第4話 放課後カウンセリング教室1

昼休み.

『先輩,部活動に入ったりしてますか?』


『してないですけど.』


『それなら,放課後,天文部に体験入部しませんか?』


『えっ』


『私に恩ありますよね.』


『いや,だから.』


『それに,一人で家に居るよりは気が紛れますよ.ねっ,恩返しだと思って.』


『……いや,まあ,」


『それなら放課後に屋上に来てください.』


そんな会話を昼休みの最後にしたので,とりあえず放課後屋上に向かった.まあ,恩返しをしろって言われてするほどの恩があるかは分からないが.自殺を止めたと思っている件の恩はないけど.まあ,昼休みの恩ぐらいは返すのが筋ってものだろう.それに,すぐに帰ると下校中に幼馴染と遭遇する可能性が高いので,それは,無理だった.


「あっ,先輩来たんですね.」

後輩は,僕よりも先に屋上の部室にいた.昼休みにも来たが,広い部室の中には,天体望遠鏡のようなものがいくつか並んでいた.実際,それが何かまでは分からないが,高そうということは分かるので壊さないようにしなければならない.他には,部室はかなり広くて,明らかに学校に持ち込めないポットや電子レンジなどがあった.


「いや,まあ.」


「来ると思ってましたよ.……あっ,律儀そうですもんね.勧誘チャンスなんでね.私,頑張りますよ.」


後輩は準備が良いのか,紙コップにハーブティーを用意していた.そこまで,ずっとハーブティーを飲まなければいけないほど,精神不安定じゃないよ.なんて言おうかと思ったが,まあ,もてなしを受けてる側の言う事ではないと思いとりあえず受け取った.しかし,部活の勧誘か……

「そうですか.……こんなこと言うのはあれですけど.」


「何ですか?先輩.」


「二つ言いたいことがあるけど良いですかね?」


「良いですよ.ストレスはダメですからね.また歩道橋に行かれたら困りますし.私には,本音でバンバンぶつかってきてください.」

後輩は,そう言ってにこやかに笑っていた.マジで良い人なのだろう.別にストレス貯めたぐらいで,歩道橋に行きはしないが.


「どうも.まず,僕は宇宙のこと知らないですけど大丈夫なんですか?」

天文に興味などない.ギリギリ宇宙世紀とかに興味があるぐらいだが,あれは天文ではない気がする.


「それは,大丈夫です.勉強していけば良いんですよ.それに,まだ先輩入るって決めたわけじゃないんですよね.」

後輩は,そう言って首を傾げて,ハーブティーを一口飲んでいた.その光景は,紙コップなのに凄く優雅に見えた.


「まあ.二つ目は,その事に関して何ですけど.普通,いや,恩返しとか.恩着せがまし事を言ってくるなら.もう,部活動に入れとか言ってくるものかと.」

良く分からないのだ,恩返しを求めるなら,もう,『部活に入ってください.』とかだと思っていた.


「うん?いや,無理やりは違いますし.それに,先輩を説得する自信はありますよ.私.」


優しいからか,後輩の基準は良く分からなかった.まあ,そりゃ,僕と違う人間の価値観なんて分かるわけないか.

「あっ,そうですか.天文部ね.」


「ええ,まずですね.先輩.天文部になるともれなく部室が手に入ります.しかも,この部室,基本的に他の授業で使われないので,昼休みの気まずさからの逃亡に使えますよ.」


うん?

「……1個目のアピール,天文部関係ないですけど.」

後輩の自信とアピールの中身が釣り合っている気がしなかった.


後輩は,目をパチパチさせてから数秒考えこんでいた.

「……後は,たまに星を見るので綺麗な星が見れます.」


「……何だったの?さっきの自信は?」

どうやら,後輩はアホらしい.


「ぐぬぬ.とりあえず良いところは思いつかないので,一旦,先輩のカウンセリングでもしましょうか.」


「何で?」

流れとかそういうのを超越した発言だった.


「カウンセリングは必要です.いえ,良く分からない感情は話した方が楽になると思いますよ.」


「いや,そうかもだけどさ.急すぎて」


「人生は急展開の連続ですよ,先輩.それに,先輩知ってますか?先輩みたいな,状況になって誰にも話さないと長いこと引きずって,情緒がおかしくなりますよ.」


「そうなのね.」

後輩の妙に感情の籠った発言に少し押され気味になっていた.


「そうです.先輩,私が言うなら間違えないです.」


すごく,力の籠った発言だった.まるで

「実体験ですか?」

まるで実体験のようだった.


僕の言葉を受けて後輩は,数秒だまり,辺りをゆっくり見渡してから口を開いた.

「…………違います.」


その長い間が全てを物語っていた.

「絶対そうじゃん.君ぐらい顔キレイでも失恋とかするんですね.」

最低だけど,少し元気になった.


「いろいろと酷いですよ.先輩.本当に最低ですね.まあ,じ実体験ではないですけどね.」


どうでも良い後輩の嘘と優しさ無下にすることも出来ないので

「……まあ,言葉に甘えて,カウンセリング受けますよ.」

とりあえず部活動入部とかはおいておいて,放課後のカウンセリングを受けることにした.

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