第33話 第四章 10
第四章 10
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「嘘ついちゃったな」
ベンチに腰をおろした塚本は、カミクズに語りかけた。
カミクズが、左右に揺れた。
塚本は、村田の名刺をワイシャツの胸ポケットから取り出して改めて眺める。
「取材は絶対ダメと拒否すべきだったかも知れないが、この人の真剣な顔見たら、絶対ダメだなんて言えなかったんだよ」
塚本はカミクズに向かって名刺を軽く振って続けた。
「協力ありがとう」
カミクズは、無反応だった。
「さあ、行こうか」
立ち上がった塚本は空を見上げた。グルリを首を回して空全体を仰ぎ見た。どこにも、カラスの姿がないのを確認した。
カミクズは、公園の入り口まで塚本の前を転がったが、入り口を出て左方向に行くところで斜め後ろにつく形になった。
もう少しで次の曲がり角というところでカミクズが、前に出た。
あれっ、と思った瞬間、カミクズはそのまま青信号の横断歩道を渡って行く。引き留める声を掛ける間もなかった。塚本は、慌てて追いかける。
カミクズは、向こう側の歩道に乗っかり、まっすぐ転がって行く。
NFCテレビの連中に映像を撮らせたことが関係しているのか。
「おい、怒ったのか?」
声をかける。
「止まってくれ」
だが、カミクズは、塚本の言葉を無視するかに前へ前へと歩道の上を転がって行く。
いつになったら止まってくれるのか。
塚本は、不安になったが、無理やり前に回って止めるのはやめた。
カミクズの謎が解明されるヒントが得られるかも知れない。そんな考えが頭に閃(ひらめ)いたからだ。
不安を感じながら、後を追いかけた。
カミクズのスピードが、急激に落ちた。
草が生えた駐車場にしたら、十数台が入れだろう空き地の前を通り、椋木マンションと書かれた灰色の建物の前をゆっくり転がって行く。
超常現象の産物にはふさわしくないエネルギー切れという言葉が頭をよぎった。
塚本はペットケースの扉を開けた。カミクズの前に回ってアスファルトの上に置けば、ピョンと入ってくれる可能性もある。
「まあ、待て」と、塚本は、自らに言い聞かせペット用ケースの扉を閉めた。カミクズの謎の何かを得られるチャンスを逃してはいけない。完全に止まるまでペット用ケースを地面に置くのは待とう。
椋木マンションの隣には、かなり大きな茶色の建物があった。
金属製の塀に囲まれている。
建物の入り口から男の子が出てきた。
「おじさん」
田中君だった。
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