Episode 02 音楽でありがとうを伝える切手

(はぁ、今日も疲れたなぁ……)

 仕事を終え、電車に揺られ、ユキはアパートに帰って来た。

ユキは伸びをしながら首をポキポキと鳴らす。体が強張っているなと感じる。

 そしてポストを開ける。どうせDMぐらいしか来ないのは解っているが。


(ん?何だこれ?サオリからの手紙?何でまた急に?)

 サプリメントの案内のDMのはがきと一緒に入っていたのは、

退職して田舎に帰っていったサオリからの手紙だった。

同期で入社して同じ課の所属となり、一緒に仕事をしてきたのだが、

一昨年、結婚することになったといって地元へと戻ったのだった。

一番仲の良かった同期だけに、ユキは寂しさを感じていた。

 いや自分は男の影すらないのに、結婚かよという僻みがあったかもしれない。

それとも結婚出来ていいなという羨ましさ、若しくは嫉妬もあったのかもしれない。

とはいえ、別に恨んでいるわけでもないので、

時々は〇インとかでのやり取りはしている。ここ暫くはご無沙汰だったが。


 お洒落な封筒に貼られているのは、何か書いてある見慣れない細長い切手。

そして下に押されているのは、赤い大きな絵の描いてある消印。

俗にいう風景印というものだ。郵便局ごとに違う絵柄が用意してある。

 大抵はその地域の名物とか名所が描かれている。そして局によっては、

丸ではなく変形の形をした印もあったりする。

風景印は旅行先での記念押印に利用される事が多いのだが、

希望すれば、手紙に押してもらって差し出す事も可能だ。

 味気ない機械印や、切手の代わりに貼られる証紙と比べたら、

よっぽど華やかである。サオリはやっぱりセンスがいいなぁ。


 そして見慣れない縦長の切手の説明を読んでみる。

『こちらをめくると「ありがとう」がテーマの音楽をお聴きいただけます』

と書いてある。何だこれ?QRコード?

 スマホを持ってきてQRコードを読み取ってみる。

たまに使っているSpotifyのプレイリストかな?


『ありがとうの気持ちを伝えるプレイリスト』らしい。

 誰もが知っているような名曲から、比較的最近の曲まで

バラエティに富んだ選曲になっている。それが39曲。

成程、サンキューってわけね。

うん、後でゆっくりと聴いてみよう。


 そしてハサミで丁寧に封筒を切って中身を取り出す。

中には可愛らしい便箋と写真が入っていた。

スマホで撮影してプリントしたようなものではない、

何だかあまり見た事がない、古い感じに見える写真だ。

プリントされている用紙も、普段見るものとは違うものだ。

 そして便箋を開いてサオリからの手紙を読んでみる。



『お久しぶり。元気してたかな?私は何とか主婦やってます。

家事や料理とか覚える事は多いけど、二人仲良く生活しています。

実は最近、主人のお父さんが愛用していた昔の一眼レフのカメラを譲ってもらって

写真を撮っています。デジタルのカメラと比べて扱いが難しいし、

フィルムも買わないといけないし、最初は面倒だと思っていたけど、

現像した写真を見ると何だか温かみを感じるみたいで気に入っちゃった。

これって『エモい』っていうのかな?

結構いいなって写真撮れたから同封するね。

それと郵便局に行った時に教えてもらった切手、

面白いと思ったから、ちょっと高いけど買っちゃった。

それと奇麗な消印も教えてもらっちゃった。貰う方も綺麗な方がいいよね。

便箋や封筒も良さそうなのを選んだり、こういうのって、

メール送るだけじゃ味わえないよね。凄く楽しい。

ユキの方では『ありがとう』の曲を聴けると思うけど、

買った人には特典で『手紙』に関するプレイリストが見れるんだ。

何か面白いよね。

今日は写真を送るのが目的だったけど、退職する時にバタバタしていて、

ユキにお礼も言えなかったと思うから、今更ながら音楽で伝えるね。

たまには会いたいな。いつまでも友達でいようね。』


                            サオリ


 実は、確かにサオリとは仲がよかったけど、ユキにとってサオリは

優等生過ぎるところがあって、そこがちょっとだけ嫌だと感じてた。

でも手紙を読んだら、何だかほっこりとした気分になった。


(相変わらず優等生っぽい感じだけど、こういうの悪くないね)

 一緒に同封されていた写真は地元の風景が数枚、

アナログ的で柔らかさを感じられた。

そしてサオリが写っている写真が1枚。凄くいい笑顔していた。


 デジタル化が進んでいる現在、近所付き合いさえもなくなってきた。

下手をすると会話をするのがAIばかりになりかねない。

 でも携帯もメールもなかった昔は、こうやってコミュニケーションを

とっていたんだ。手紙を出して返事が来るのがどれくらい先になるだろう?

 〇インとかで呟いたらすぐ返事が来る今の時代と比べると、

何とものんびりした話だ。

でもそんな時代だったからこそ、人は大らかでいられたのかもしれない。


(今度、仲間うちで旅行に行くから、そこから手紙出してみようかな?)


 慌ただしく生活をしている中でのゆったりとした時間。

今の自分には必要なのかもしれないなと思うのだった。

 Spotifyから流れている『ありがとう』に関する曲を聴きながら、

ユキは心の中でサオリに向かって『ありがとう』と念じていた。

(今度会えるなら、素直な気持ちでいたいね)







※ 『音楽でありがとうを伝える切手』は、全国の郵便局で購入可能です。

但し、発売は2023年2月15日ですので、局によっては在庫のない所も

あるかもしれません。(84円切手3枚 売価500円)

場合によっては取り寄せも可能とは思いますので、

詳細は郵便局の郵便窓口に問い合わせていただければと。


https://www.post.japanpost.jp/kitte/collection/archive/2022/0215_01/



 ただ、2024年度中に郵便料金改定の話も出ていますので、

郵便料金が変更になりましたら販売も終了すると思われます。

 面白い試みなので、続編にあたるものが出ればいいなとは思いますね。









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