第32話 第四章 9
第四章 9
9
「私がリモコンの装置を持ってカミクズを動かすところを映したいわけですか」
「はい、ええっと、これ名前あるんですか?」
「カミクズです」
「えっ」
「だから、カミクズが名前です。片仮名でカミクズと書きます」
「片仮名でカミクズですか、単純明快でいいですね」
「うまく撮れますかね。時々、ご機嫌斜めになるんですよ。少し離れていただけますか」
塚本の要望にNFCの人間は、ベンチからそれぞれ距離を置いた。
協力してくれよ。
塚本は、しゃがみこむと、ベンチの下のカミクズにリモコンを見せながら、ボタンを押した。
軽やかな音を立てて、カミクズが出て来たのにほっとする。
さて、カミクズは、彼らにどんな動きを見せるつもりなのか。
彼らの見守る中でベンチの近くで円を描くといったような感じになるのか、最近、よく見せるオムライス山の下の石壁に沿って一周する方を選ぶ可能性もある。
どうする?
カミクズは、どんどん、ベンチから離れて行く。
「石壁に沿ってあの小山向こうをグルリと回ってきますので、皆さん、こちら側で待っていてくだされば、と」
塚本はカミクズの後ろに続きながら言った。
「分かりました」
村田が、答えた。
カミクズは、快調に転がって行く。
ここまで来たら、元家電メーカーの研究者としてのプライドもあって、絶対に途中で止まって欲しくなかった。
オムライス山の向こう側NFCの人間に見えない場所で、急にカミクズは、スピードを変えた。
塚本とカミクズの間が少し開いた。
「かっこうよく回ってやれ」
カミクズに声をかける。
その声に応えるかにカミクズが、カーブをスムーズに曲がり、テレビ局のスタッフ達の視界に入る場所に出て来る。
カメラマンが、映像カメラを地面につけるようにしてオムライス山の中程で転がって来るカミクズを待ち構えている。ガンマンクが降りて来て、地面を転がる音を録音する。
「速い」
カメラマンが、小走りにバックして再び映像カメラを低く構える。
カミクズは、小さな連続スラロームをして止まった。
塚本がこれまで見たことがないターンの鋭さだった。
村田と女性レポーターが揃って拍手した。
「スラローム、素晴らしいです」
村田の言葉に
「可愛くて凄いです。特殊な樹脂をコーティングしていると言われてても、白さを保っているのが、本当に不思議に見えます」
女子アナの言葉が続く。
「いや、まだまだです。改良したい部分が幾つもあります」
「頑張ってください。間違っても我々勝手に放映することありませんからご安心ください」
村田は、こう言った後、塚本の過去の経歴や現在の暮らしについて質問して来た。必要最小限の言葉で塚本は答えを返した。
塚本が、村田にパソコンのメールアドレスを教えるとNFCテレビの人間は帰って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます