第25話 第四章 2

       第四章 2

          2

平田さんは、このニュースを知っているだろうか。榊コーポは、東二丁目である。知らせておいた方がいいだろう。


 塚本は、自分の部屋に入る前に一〇一号室のインターフォンを押した。 

「アッ、ちょっ、ちょっと待ってください」

 慌てて気味に答えた平田さんは。少しの間をおいて、ドアを開けた。盛んに髪を掌で撫で付けている。


「すいません。お昼寝してたものですから」

「そうでしたか、すいません。いや、今、駅前で市役所の人がこんなチラシ配布していたんで、ご存知かと」

 塚本は、四つ折りにしていたチラシを開いて平田さんに手渡した。


「ええっ、ペットを襲うカラスですか?」

 老眼なのだろう。平田さんは、チラシを目から遠ざけるように離して読み始める。


「やだぁ、こんなニュース、知りませんでした」

 平田さんは、驚きの表情でサンダルを突っかけて、ドアの外に出て来た。

「カラスってペットを襲ったりするものなんですか?」


「私は、一度だけ、目撃したことがあります。餌を横取りするためだったようですが。それと、巣がある近くでは人間も襲われるみたいです」


「だけど、このチラシでは、巣作りなんかとは、関係なしに襲うっていうことでしょ」

「そうですね」

「嘴で突き刺すっていうのは、怖いわ」


「私の勝手な想像なんですけど、この前、平田さんが、ボールの水をかけて追い払ったカラス、あれじゃないかと思うんですよ」

「あの鳥ね。私もこの目撃情報の部分読んで思った。だけど、全体的イメージは、確かにここに書いてあるように細いカラスだったけど、カラスの目じゃなかった。本当に怖い目をして私を睨んだんですよ。それに鳴き声だってカラスっぽくなかった。声についての情報はあったのかしら?よく分からないけど、姿形(すがたかたち)は似ているけどカラスよりもっと凶暴な鳥」

 平田さんは、言った。


「ゴンジロウもレンもしばらくは、うちの中で遊ばせておいた方が」

「私がついてないとレンは表に出さないけど、ゴンジロウが心配です。とにかく、一日一回は表に出ないと気が済まない子だから。」


「このビラさしあげます」

「すいません」

 平田さんは、チラシを手に一〇一号室の中に入って行った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る