うのかな?とりあえずよろしくね」

ケンイチは、マキが差し出してきた手を握った。

女の人が手を差し出してくるシチュエーションは、自分には滅多にないが、

それなのに素直に握手に応じる自分が意外に思えた。

普段ならちょっと抵抗するのに、何でだろう?



「ねぇ、この映像見てどう思う?」

マキがスマホでYoutubeの映像を見せてきた。

とりあえず、ケンイチは映像を見せてもらう事にした。

それにしてもマキは気さくな人のようで安心した。

気が難しい人でなくてよかったと、ホッとしているケンイチがいた。

ケンイチは、最初こそおっかなびっくりだったが、嫌がらずに普通に話が出来た。

普段は真面なコミュニケーションが取れない感じのケンイチにとっては、

普通に話を聞いてもらえるだけでもありがたいものなのだ。

よし、これなら何とかなりそうかな。


(色っぽさを感じる男性がいいって言ってたなぁ。うん、センスは悪くないかな)

マキがミユキに見せたという映像をじっくり見てみる。

当然、ケンイチにとっては全て知っているアーチストだ。


「どう?男からみて、こんな感じの人ってカッコよく見える?」

「悪くないと思うよ。沢田研二さんも一番いい時の頃だし、

CHARもギタリストとしては一流だし、白竜はポイント高いかな。

アルバム出していても今じゃなかなか手に入らないからね」


「へぇ、ちゃんとわかってくれる人がいたんだ。何か嬉しい」

マキは、初めて自分の好みを認めてもらえて嬉しさを感じた。

色々な人に話してみたが、ちゃんとした反応をしてくれる人はいなかった。

まさか自分よりも年下の子にわかってもらえるとは。

マキはケンイチに対し、ちょっと興味を持ち始めた。

まぁ失礼ながら、見かけはあまりカッコいいとは言えないけれど。

でも、ちょっとオシャレさせて自信ありそうな感じにすれば……。

決して土台から悪くないからイケるんじゃない、とか勝手に思い込んでいた。


「こんな感じの人達で何かお勧め出来るものとかあるかな?」

マキは、ケンイチがどんな音楽観を持っているか知りたくなった。

変な音楽ばかり聴いているってミチコは言っていたけど、

どれくらい変なのか、ちょっと好奇心が芽生えてきた感じだ。


「う~ん、ちょっと検索してみますね」

ケンイチは、自分のスマホでYoutubeの検索をしてみた。

画面とにらめっこをして、自分が求めているものを吟味する。

「じゃあ、PANTA&HALからで……」

まずケンイチが選んだのは、PANTA&HALの『ルイーズ』

全盛期のライブバージョンだ。

https://www.youtube.com/watch?v=Ts9lx0cCGEE


頭脳警察解散後、ソロ作を2枚出したPANTAというアーチスト。

やはりバンドで活動したいと結成されたのが、PANTA&HAL。

実力派のメンバーを集めて「マラッカ」、「1980X」の

2枚の傑作アルバムとライブアルバムを出すも長続きせず解散。

『ルイーズ』は世界初の試験管ベイビーを題材に歌った

ハードなナンバーだ。 古い映像なので、画面が荒く安定しないが、

演奏の気迫はよく伝わってくる。

(余談だが、このバンドの初期の頃にギターを弾いていた今剛さんは、

古くは寺尾聡さんの「ルビーの指輪」でギターを、近年では、

宇多田ヒカルさんや福山雅治さんのサポートメンバーとして活躍している)


「ヤバい、結構いいかも」

古い時代の映像、ヒットチャートには乗る事がなさそうなロック。

一般の人には縁がないような音楽だろうけど、

マキにとってはストライクだったようだ。


「他にも教えてくれない?」

マキのリクエストにケンイチは手早く検索する。

(次はギタリストかな)

ケンイチが検索したのは、シーナ&ロケッツだった。

https://www.youtube.com/watch?v=CkdLhjF1w0w


ボーカルのシーナは、派手な衣装で踊り歌うが、

ギターの鮎川誠さんは、サングラスに革ジャン、

煙草を咥えながらギターを弾きまくる。

特にギターソロのカッコいい事と言ったら……。

鮎川誠さんは、ロッカーには珍しく家族を大切にしていた人だ。

音楽が中心の生活だったが、妻のシーナも娘たちもよく理解していた。

これぞ理想の音楽一家なのかもしれない。


「こんなギタリストもいるんだね。気に入った」

言葉の裏の意味を考えると、結構際どい歌詞の『レモンティー』なのだが、

その辺りはマキは気にしないらしい。

ちょっとどうかなと、気になっていたケンイチは一安心だった。


「後は、これはどうかな?『おどるポンポコリン』の

作曲者と演奏者のデュエット」

ケンイチが次に検索したのは、織田哲郎さんと近藤房之助さんの

『ボンバーガール』

https://www.youtube.com/watch?v=lyIi5vhlrWY


『おどるポンポコリン』関係の二人というと、コミカルなイメージに

なりそうだが、実際にはイカした演奏をするのだった。

「予想していなかった。織田哲郎さん、カッコいいじゃん。

で、この近藤房之助っていう人、ホントに『ちびまる子ちゃん』のあの曲

歌ってたの?」

「想像出来ないかもしれないけど、本当だ。最初、自分も信じられなかったし」

因みに近藤房之助さんはブルースシンガーだ。参加したB・Bクィーンズも、

B・Bキングというブルースシンガーから付けられたものである。


「あ、こんなのも出てきた」

更にもう一つ映像を見つけたらしい。マキはケンイチと一緒に見てみる。

「これは……」

映像の画質は悪いが、これはなかなか貴重な映像かもしれない。

内田裕也さん、沢田研二さんに加え、松田優作さんも参加した

『きめてやる今夜』

https://www.youtube.com/watch?v=5HMmFWtCecg


俳優として有名な松田優作さんも意外な程にいい声をしている。

もう二度と見られない共演だ。

マキはすっかり見入っている。ダメだ、素晴らしすぎて何も言えない。


「後は……」

ケンイチが検索しようとしていたら、マキがそれを遮った。


「自分が好みのばかりだった。ありがとう。凄く気に入ったわ。

ねぇ、連絡先を教えて!〇インくらいやってるでしょ!」


未だかつて、女性に〇インを強制される事はなかった。いや、今後もないだろう。


「〇インなんて殆ど使わないですよ。友達なんていないし。だからお断りします」

「なら、私がお友達になってあげる。〇インなんて、私がバンバン送るから、

すぐに慣れて使えるようになるはず。だから早く教えなさい!」

ミチコ先輩も大概だったが、マキ先輩はそれ以上だ。

さっきまでの気さくさはどこいった?

いや頑固に断ったら何をされるのやら。う~ん、怖い怖い。

仕方なくケンイチは、マキと〇インで繋がった。

まさか女性と〇インで繋がる事になるとは。ちょっと予想していなかった。


「これで連絡先ゲットね。私が送ったらちゃんと返信する事。いいわね?」

「はい……」


ケンイチには、そう返事するのが精一杯だった。

それにしてもマキさんのメンタル、どうなっているんだろ?

強すぎない?


「今日はありがと。また色々教えてね♡」


音楽が繋いだ奇妙な関係。また一波乱ありそうな気がしてきた。



○○○○


今回は少々趣向を変えてみました。

KAC用に分解魔改造して先行公開はしましたが、更に手を加えてみました。

自分の趣味に走ったので、マイナーな歌もあるのはご容赦を。

マキとケンイチのキャラ、結構気に入ったので、

また登場すると思います。


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