第24話 第四章 1

第四章 1

           1

 三日連続の雨である。散歩は、今日も中止である。

 梅雨の時期は仕方ない。


 午後になって、塚本は、私鉄の駅の向こう側の図書館に行った。雨は激しくなく、図書館までの道のりは十数分、適度の運動せねば、の気持ちもあった。


 小さなバッグの中に二冊の借りた本を入れて帰る途中、塚本は、新しく出来た帽子専門店に立ち寄った。このところ暑い日が時々あり水筒を肩から掛けるようにしているが、夏ともなれば、帽子も必需品となる。家には、古くからのが、ふたつばかりあるが、新しいのを買うことにしたのだった。


 店に入ると、中年の女性店主が軽く会釈する。

 スペースは、広くないが、男性用、女性用、様々な帽子が陳列されている。


 日よけが目的なので、つば付きの帽子を捜す。頭にかぶる部分が白くつばの部分が明るい茶色の帽子があった。

 サイズを確認した後、縦長の姿見の前で頭の上と五センチ位離して、被った時のイメージを想像してみる。どうだろう?

「軽く被ってもよろしいですか」

 塚本は、聞いた。

  

「どうぞ、どうぞ」

 女性店主が、傍らまでやってくる。

 帽子を乗せた自分の姿にちょっとばかりダンディーになったかな、と思う。

「お似合いですよ」

 女性店主が、微笑ながら言った。

 買うことにした。女性店主は、紙袋に入れ、持ちやすいように、大きめの手提げ袋に入れてくれた。

 

 フレッシュな気持ちを保つためにおしゃれも大切だな、と塚本の足取りは軽くなった。

 

 帽子を入れた紙袋を下げての帰り道、塚本は、[柿江市役所]と書かれたタスキをかけた職員が、駅の屋根の下でビラを配っているのを目にした。市役所の人間が、ビラを配る光景に遭遇したのは、この街に来て初めてである。

塚本は、チラシを受け取った。


 大きな黒い文字が踊っている。

      [ペットを襲う凶暴カラスにご注意を]

 最近、市内東二丁目~五丁目の範囲内でカラスが、犬や猫のペットを襲うという出来事が起きています。小さなペットばかりでなく、中型犬までも、背中を鋭い嘴で執拗に攻撃され、血を流すという事態になっております。住民の皆様には、ペットの管理には十分ご注意していただくようお願いいたします。現在のところ、無法行為を行うカラスは一羽のみです。体の細いカラスであった、との情報を複数得ております。

                            柿江市安全管理室

 

 電話番号、FAX番号、メールアドレスが記されていた。

カラスが凶暴とは言っても、嘴を突き刺したり、中型犬までも襲うというのは、塚本の想像を超えていた。


 チラシを読み終わった塚本の頭には、クエエッ、と鳴くあの痩せたカラスの姿が描かれている。

 レンが平田さんの家にやって来た日、痩せたカラスが、平田さんの家のコンクリートのベランダに降り立ったのは、偶然でない。部屋の中にゴンジロウやレンがいたからではないのか。そんな風に思えて来る。あの時は、平田さんがボールに入れた水をひっかけたのに逃げ去ったが、今日までの間に凶暴性が、痩せたカラスの中で膨張した可能性もある。

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