第34話 第四章 11
第四章 11
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カミクズが、止まった。
「オオー、こんちは」
「実験?」
「まあね。たまには、少し、遠くに行ってもいいかな、と思ったので。あれっ、今日は学校休みなの?」
「創立記念日」
「そうなんだ」
塚本は、自分が、卒業した小学校だったか中学校だったかの創立記念日が九月一日だったことを思い出していた。
「君の家は、ここなんだ」
「そう、リリックレジデンスって言わなかったっけ?」
「言ってたな。リリックレジデンス」
入り口の玄関横にはめ込まれた銘板を読み上げた。
「大きくて立派な建物だ
「ちょっと、待ってて」
田中君はスマホを取り出した。
部屋にいる母親に塚本がカミクズと一緒に下にいることを話した。
「この前話したおじいさん、カミクズって名前を付けた玩具の実験でここまで来たんだって。ママ見たいでしょ?―――分かった」
田中君は、携帯を切ると、
「ママが下に降りて来るってさ。カミクズ見せてあげて。凄い興味持ってる」
と田中君は、言った。
「いいけど。君はどっかに行くんじゃなかったのか」
「暇だったから、自転車でどっか行くつもりだったけど、中止。ねえ、これ、形(かたち)変えた?」
田中君はしゃがみ込んでカミクズをあっちからこっちから眺める。
「感度をより鋭くするために設計変更したんだ。君が見た時は、この尖がりはなかったんじゃないか?」
塚本は、カミクズの横の尖がりを指さした。
「なかった。僕が見た時より改良されたわけだ」
「そういうことだ」
公園での鋭いスラロームを頭に浮かべながら塚本は答えた
程なく、ワンピースを着た背の高い女性が現われた。
髪を肩まで伸ばした頬が少しふっくらした優しい感じの人である。田中君のママだった。
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